□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2012年3月14日第203号 ■ ========================================================= なぜアサド政権の虐殺に国際社会は打つ手がないのか ======================================================== 中東情勢に関心のある日本人は少ない。そのなかでもシリア 情勢についてはなおさらだ。 しかしレバノンというシリアの隣国に勤務し、アサド政権の非道 ぶりを目の当たりにしてきた私にとっては、アサド政権の市民虐殺 を前にして打つ手のない国際社会に耐えられない思いの毎日だ。 3月13日の新聞もまたシリアで女性とこどもの47人の虐殺遺体 が見つかったと報じた。 反体制派はこれをアサド政権の虐殺として国連安保理に緊急会合 の召集を求め、アサド側はテロリストの仕業だと言う。 いずれにせよ無辜の市民が犠牲になったことだけ誰も否定できない 事実だ。 なぜ国際社会は無力なのか。 いや、国際社会という曖昧な言葉は不正確だ。 世界中の国民は皆心を痛めているはずだ。 国民はいつでも、どこでも、平和を望んでいる。 責められるべきは国際社会ではなく世界を動かす主要国の指導者 たちなのである。 なぜ世界の主要国はシリアのアサド政権の存続を、積極的に、 あるいは消極的に、認めるのか。 それに対するまともな答えを語る日本のメディアを私は知らない。 そんな中で、数日前に送られてきた「アジア記者クラブ通信」の 最新号(3月5日号)に、青山弘之という東京外国語大学准教授の 答を見つけた。 さる1月24日にアジア記者クラブの定例会で講演した講演録が 掲載されていた。 その要旨は一言でいえばこうだ。 アサド政権は反イスラエル・反米の急先鋒であるが、同時にイス ラエル・米国の敵であるアラブ過激派を抑える軍事力を持つ都合の いい政権だ。 アサド政権が民主主義政権に交代することを表立って反対は出来 ないが、新たな民主政権が反米・反イスラエルになれば都合が悪い。 国内が混乱してその隙に過激派がもぐりこんでくればもっと都合 が悪い。 かといって傀儡政権樹立に表立って動いては世界から反発を買う。 だからアサド政権の打倒を急ぐ必要はないのだ。 ロシアと中国のアサド政権支持はもっとわかりやすい。 アサド政権下で樹立した既得権益を手放したくない。それどころか アサド政権の苦境の時に恩を売って、アサド政権との更なる関係強化 を図るチャンスだ。 それに、ロシアも中国も、アサド政権が倒れ、国民の反政府運動が 世界に広がり、自らに波及する事を警戒する。 国際社会からの介入を認めるわけにはいかないのだ。 サウジアラビアなどの王族政権は、シリアにイラン直轄のシーア派 強硬政権が出来ると都合が悪い。民主化の影響が及ぶのも怖い。今の アサド政権が続いたほうが都合がいいのだ。 そして何よりもシリア国民だ。 長年の絶対的独裁政権下ではアサド打倒の声をあげて弾圧されるの は怖い、犠牲が大きい。 アサド政権にかわる民主政権が生まれる基盤はなく、下手をすれば 内戦になる。 そこに外国勢力が介入してシリアが外国諸勢力の草刈場となるおそ れが出てくる。 反体制派を支持する外国勢力がシリア国民の味方になる保障はない。 そうであればアサド政権が続いたほうがまだましだと考える国民が 多数いてもおかしくはない。 要するに世界の主要国はそれぞれの政権の都合と思惑でいますぐ アサド政権を打倒する緊急必要性がないのだ。 それを一番知っているのがアサド政権だ。 シリアが混乱していいのか、とすごんで見せればいい。 そしてそれをシリアはすでに繰り返している。 これが国際政治の現実である。 その陰で犠牲になるのは常に一般国民である。 国連による介入が一刻も早く望まれるゆえんである。 あの時ロシアと中国が国連安保理決議に拒否権を発動しなかったら、 シリア情勢は今頃はあるいは異なっていたかもしれないと思うと残念 でならない。 了 ──────────────────────────────── 購読・配信・課金などのお問合せやトラブルは、 メルマガ配信会社フーミー info@foomii.com までご連絡ください ──────────────────────────────── 編集・発行:天木直人 ウェブサイト:http://www.amakiblog.com/ 登録/配信中止はこちら:https://foomii.com/mypage/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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