前評判がそれほど高くなかった日本代表、いわゆる森保ジャパンが、W杯カタール大会の初戦で強豪ドイツに勝利した。引き分けで御の字という期待と観測が日本人の大半で、勝利を予想していた者は少ない。奇跡が起きたように見える。だが、BBCの解説者で元イングランド代表のクリス・サットンは、事前予想で日本が2対1で勝つと見通しを立てていて、スコアまで的中させる快挙を遂げた。24日時点でグループステージ第1ラウンド16試合中12試合の結果を言い当てており、サットンの分析のスキルの高さに舌を巻く。サッカーの母国である英国の、しかも公共放送の解説者だから、発言内容は内外から注目される。重責がかかり精度が求められる仕事だ。 日本勝利のサプライズ予想を立てることは、立場と職責からして勇気を要したに違いない。凡人の解説者なら、無難にドイツ勝利を言い置いて済ますところだ。その予想が外れても何も非難を受けることはないし、後で番狂わせの結果に驚くコメントを俗世に合わせて垂れればいい。無能だと責められることはない。サットンは独自の視点と分析に自信があったから大胆な予想を発表した。臆せずプロとしての行動に出た。ドイツが勝っていれば、売名が過ぎるとか、お騒がせ屋だとか、奇を衒う捻くれ者だか、予測にバイアスを入れすぎるとか悪口が飛んだだろう。果敢にチャレンジして、見事に大魚を釣り上げた。サットンの予想はファインプレーで、その有能と胆力に拍手を送っていい。 ■ウクライナ・ファティーグ サットンに倣って、ウクライナ戦争を大胆に予想してみよう。この戦争の名前はウクライナ戦争で、ロシアとウクライナの戦争だが、実際にはロシアとアメリカ(NATO)との戦争であり、事実上の第三次世界大戦である。第三次世界大戦の序盤戦が始まっている。9か月経った時点で、戦況はロシアが大きく負けて膠着した状態にある。戦局と軍事力の彼我を客観視すれば、あと一押しでNATOはロシア軍を南部2州から駆逐することができ、東部2州の掃討も射程に収めた段階にある。バルバロッサ作戦の1941年11月時点というところだろうか。優勢に進めるアメリカ側で作戦を主導するCIAは、カラー革命によるプーチン失脚を目標に据え、それを戦争勝利と定義しているため、戦争長期化をマネジメントしている。 主導権を握って押しながら、軍事的に華々しい決着をつける計画を持っていない。柿の実が熟して落ちるのを待つように、ロシア軍が継戦能力を失い、ロシア国内でプーチンレジーム打倒の「革命」かクーデターが起きる構想を立て、そのゴールめざして周到に詰めている。核を使わせずに勝つという戦略だから、軍事的に短期で大きな打撃や損失を与える作戦の選択は避けているのだ。ただ、アメリカの作戦設計にリスクやホールが無いかといえば、決してそうではない。アメリカにとっての最大の脅威は、ウクライナ・ファティーグ(ウクライナ支援疲れ)の空気であり、その波が欧州大陸を席巻し、アメリカ本国に押し寄せて政治を動かす悪夢である。ヒトラーのバルバロッサ作戦の前にたちはだかった冬将軍のような敵援軍の出現だ。… … …(記事全文4,893文字)