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藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~

藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)

藤井聡

緊急事態宣言を「緩和」するタイミングこそ、ウイルス“撲滅”の抑圧戦略からウイルスと“付き合う”緩和戦略へと転換すべき時である
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しかし、彼らは何も分かってないのです・・・今政府が進める(全員の社会接触の8割の削減を目指す)「一律的な行動抑圧」以外にも、夥しい数の感染症の対策があることを。そしてその中には、より効果的でしかも経済的ダメージを劇的に縮小することが大いに期待できる方法があることを・・・にも関わらず、政府は(何もしなければ、極端なケースでは40万人を超える死者がでるという数値計算結果を示した)「西浦」教授というたった一人のたった一つの数値計算だけを頼りに、全国一律に緊急事態宣言を発令しました。これで、日本経済はさらに深く傷つき、十分な給付も行われないまま多くの企業や店舗が倒産し、失業者が拡大し、貧困者と自殺者数が一気に拡大してしまうのです・・・そして、挙げ句の果てに、感染死者数すら、今の戦略によって「拡大」してしまうことすら懸念されるのです・・・。 そこに思いが及んだとき、やり場のない憤りと悲しみに襲われてしまったわけです。 なぜ筆者がそのように瞬時にして理解できてしまったのか・・・それについて、順をおって説明したいと思います。 (1)西浦教授達の「クラスター潰し戦略」は失敗する疑義が極めて濃厚 まず、今政府が準拠している西浦教授達の目標は、「クラスター潰しができる状態を作る」というものです。クラスター対策とは、感染者を見つけ出し、その濃厚接触者(ならびにその濃厚接触者)全員を洗い出し、彼らを全て検査して感染者(あるいは、集団感染=クラスター)を見つけ出す、という事を繰り返し、「完璧」にそのウイルスを撲滅するという方法です。 彼らは確かにこうした方法で、確実にこれまで感染症の拡大を防いできた実績を持っています。 しかし、筆者は、ほぼ100%間違い無く、彼らのこの試みは失敗すると確信しています(この一点が、私藤井と西浦教授との見解の本質的相違です)。 なぜなら、致死率が数割にも及ぶSARSやMERS、エボラ出血熱といった毒性の強いウイルスの場合は、感染者が無自覚なまま自由に歩き回ることは少なく、したがって感染者を見つけ出し、クラスター潰しをすることは比較的容易です。 しかし、今回のCOVID19は、それらよりも圧倒的に毒性が低く、感染者の半数程度が無自覚であり、症状があってもかなりの割合が単なる「風邪引き」程度の症状で終わってしまうのです。しかも、死亡率についても(4月13日時点で)日本では1.4%に過ぎません。そして50歳以下に絞れば死亡率は0.1%、40歳以下ならば実に完全な「ゼロ」となっている程に毒性が低いのです。 したがって、どれだけ努力しようが、一旦感染がここまで広まってしまったが最後、無自覚・軽症感染者が多かれ少なかれ感染を継続させてしまい、クラスター潰しが目的としている「ウイルスを完全に撲滅する」ということが成功できるとは考えられないわけです。 しかも、西浦先生達がそれに万に一つも成功したとしても、彼らは世界中のクラスターを全て潰しきることなどできません。そうであれば、日本が鎖国でもしない限り、中国から今年の1月に感染者がやってきてそれによってここまで感染が拡大したように、外国から早晩感染者がやってきて、感染が広がることになってしまうでしょう。 したがって、西浦教授達の「クラスター潰し作戦」が成功する確率は(ゼロとまでは言いませんが)絶望的に低いと言わざるを得ないのです。 (2)無理をして「クラスター潰し戦略」を続けると、長期適時感染死者数はかえって激増 にも関わらず、政府は、西浦教授達が主張する「クラスター潰し戦略」が成功する、という一点に賭け、全国に緊急事態宣言を発令し、社会経済活動を大きく抑制しようとしています。 これは極めてリスキーな選択です。 まず第一に、感染死者の大半を占める高齢者と若年者の区別をせずに、全員一律に「2割の社会接触を許容」している点にあります。その結果(具体的な数値は追って示しますが)、高齢者が数多く感染死、死者数が増加してしまうことになります。 