□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2012年2月16日第131号 ■ ========================================================= アサド政権の暴力に沈黙したままのわが国の護憲論者の限界 ======================================================== かねてより気にかかっていた事を書くことにした。 私をその気にさせたのは2月15日の産経新聞の記事である。 そこにはイラク駐留米軍の元顧問であった英国キングス・ カレッジ・ロンドンのエマ・スカイと言う客員教授のインタビュー 記事が載っていた。 「犠牲者は増え続け、いずれリビアでの死者を上回る」、 「市民が最終的に(シリアのアサド)体制を転覆するまで 大変な流血が予想される」、 「罪のない市民の殺戮が続けば国際社会は道義上座視できなく なる。前回の安保理決議は1回戦に過ぎない」 と述べるエマ・スカイ教授の言葉は重大な意味を含む。 なぜ国際社会はアサド政権の人権蹂躙を止めさせることが できないのか。 それはもちろんロシア、中国の拒否権発動によって国連がその 憲章第7章で謳っている「平和に対する脅威、平和の破壊及び 侵略行為に関する行動」を取れないでいるからだ。 平和を保障する国連の機能麻痺の原因が、もっぱらイスラエル を擁護する米国の拒否権発動せいだけであるなら話は簡単だ。 すべての責任を米国に押しつけて非難すればいい。 ところがロシアや中国といった軍事覇権国が自国の利害関係 によって拒否権を発動して国連の機能を妨げるとなると問題は 複雑で深刻となる。 私は一部が主張するように今度のシリアの反体制運動が欧米の 仕組まれた仕業で引き起こされたものであるとは思わない。 百歩譲って仕掛け人がいたとしても、それがきっかけでいまや 民衆のアサド体制打倒の市民革命に発展していったことは間違い ない。 それほどアサド体制の40年余は苛斂誅求を極めていた。 もはやアサド体制の追放しかシリア情勢の解決はない。 だからこそ今後もアサド体制追放に向けた国際的な動きが続く。 エマ・スカイ教授の言う通り、ロシア、中国の拒否権によって 不成立となった先般の安保理決議はその第一ラウンドに過ぎない のだ。 事実その後様々な国際的動きが出て来ている。 その中でも、国連総会における非難決議採択によって圧力を かける動き(2月12日産経新聞ほか)や、国際刑事裁判所の 場へ人道の罪として訴追する動き(2月12日毎日)などは、 たとえそれが目の前の残虐行為をすぐに止めさせられなくても、 歓迎さるべき国際社会の動きである。 私が一番悩ましいく思うのは、いわゆる有志連合による軍事 介入である。 事実、国連安保理決議がロシア、中国の拒否権発動で不成立 となった直後から、いわゆる「反アサド」有志連合の動きが 欧米・アラブの間で活発化した(2月9日読売)。 私は米英主導のイラク攻撃有志連合には強く反対した。 それを正当化できる状況は当時のイラクにもサダム・フセイン の独裁政権にも見られなかったからだ。 イラク民主化という名の下に米国のイラク占領の意図を知って いたからである。 しかしリビアのカダフィ政権もそうだったが、それ以上に今 のアサド政権は放置できない人道的民衆弾圧を繰り返している。 この非道な弾圧を止める事ができないなら平和を実現する国際 社会の限界が露呈する。 それは取りも直さず憲法9条の危機でもある。 国連が平和を担保できないとなると、自衛戦争や軍事同盟を 正当化する議論が勢いを増す。 かつての弱強食の時代に逆行する誘惑に駆られる。 これほど深刻な憲法9条の危機にも関わらず、日本の護憲論者 たちはシリア情勢について一言も発することはない。 私が日本の護憲論者に限界を感じるのは、まさにこのような国際 政治の現実に直面した時の沈黙である。 了 ──────────────────────────────── 購読・配信・課金などのお問合せやトラブルは、 メルマガ配信会社フーミー info@foomii.com までご連絡ください ──────────────────────────────── 編集・発行:天木直人 ウェブサイト:http://www.amakiblog.com/ 登録/配信中止はこちら:https://foomii.com/mypage/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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天木直人(元外交官・作家)