□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年10月23日発行第159号 ■ =============================================================== 今度の検察問題の正しい解決法はこれしかない =============================================================== 10月22日の日経新聞に大坪前部長に関する次のような記事があった。 ・・・「長く厳しい闘いになるのは覚悟のうえだ」。大坪弘道・前特捜部長 は起訴前日の20日、大阪拘置所で面会した日本経済新聞記者に、公判でも 否認を貫く決意をさばさばとした表情で話した。ただ検察庁は25年以上身を 置いた愛着ある職場でもあり、「身を粉にして働いてきた組織と決別して闘う ことに寂しさも覚える」とつぶやく。「気持ちがなえる」と家族との面会は 控えてきた。今週、弁護人から「そろそろ会っては」と打診されたが、「起訴 までは会わない」と答えた・・・ 私はこの記事を読んだ時、8年前の自分の姿と重ね合わせ落涙した。 私は、間違いなく今の大坪前部長の気持ちを誰よりもよく理解できる人間の 一人である。 何が私を共感させたのか。 それは、みずからが長年仕えてきた組織に裏切られた怒りと無念さが痛い ほどわかるからだ。 そして、その長年仕えてきた組織から決別し徹底抗戦すると決めた覚悟の 厳しさと、その後に続く人生の不安を誰よりも知っているからだ。 もちろん私は大坪前部長とは違う。私に一点の曇りもない。 今となっては世界が誤りと認める米国のイラク攻撃。 おびただしい無辜の生命の犠牲と引き換えに残された怨嗟と混乱。 今も世界は米国の誤った攻撃に苦しめられている。 そんな米国の戦争を支持する事だけはしてはならない。 そう政策提言しただけで35年間仕えた外務省から辞職を迫られた。 その時の驚きと怒りと無念は、腐敗した検察組織の幹部の一人として自らも それに関与したとして起訴された大坪前部長の抱く怒りと無念とは違う。 しかし、大坪氏らもやはり官僚の組織防衛によって理不尽に排除された一人 なのだ。 どこが理不尽なのか。 たしかに前田は証拠改ざんという度し難い誤りを犯したかも知れない。 しかしそれは決して彼一人の問題ではない。出世と実績主義に凝り固まった 検察組織からうまれた誤りだ。 検察官僚のすべてが責任を共有する問題なのである。程度の差こそあれすべて の検察がそういう捜査、尋問を行なってきたのではないのか。 たしかに大坪らは前田の不正を知っていたかも知れない。しかし本人自らが 認めているように監督責任はあったが悪意の隠蔽ではなかったのではないか。 前田の誤りが発覚すれば検察組織は大変な事になる。自らの責任も問われる。 だから穏便に済ませたい。そういう動揺から起きた誤りではないのか。 そのような事は、程度の差こそあれ検察幹部のすべてが長い検察人生の中で やってきた事ではないのか。 それをうまくやって来たからこそ検察首脳にまで上り詰める事ができたので はないのか。 それを知っている大坪が、なぜ俺だけが詰め腹を切らされるのか。それも 犯罪人という汚名の中で、と理不尽に思ったとしてもおかしくはない。 私は今回の大坪らの逮捕は、検察と言う巨悪の官僚組織の中の最高首脳たちが、 自分たちに及ぶ責任を最小限におさえて世論の目をごまかそうとする究極の保身 だと思っている。 検察首脳に貸しをつくって検察をほしいままにしようとする仙谷民主党政権の 意思が働いていると思っている。 そして大手メディアは常に権力側に立って、やはり自らの生き残りを策して いるのだ。 今度の検察問題の正しい解決方法は何か。 それは検事総長以下検察首脳のすべてが責任を取ることだ。 しかもそれは単に辞任するだけではない。特捜部の廃止などという組織の一部 手直しで済まされるものではない。ましてや減俸や戒告などという形だけの責任 で終わらせてはいけない。 裏ガネ問題を含め検察が犯してきた数々の犯罪行為をすべて認めて、大坪だけ ではなく検察首脳たちもみな犯罪人だった事を認めて、刑に服して辞めるという ことだ。 そうすれば大坪らも潔く刑に服するだろう。抵抗はしないであろう。 せめてもの救いは、大坪らの司法研修所教官時代の教え子や同期の弁護士ら を中心に100人規模の「支援の会」が結成されつつあるということだ。 大手メディアの記者の中にも、このような日経新聞の記事を書くような記者 がいるということだ。 私は今度の検察問題の中に、検察官僚組織という強者の組織の中にも強者に よる弱者の切捨てがあり、それに対して、追い詰められた弱者が自爆テロで 抵抗しているという構図を見る。 自爆テロは許されない行為だ。あまりにも悲惨で悲しい。 しかし弱者を自爆テロに追い込む強者こそ責任を問われるべきなのだ。 公正にまさる正しい解決法はない。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)