ただし、より深刻な問題は、以下に述べる「第二の問題点」です。 言うまでも無く、これを続ければ一旦は感染拡大は収まり、収束に向かいます。 そして、西浦教授達が「ここまで下がればまた、クラスター潰し作戦が可能となる」と踏み、社会活動の抑制を解除すれば何が起こるかと言えば―――必ずまた、どこかで、西浦教授達の知らない間にクラスターが発生してしまい、そこを起点として再び感染が全国に拡大していくことになってしまうのです(先にも述べたように、仮に国内で完全撲滅に成功したとしても、海外から早晩輸入されてしまいます)(なお、夏期には一旦収束したように見える可能性はありますが、その場合でも秋口から第二の流行が始まることとなるでしょう)。 そうなればまた、政府は(例えば筆者のアドバイスを聞き入れて方針転換でもしない限りまた)同じように8割の接触自粛を要請することになるでしょう。 つまり、西浦教授達のクラスター作戦に固執する限り、こうした抑圧→(収束)→緩和→(感染拡大)→抑圧→(収束)→緩和→・・・を、ワクチンが発明される(あるいは、国民の多くが抗体を身につける)まで繰り返すことになるのです。 ここで何が危険かというと、緩和の後にやってくる毎回毎回やってくる「感染拡大」が制御不可能な形となるリスクが常にある、という点にあります。そこで医療崩壊のリスクが必ず訪れ、かえってより多くの方々が亡くなっていってしまうことが懸念されるのです。 そして言うまでも無く、このアプローチでは、毎回、無理矢理、横車を押すように「抑圧」をかけますから、経済が激しく傷ついていき、それを通して倒産、失業、貧困、自殺が指数関数的に拡大していくという問題もあります。 ・・・・ 以上が、今の政府方針(=西浦教授達のクラスター潰し方針)が「ほぼ間違い無く失敗するであろう」ということ、そして、「その課程で帰ってより多くの方々が感染で死んでしまうであろう」さらには「途轍もなく経済が傷つき、それによる自殺者数も数十万人程度に及ぶだろう」という風に考えている理由です。 以上のプロセスを直感したが故に、筆者の精神に激しい憤りと悲しみが去来することになったわけです・・・(もちろん、筆者の直感が誤っていればそれに越したことはないのですが、どう考えてもそうは思えないのが、筆者の偽らざる心境です)。 (3)感染死者数を最小化するためにも、抑圧戦略から「緩和」戦略へ では他にどういう方法があるのかというと・・・それは、以上を「抑圧」戦略と呼ぶなら、以下のような「緩和」戦略と呼ばれるものです。 言い換えるならそれは、「ウイルス押さえ込み戦略」ではなく「ウイルスと付き合っていく戦略」です。 この「緩和」戦略、あるいは「ウイルスと付き合っていく戦略」の最大の特徴は、このウイルスは完全に抑え込めるものではない、という一点を出発点に据えるところにあります。 その上で、このウイルスが常にどこかに潜んでいるという前提を置きながら、 「その被害を最小化しよう」 と試みるわけです。 この視点に立ったとき最も重要になってくるのが、このウイルスがどこで「広がるのか」、誰において「死をもたらすのか」という、ウイルスの特徴についての基礎情報です。 まだ未知な点も多いウイルスですが、それでもなお、分かってきていることもいくつかあります。 その中でも、この「緩和」戦略においてとりわけ重要なのが以下の二点の基本的性質です。 <1>このウイルスは、高齢者(および基礎疾患者と妊婦)において、死亡リスクが高いが、それ以外においては、死亡リスクは1%を遙かに下回る程に低い。 https://www.facebook.com/photo.php?fbid=2429162927184636&set=a.236228089811475&type=3&theater <2>このウイルスは、「換気」さえ十分であれば、空気感染のリスクは低く、飛沫あるいは接触感染が優越する(と考えられている)。 この二つの特徴を踏まえれば、コロナの被害を最小化するには、次のような 「5つの対策」 が合理的である、ということが見えてきます。 【1.高齢者等の保護】徹底的なコロナ弱者(高齢者/基礎疾患者)の保護。 これが完璧に遂行できれば、理論的には死者数は99%程度カットすることができる。したがって具体策としては、コロナ弱者の外出禁止と、コロナ弱者への公共的な生活支援が必要。コロナ弱者同居者の協力、および、その公共的支援も必須。 また、現在の日本の死者の半数近くが老人関連施設や病院における施設・院内感染であることから、老人関連施設・病院における感染症対策を徹底的な行う。 