□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年5月24日発行 第357号 ■ =============================================================== 嘉手納統合案を政府も沖縄もメディアも、もっと真剣に受け止めるべきだ =============================================================== 米国上院のレビン軍事委員長らが普天間基地の嘉手納基地統合案を 提言したのは5月11日だった。 ところがそれを日本政府もメディアも沖縄もまともに受け止めよう とはしなかった。 しかし、その態度は間違いだ。わかっていない。 私は日本の基地化が目的である日米安保体制に一貫して反対する 一人である。 その立場からすればもちろん嘉手納統合案をそのまま受け入れる わけにはいかない。 しかし日米同盟の即時破棄が今の政治状況では非現実的であり、 従ってまた沖縄から米軍基地が即時撤退しない以上、少しでもその 危険・負担を減じ、長期的に基地縮小・撤廃に向けてあらゆる知恵と 戦略を絞って米国側と交渉していくべきだと考える。 その意味からすれば、今回の米国議員の提案を真剣に受け止め、 米国議員を味方につけ、自らの利害と一致する方向で米国政府と話し 合いを進めるよう、日本政府も沖縄も、いまこそ反応すべき時だ。 私はレビン、マケイン、ウェッブがゲーツ国防長官にあてた見直し 提案の全文を読んでみた。これは彼らが真摯に検討を重ねた上での 真面目な提言である。 その目的はもちろん米国の利益を思っての提言であるが、同時にまた 沖縄県民の強い反対や、大震災後の日本の財政状況を考たうえで、 もはや小泉政権下で合意した2006年の日米合意に固執する事は あらゆる観点から非現実的となったと言っている。これは正しい。 私はこれからの見所は、日本政府と沖縄県が、どちらが先にレビン 提案の価値に気づき、それを自分たちに有利な形で活用し、オバマ 政権に飲ませるか、その知恵比べであると思っている。 もちろん日本政府と沖縄県とではその方向は異なる。いかに米軍を 日本にとどめ置き、日米同盟を深化して自分たちの存在意義を保とう とする日本政府・官僚と、米軍基地の負担を軽減し、長期的には基地 の撤廃に持って行こうとする沖縄県民の目指す方向は正反対だ。 今回の米国議員の提案はそのいずれでもない。 なぜならば米国の立場は米国にとって最善の安全保障政策を、最も 効率的な形で確保するかであるからだ。 そしていまや膨大な財政赤字を抱える米国の最優先課題はそれに 見合った世界的規模の米軍再編を行なう事だ。 しかも米国は自らの安全保障政策を確保するために、いたずらに 同盟国の反米感情をも悪化させることは得策ではないと思い始めて いる。 レビンらの提案はまさしくこの考え方に貫かれているのだ。 日米合意見直しといえば日本政府や官僚はそれだけで反対する。 嘉手納統合案と聞くだけで沖縄は危険・負担が増えると条件的に 反発する。 こんどのレビン提案に関して言えば、そのどちらもが間違いなのだ。 ところがこの事を指摘する日本の識者やメディアは皆無である。 そう思っていたら発売中のアエラ5月30日号で軍事ジャーナリスト の田岡俊次氏が書いていた。嘉手納統合案は現実的な提案であり、安く て、すぐに実現可能である、と。 私は田岡氏のようにレビン案を手放しでは評価しない。すぐにこの 案で合意しろとは言わない。 しかしこの提案は日本政府側にとっても沖縄側にとっても、自らに 有利な案になりうる建設的な提案を含んでいるのだ。 私はデトロイトの総領事のころ、ミシガン選出のレビン上院議員と 何度もあって良く知っている。有能で影響力のある上院議員だ。 この提案はゲーツ国防長官に宛てたものであるが6月にもパネッタ新 国防長官に引き継がれるであろう。 パネッタ氏は財政再建論者だという。オバマ大統領はパネッタ新国防 長官の判断を重視するだろう。 パネッタ国防長官はレビン、マケイン、ウェッブと言った超党派の 安全保障政策についての重鎮議員の意見を尊重せざるを得ない。 日本政府と沖縄は、どちらが先にレビンらを味方につけるか競い合う ことになる。 了
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