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天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説

天木直人(元外交官・作家)

天木直人

焼き捨てられた報告書
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□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年1月4日発行 第5号 ■       ===============================================================    焼き捨てられた報告書     ===============================================================  「70年前の日米開戦前夜。正確に日本の国力を予測しながら、葬り 去られた幻の報告書がある・・・」  こういう書き出しで始まる1月3日の日経新聞連載「三度目の奇跡」の 中の次のエピソードは示唆に富んでいる。  関東軍参謀部で満州国の建設主任をしていた秋丸次朗陸軍中佐は、 1939年に急遽呼び戻され、英米との戦争に耐えられるかどうかの分析 を命じられる。  秋丸は、東大教授の有沢広巳、後に一橋大学長となる中山伊知郎ら著名 学者を集め、「戦争経済研究班」をつくって徹底的に調べる事にした。 いわゆる秋丸機関である。  調査開始から1年半を経た41年半ば、すなわち12月8日の日米開戦 まであと数ヶ月の時期に、報告書はできる。  陸軍首脳らを前にした報告会の席で秋丸は意を決して言った。  「日本の経済力を1とすると英米は合わせて20。日本は2年間は蓄えを 取り崩して戦えるが・・・彼らとの戦力格差は大きく、持久戦には耐え難い」 、と。  これが秋丸機関が出した結論だった。  私がここでメルマガの読者に紹介したいのは、その報告を聞いた後の杉山 元参謀総長の次の言葉である。  「報告書はほぼ完璧で、非難すべき点はない」とその分析に敬意を表し ながらも、こう続けたという。  「その結論は国策に反する。報告書の謄写本はすべて燃やせ」。  見たくないものは見ない。これである。  秋丸機関はほどなく解散する。  現状認識を封印した後の歴史はどうだったか。  戦争に向かってひた走り、その結末は悲惨だった事を我々は知っている。  終戦から今年で66年目となる。  日本は変わったか。答えは言うまでもないだろう。  少なくとも外務省に関する限りは、まさしく「見たくないもの、聞きたく ないもの」を無視し、時の政権に迎合して政策が作られて来たことがなんと 多かったことか。  あのイラク戦争もそうだ。  米国のイラク攻撃が禍根を残す事になるという情報は山ほどあった。  しかし、それを伝える者はいなかった。  それどころか戦争に反対していた仏のシラク大統領さえも最期はブッシュ 大統領に賛成する、だから日本がイラク戦争を支持しても大丈夫だ、という ウソを捏造して小泉首相を安心させようとした者さえいた。  ロシア大統領の国後訪問などもその例だ。  訪問されては困る。だから訪問しないだろう、といい続けたのだ。  事は外務省に限ったことではないに違いない。  日本の政策が行き詰まるのは、政策担当者たちがすべて無能であるという事 ではない。策がまったく見つからないというわけではない。  見たいもの、聞きたくないもの、やりたくないものを、はじめから拒絶、排除 して政策が作られる、これこそ最大の問題であるのだ。  この事は民主党政権になっても何も変わっていないように思われる。  民主党政権が行き詰まるのも無理はない。                              了

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