【2.換気徹底】徹底的な「密閉空間」の回避。 密閉空間にて空気感染での多人数の同時感染が散見されることを踏まえ、強力な換気を、「店舗営業の基準」として、それを守らない店舗を取り締まる。そして、換気システム導入に公的資金を導入する 【3.飲食中の発話自粛】(想定される感染者数が多い地域における)自宅外での飲食中の「近接発話」自粛 飛沫感染が「会食」あるいは「おつまみを伴う飲酒」において広がるケースが多いことを踏まえ、飲食中の「近接した距離での発話」の自粛を要請。また、「飲食中の近接発話自粛」が困難な業態の店舗(クラブ、ラウンジ、スナック、バー、居酒屋など)の営業自粛。ただし、開業自粛は、給付とセットとする。 (なお、自宅内においては、社会学的必要性とクラスターのサイズの小ささの双方を鑑み、自粛要請しない) 【4.カラオケ・性風俗店など自粛】間接・直接の粘膜接触が不可避な業態の店舗開業自粛 性風俗店、カラオケ店などは、直接的・間接的な粘膜接触が不可避な業態は、クラスター形成のリスクが高いことから、営業自粛。ただし、開業自粛は、給付とセットとする。 【5.手洗いマスク等】対策5:「手洗い」「うがい」「顔を触らない」「発話時のマスク着用」「咳エチケット」の徹底要請 (4)COVID19については、「抑圧戦略」より「緩和戦略」の方が被害が圧倒的に低い 以上の5対策は、全てあわせても「全員の社会接触の8割要請」よりも圧倒的に「社会経済的コスト」が圧倒的に低いのが特徴です。 なぜなら、以上の5つを徹底しても、健康な非高齢者は、カラオケや飲食中の会話の自粛し、手洗いうがいマスク着用などを徹底すれば(夜の繁華街の飲食・風俗店を除けば)、基本的な社会経済活動を全て継続できるからです。 また、これらの3.4.は、感染がそれほど広がっていない地域(現在なら、岩手や鳥取など)では、許容する集団サイズを(例えば、3人以下、5人以下、10人以下、20人以下等と)段階的に設定する、という基準を設けておけば、感染リスクをほとんど上げることなく、経済活動を大きく駆動させることが可能となります。 だから、この「5つの対策」を採用すれば、GDP、つまり国民一人一人の所得の下落を、このコロナ下において「最小化」することが期待できるのです。これが、この「緩和」戦略の第一のメリットです。 なお、もちろんこの「5つの対策」を図っていても、基礎疾患の無い若者の間で一定水準で感染が残存し続ける可能性がありますが、1.の「コロナ弱者の保護」を通して、死者数を最小限に抑えることができます(繰り返しますが、それだけで、死者数を数パーセントに抑制可能となるからです)。結果(重症者を抑制でき)、医療崩壊リスクも最小化できるのです。これが、この「緩和」戦略の第二のメリットです。 しかも、この五つを完全に奨励しても、感染を「ゼロ」にすることはできませんが、それは「8割の接触削減」戦略でも感染リスクが五分の一になる「だけ」ですから、感染は「ゼロ」にはならないので、同じと言えます。というか、上記の1.3.4.は、状況に応じていくらでも「厳しい」水準で推進できるため、状況によっては、「8割接触削減」戦略よりも、感染リスクをより低減することも期待できます。 そもそも、「8割接触削減」戦略は、どういうシチュエーションで感染リスクが高いのか、あるいは、低いのかという条件を「一切」無視した戦略であるが故に、感染リスクの抑制において著しく「不合理」である一方、感染リスクの高いシチュエーションが何かを同定してから、そのシチュエーションだけを重点的に「抑え込む」ために、「合理的」「効率的」に感染リスクを低減させることができるのです。 しかも、「8割接触削減」という抑圧戦略は、「感染症と闘う限られた戦力/エネルギー」を全体にまんべんなく投入するため、著しく不効率であり、したがって、「完全に抑圧しよう」とするために膨大なエネルギーが必要とされるのです。9割削減までに投入されるエネルギー量よりも、残りの1割を全て消滅させるためにエネルギー量の方が甚大になり得るからです。 一方で、「5つの対策」からなる緩和戦略は、その限られた戦力/資産を効果的に投入してくのみならず、かつ、「完全なる撲滅」を目指さないため必要とされるトータルのエネルギーも、抑圧戦略よりも少なくて済むのです。 したがって、逆に言うなら、両戦略に同等のエネルギーを投入するなら、抑圧戦略より緩和戦略の方が圧倒的に感染を抑止でき、かつ、その被害を抑止できるのです。 