□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年2月3日発行 第73号 ■ ============================================================= 目に余る菅民主党政権の外交のウソ ============================================================== ウソは自民党政権の頃からあった。 ウソは外交に限らずあらゆる政策について繰り返された。 しかし、菅民主党政権の外交のウソは目に余るものがある。 なぜか。それが菅民主党政権は外交に自信がないからだ。 菅政権には、菅首相は言うに及ばず、およそ外交についての知見 や政治的指導力を有した政治家がいないからだ。 そしてそれが菅首相の政権末期症状によって加速している。 菅民主党政権の最近の外交的一大ウソは、中国漁船船長の釈放判断 はすべて沖縄地検の判断だと言い張った事だった。 これがウソだったことについては、もはや誰も異論はないだろう。 そしてまたひとつ、その尖閣問題で菅首相が重大なウソをついていた 事が暴露された。 2月2日の産経新聞が、昨年10月の日中廊下首脳会談で菅首相は 温家宝首相に尖閣諸島の領土権主張をしていなかったことを スクープ報道した。 おまけに拘束されていた邦人の早期解放を求めることさえしなかった という。 当時の菅・仙谷民主党政権の発言が国民を欺いていたということだ。 もしこの産経新聞のスクープが事実であれば、そのウソの重大性は 深刻だ。 なぜならばそれは単なるウソではない。 中国国営新華社通信も、温家宝首相が「尖閣諸島は中国固有の領土で ある」とその会談で主張したと当時報道していたという。 その事も産経新聞は書いている。 そうであれば、これは日中間で周到に準備された国内対策上のウソ だったということだ。 すなわちそれぞれの国民の手前、尖閣諸島の領有権につき話し合った 事にしよう、そしてお互いに主権を主張し合った事にしよう、という 打ち合わせが日中の間で出来ていたということだ。 問題はそれをどちらが言い出したかである。 当時の菅首相が置かれていた政治状況を考えれば、そして中国の強硬 姿勢を考えれば、それが日本側から持ちかけた事はほぼ間違いない。 そして日本側から言い出したものであるとすれば、菅民主党政権は 中国に大きな外交上の借りをつくった事になる。 そこまで中国に借りをつくったからには、もはや菅民主党政権は中国に 対して本気で日本の主権、国益を主張できなくなった。 おりしも2月2日の読売新聞は、昨年12月に閣議決定した新防衛計画 の大綱について、決定前にその内容を中国政府に説明していた事が複数の 政治筋の話でわかった、と報じた。 言うまでもなくあの大綱では、中国の脅威に対して動的防衛力を強化 して対応する事がはじめて明記された。 それがあの大綱の目玉であった。 しかし、それが一方において国内世論を念頭に中国に対する毅然とした 外交をアピールし、他方において中国に対しては決して中国を敵視した ものではないと事前了解を求めていたものであれば、それは二枚舌という 事になる。 おりしも2月2日の東京新聞は、外務次官級の日中戦略対話を2月下旬 に東京で再開する方向で菅政権は調整に入ったと報じた。 その戦略対話の議題の中には、東シナ海ガス田共同開発に関する条約 締結交渉の再開が含まれるという。 しかし見ているがいい。日本が譲歩させられて終わる協議になるだろう。 そもそも東シナ海ガス田共同開発については官僚同士の話し合いでは いつまでたっても結論がだせなかった問題だ。 だから政治主導の話し合いに移された。 そしてその政治的主導の対中外交が福田、麻生自民党政権でさえも進ま なかったのだ。 ここまで中国に借りをつくった菅民主党政権が中国に強く出られるはずは ない。国益を正しく主張できる筈はない。 いまの日本外交の矛盾は何も対米従属外交だけではない。 対中外交も、対露外交も、対中東外交も、およそあらゆる主要外交が 行き詰まっているのだ。 それを官僚と政治家の壮大なウソの積み重ねでごまかされているのだ。 少なくとも外交に関して言えば、政権末期といわざるを得ない。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)