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天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説

天木直人(元外交官・作家)

天木直人

小泉訪朝の謎がひとつ解けた!
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□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■  天木直人のメールマガジン2012年9月17日第696号 ■   ==============================================================    小泉訪朝の謎がひとつ解けた!  ==============================================================  いまはもう絶版になっているので古本屋でしか入手できなくなったが、 私が世の中に知られるようになったのは「さらば外務省!」(講談社) を上梓して小泉外交を正面から批判したからであった。  イラク戦争に反対して私が外務省から解雇されたのは2003年8月 のことだった。  その直後の10月に、私はあの本でイラク戦争支持した日本外交の誤 りを指摘し、小泉首相と外務官僚の対米従属外交を糾弾した。  しかし、私があの本で、イラク戦争支持と同じように、いやある意味で もっと激しく糾弾したもう一つの小泉外交が北朝鮮の電撃訪問と平壌宣言 であった。  日朝国交正常化を目指すことは正しい。  そしてその正常化交渉の過程で懸案の拉致問題を包括的に解決しよう とした事も正しい。  しかし、この日本外交の最大の懸案の一つを、歴史に名をとどめたい という野心にかられた小泉首相と、出世を焦ったかつての同僚である 田中均という外務官僚が、功を焦って拉致被害者の人命をあまりにも軽視 したのではないか、私はそう批判したのだ。  その事を私は次のような表現で繰り返し書いた。  もしあの時、彼らが5人生存、8人死亡という情報を知らされていなが ら、それを国民に知らせずに平壌宣言署名を決めていたとしたら、これほ ど拉致被害者とその家族にとって残酷なことは無い。  しかし、もしあの時、拉致被害者の生死についてのはっきりした情報を 受けないまま(つまり何人が生存し、何人が死亡しているといった明確な 数字をつかまないままで)ただ漠然と北朝鮮側が拉致の事実を認め、何人 かを帰すという情報だけで平壌宣言の署名をするつもりで出かけて行き、 そこではじめて8人の死亡を知らされたのも関わらず、その場で平壌宣言 に署名したとしたら、もっと卑劣だ、と。  真相はどちらであるかはもちろん私にはわからない。  それを示す報道はどこにもなかった。  しかしたとえどちらであったにせよ国交正常化という大事の前には拉致 被害者の生死など二の次だということだ。  それがもし、信念としてそう考えていたのならそれは一つの政治判断だ。  つまり国民の犠牲は、より大きな国家の大事の前には、時として甘受しな ければならない、どんなに拉致被害者家族から批判されても、あえてそれを 一身に受けて、何があっても国交正常化を進める。それが大局に立った正し い歴史的判断だ。  もしそのような覚悟が小泉首相と田中均氏にあったなら、たとえその考え に賛成出来なくても、私は批判することはなかっただろう。  いまごろ拉致問題は解決していただろう。歴史の歯車は動いたかもしれない。  しかし、そうではなかった。  あまりの残酷な知らせの前に、拉致被害者家族は悲しみ、怒り、そして 世論はそれに同情した。私もその一人だ。  その勢いにおされて小泉首相と田中均氏は約束を反故にし、その結果日朝 関係は振り出しに戻り、逆に全く膠着してしまった。  北朝鮮側は対日不信で凝り固まり、他方において日本の世論は北朝鮮に対 する強硬姿勢を募らせて政府にそれを求めた。  そのような小泉訪朝から10年目を迎えたきょう9月17日の各紙は拉致 問題特集記事を競っている。  その中で私が注目したのは9月17日の産経新聞紙上で語っていた福田 康夫当時官房長官の次の言葉だ。  彼は言う。具体的なことはわからなかったが、拉致被害者の生存に確信を 持ったことが小泉氏が訪朝に踏み切った最大の理由だと。すなわち、生存者 がいると言う話はいろいろな情報筋から聞いていた。しかし5人生存、8人 死亡という通告を受けたのは小泉氏が訪朝し、首脳会談をする直前に田中氏 が北朝鮮側から通告されたのだ、と。  少なくともこれで一つの事実がはっきりしたということだ。  私の推測の二番目のシナリオであったということだ。  いまから思い起こせば当時の報道では、同行した安倍晋三官房副長官など はこの通告を受けた以上一旦持ち帰って対応を検討しなおすべきだと主張し たとあった。  しかし、そんな事をすればもはや平壌宣言は二度と合意出来ない、署名 するしかない、小泉首相と田中均氏はその場でそう決断して署名したのだ。  繰り返して言うように、それが政治信念に基づいた覚悟あるものであれば それは一つの判断だ。  どんなに批判を浴びようと国交正常化を優先し、突き進めばよかった。  しかし現実には横田めぐみさんたちの死亡という衝撃と世論の反応の前に 帰国した後にたじろがざるを得なかったのだ。  実は小泉・田中コンビの拉致問題解決が頓挫したのはもう一つの理由、 すなわち米国の激怒があったのだが、そしてこちらのほうがより大きな 理由であったのだが、その事については別の機会に書くこととする。                                 了   ──────────────────────────────── 購読・配信・課金などのお問合せやトラブルは、 メルマガ配信会社フーミー info@foomii.com までご連絡ください。 ──────────────────────────────── 編集・発行:天木直人 ウェブサイト:http://www.amakiblog.com/ 登録/配信中止はこちら:https://foomii.com/mypage/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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