そして最後に(これが実は最も重要な点なのですが)、こうした若者の間の罹患者を少しずつ拡大していく方略をとっておけば、「抗体」を持つ人口割合を、医療崩壊と経済崩壊の双方を回避しつつ、徐々に上げていくことができるのです。そうなれば、「抑圧」戦略下で大なる可能性で危惧される「感染拡大→(抑圧)→収束→感染拡大→(抑圧)→収束→・・・」という無限ループを回避しつつ、日本人全体に「効率的」に「集団免疫」を付けさせていくことが期待できるのです。そうなれば、何の政策を展開しなくても、自然に感染は終息することになります。これが、第四番目の、そして最大のメリットです。 (5)非常事態宣言の「緩和」のタイミングこそ、「抑圧戦略」から「緩和戦略」への絶好の転換時点である 以上、緩和戦略が抑圧戦略よりも圧倒的に効果的である論拠を述べました。ご一読いただいた皆様はどうお考えになるでしょうか・・・? 当方は、この問題についてそれなりに長い時間をかけて考察し、COVID19の毒性や特性を踏まえたとき、抑圧戦略よりも緩和戦略の方が、あらゆる側面で圧倒的に優越していると確信していますが・・・・そうでないとお考えの方は是非、その合理的根拠と共にその旨を教えていただきたいと思います。 なお、COVID19についての新しい性質が明らかになれば、5つの戦略を微調整していくことはもちろん必要になるでしょう。しかし、それは、緩和戦略の不当性を証明することになりません。 なぜなら緩和戦略とは、敵(=COVID19)の性質を的確に見定めながら、効果的な対策を限られた資源と情報の下、最善を尽くして対策を図ろうとする態度そのものを言うからです。 (ただし、万一、変異してさらに毒性が強くなったことことが分かれば、抑圧戦略を徹底していくことが必要になるでしょう。なぜなら、そうなれば、そのウイルスは人目をさけて潜在することが難しくなるからです。) ・・・では、いつ、この抑圧戦略から緩和戦略に転換すべきなのかと言えば・・・・西浦教授の指導で進める抑圧戦略が、とにもかくにも一定程度成功を収め、現在の「緊急事態宣言」が「緩和」される時だと考えます。 もちろん、その時点から、西浦教授達のグループは、「クラスター潰し作戦」の継続を進めようとするでしょう。 筆者はそれはそれで大歓迎だと考えます。 筆者がここで主張したいのは、そうした西浦教授達のグループによるそうした取り組みと「併せて」、以上に述べた「緩和戦略」的要素を「織り交ぜていく」ことが、合理的なのではないかと考えているのです。 そもそもこれは、COVID19との「戦」(いくさ)。です。 そして、「戦」に勝つには、 「敵を知り己を知れば百戦殆うからず」 という態度が求められているのです。 これはつまり、敵の特徴、己の特徴をしっかりと認識し、それに併せて臨機応変に戦い方を考えることができれば、必ず戦に勝てるが、そういう臨機応変さをなくせば必ず戦にまける、という格言です。 だから、この格言に従うのなら、敵であるCOVID19の特徴を無視し、これまで「クラスター潰し戦略」が成功してきたからということで、それに固執し続けるような態度では、戦には勝てないのです。 だから筆者は、このCOVID19に関しては、より柔軟な対応を図ろうとする「5つの対策」を基本とする緩和戦略が得策なのではないかと考えているのです。 本論考が一人でも多くの国民に読まれ、理解され、そして、一人でも多くの感染症研究者と為政者達に読まれ、理解され、日本のCOVID19対策が、公益毀損を最小化する方向で展開されることを、心から祈念いたします。 (有料メルマガ読者の皆様には大変恐縮ですが、ここまで書き終えて思い至りましたが、本稿は、日本の感染症対策の方針を転換させるにあたって、重大な意味を持ちうるものではないかと考えましたので、この原稿に限っては今回無料で配信したいと思います。何卒ご容赦願えますと幸いです) //////////////////////////////////////////////////////////////// 本ウェブマガジンに対するご意見、ご感想は、このメールアドレス宛に返信をお願いいたします。 //////////////////////////////////////////////////////////////// ■ ウェブマガジンの購読や課金に関するお問い合わせはこちら   info@foomii.com ■ 配信停止はこちらから:https://foomii.com/mypage/ 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