□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年1月17日発行 第31号 ■ ============================================================= パレスチナ問題の根底を揺るがす「ユダヤ人の起源」という書 ============================================================== 1月17日の産経新聞にシュローム・サンドという人の著書「ユダヤ人 の起源」(武田ランダムハウスジャパン・3990円)を紹介する記事を 見つけた。 その記事の見出しは「内部からのイスラエル批判」となっていた。 その言葉に惹かれて読んでみた。そして驚いた。 私は聞きかじりでそう思い込んでいた。そのパレスチナ問題の根底を 揺るがすことが書かれていたからだ。 なぜパレスチナ問題がここまで解決困難なのか。 それは約2000年前にローマ帝国に追放されたユダヤ人が、離散と 流浪の果てに、旧約聖書によって「神が与えた約束の地カナン(いまの パレスチナ)に帰還するほかはない、というシオニズム(エルサレムの シオンの丘に帰る)の考えがユダヤ人の間に強固に存在するからだ、 とされる。 それを読み、聞きして、そう思い込み、私はそれを受け売りして講演 などでも語ってきた。 ところがテルアビブ代学でヨーロッパ史を教えているというシュローム ・サンド教授が、その著書「ユダヤ人の起源」の中で、それは歴史を創作 した物語だ、農民である古代ユダヤ人の子孫たちの多くは、ローマに反乱 して敗れた後も、7世紀にイスラム勢力に支配されてからもイスラム教に 改宗してパレスチナの地にとどまった、彼らこそユダヤ人だ、と論証して いるというのだ。 シオニズム運動を主導する者たちは社会の上層部を占めるヨーロッパ系 ユダヤ人であり、彼らシオニストたちがイスラエルそのものを危うくして いる、と主張しているというのだ。 それが事実だとしたら、我々はパレスチナ問題を根本から問い直さなけ ればならない。 パレスチナ問題は2000年の昔からあったユダヤ人とパレスチナ人の 解決不能な民族、宗教問題ではない。 社会の上層部を占めるヨーロッパ系ユダヤ人によって作りだされた、こよ なく現代の国際政治によって作り出された問題であるということだ。 当然の事ながらこの著書は欧米でベストセラーになっているという。 当然ながらイスラエル国内でもベストセラーとなり、国内の反発も大きい という。 しかし、反シオニズムの態度を取りつつも、イスラエル国家の存在自体を 認める穏健派のサンド教授は、自らを批判するシオニストこそイスラエル人 の存在を否定すると反論し、イスラエルの中でなお活動を続けている。 すべての困難な問題がそうであるように、人は真実を追究しなければなら ない。 真実を追究して自らの間違いが明らかになった時、それを認める勇気を持た なければならない。 真実から目をそらし、自らの誤りを認める勇気を持たず、批判者を排斥する、 その態度こそ問題解決を難しくしている最大の理由ではないのか。 ましてや、おのれの私利私欲、権性欲を優先するあまり問題解決を否定する などという事は言語道断である。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)