□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年10月22日第742号 ■ ============================================================= 都はるみの「北の宿から」と中曽根首相の不沈空母発言 ============================================================= 何かの時に話のネタにしてほしいと思って書いている。 誤解が真実になってひとり歩きするというエピソードである。 10月22日の朝日新聞土曜版(BE ON SATURDAY)に 「うたの旅人」という連載がある。 私の愛読記事の一つだ。 そこに書かれているエピソードはいつも興味深い。これから書くこと もその一つである。 阿久悠作詞、小林亜星作曲の「北の宿から」という都はるみのヒット 曲がある。 その歌詞を渡された小林亜星はある一節に目が留まったという。 普通の作詞家なら、ここは絶対に「未練でしょうか」という問いかけ になるがこの女性は違う。誰かに答えを求めるのではなく、自分自身を 客観的に見て「未練でしょう」と突き放している。演歌によくある耐え 忍ぶ女ではない。「自立した新しい女性を描こうとしている。すごい歌 になるぞ」 これが小林亜星の直感であり、実際のところそれが阿久悠の意図する 女であったという。 しかし、演歌特有の言葉が並びすぎていた。 誰もそう理解はせず、カラオケでさえ「未練でしょうか?」と間違 って歌われるほどだが、大ヒットした。 「いじらしい女で売れたのだから、誤解は誤解でよかった」(阿久悠) 「歌は出来上がってしまうと、作者の思いから離れ、勝手に動き始 める」(小林亜星) もはや誰も誤解だと言わない。 この話を聞いた時私は中曽根康弘元首相の「不沈空母」発言を思い出 した。 かつて中曽根首相が初訪米した時(1983年)、ワシントン・ポス ト紙の単独インタビューを受けたことがあった。 その時、日本列島をソ連の脅威に備える「不沈空母」にしなければな らないと発言したと報じられたことがあった。 中曽根首相のタカ派のイメージが決定的になった言葉だ。 ところが実は中曽根首相は不沈空母という言葉を使っていなかった。 ソ連の爆撃機の侵入を許さない「大きな船」という言葉を、ワシン トン・ポスト紙の記者が(UNSINKABLE AIRCRAFT CARRIER)と訳し、それがそのまま不沈空母と日本で伝えられた のだ。 これは後日中曽根首相自身も認めている事であるが、もはやそんな事 はだれも関心がない。 以来、「不沈空母の中曽根」が定着した。 もっとも、こちらの誤解には後日談がある。 録音テープを確認したワシントン・ポスト紙は「不沈空母」という 言葉はどこにも使われていないことに気づき、もう一度正確な内容を 記載したい、と中曽根首相の秘書官に伝えてきたという。 しかし、中曽根首相が「訂正の必要ない」と即座に返答したのでその ままになったという。 これを要するに、中曽根首相にとっては「不沈空母」とはまさに名訳 で、自分の気持ちをよくぞ言ってくれたという事に違いない。 「不沈空母の中曽根首相」として有名にさせてくれた名誤訳だと中曽根 首相は判断したのだ。 敵ながら天晴れだ。 元祖日米同盟信奉者の中曽根首相らしいエピソードである。 了 ──────────────────────────────── 購読・配信・課金などのお問合せやトラブルは、 メルマガ配信会社フーミー info@foomii.com までご連絡ください ──────────────────────────────── 編集・発行:天木直人 ウェブサイト:http://www.amakiblog.com/ 登録/配信中止はこちら:https://foomii.com/mypage/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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天木直人(元外交官・作家)