□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年5月6日発行 第320号 ■ =============================================================== 菅首相と日本のメディアに聞かせたアサンジュ氏の言葉 =============================================================== ウィキリークスの米公電開示をスクープした5月4日の朝日新聞に、 ウィキリークス代表のジュリアン・アサンジュ氏と朝日新聞社のイン タビューが掲載されていた。今年はじめ、アサンジュ氏の滞在先である 英国で行なったものだ。 私は、ウィキリークスとその代表であるジュリアン・アサンジュ氏 を誰よりも高く評価してきた一人だ。この私の評価は、彼が逮捕され たり、どのような悪口が彼について語られようが、いささかも変わり はしない。 そしてこのインタビュー記事を読んで私はあらためてアサンジュ氏の 素晴らしさを確認した。私にとってもはや彼は正義の守護神である。 彼はウィキリークスの目的をこう説明している。 「より公正で文明化された社会をつくることだ。政府が不正な計画を 隠すのを難しくするしくみができれば、結果として政府はより公正な 権力となる」 彼の真骨頂がここにある。ウィキリークスの目的のすべてがここに ある。 権力者が不正を行なわないのであればウィキリークスなど要らない。 たとえ権力者が不正を行なったとしても、改悛してそれを認め、正しく なろうとするならウィキリークスは要らない。 ところが権力者はそうではないのだ。不正を働き、それを決してみず から認めようとはしない。だからこそ、不正の告発の受け皿となって 権力者の悪を逃がさないシステムをつくる必要があるのだ。 それに比べて菅首相のあまりにも姑息な言葉よ。 彼は言った。 「ウィキリークスは合法的でない形で情報を発表しており、政府とし てコメントすべきではない」、と。 これは法解釈として間違っているだけでなく、それ以前の問題として 正義への取り組み姿勢において間違っている。 入手方法が違法であっても、その告発が公益に叶うものであれば違法 性は消滅する。これは西山太吉元毎日新聞記者の公電漏洩事件の判決の 中で最高裁が下した判断だ。すなわち手続き的な違法性よりも公益的 見地からの正しさが優先されるのだ。 そのような法律論争をするまでもなく、米外交公電は政治家や官僚たち の詐欺、背信を明確に伝えている。それは権力者によって自発的に正され なければならないのだ。 アサンジュ氏の言葉こそ菅首相の口から出なければならなかったのだ。 アサンジュ氏はまた、こうも言っている。米政府から攻撃されている のは私たちであり新聞社や記者ではない。報道に関して、私たちの最も 重要な貢献は、ジャーナリストや情報提供者から「恐れ」をとりのぞいた ことだ。報道機関の前を行く「前衛」になる、と。 なんという潔さと覚悟なのだろう。 インタビューをしていた朝日新聞の記者は、ジャーナリストとして このアサンジュ氏の言葉を恥じ入る気持ちで聞いたに違いない。 私はこのアサンジュ氏の言葉を、朝日の記者だけではなく、保身と権力 迎合に走っている日本の大手メディア全員に聞かせたい。 権力の不正をただすためにはいかなる犠牲もいとわない、そのアサンジュ 氏の心意気こそ、すべてのジャーナリストが目指すべきものである。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)