□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン 2010年10月14日発行第145号 ■ =============================================================== 米国の臨界核実験のニュースについて考える =============================================================== チリ鉱山事故の感動的な救出劇がなければ、おそらく米国の臨界核実験は もっと大きなニュースになっていただろう。 それにもかかわらず米国の臨界核実験をめぐる各紙の報道を注意深く読ん でみると、いくつかの重要な事に気づく。 それらを順不同に書いてみる。 まず日本政府の対応だ。 菅首相は「核のない世界になって、こういう実験を含めて必要なくなる ように努力しないといけない」と記者会見で述べた。 本来は唯一の核被爆国として抗議や遺憾の意をもっと強く表すべきだ。 そしてそれを行なったとしても米国が不快感を示す事はない。それは外交的 に許容される政治的発言であるからだ。 しかしこの菅首相の発言はこれでいい。対米従属の菅政権としては、これが 精一杯だろう。 問題は同じ日に行なわれた仙谷官房長官の記者会見での発言だ。 核実験全面禁止条約では臨界核実験の禁止までは求められていないとした 上で、「臨界核実験は貯蔵する核兵器の安全性、信頼性確保のために従来から 行なわれている」、などと米国の核実験に理解を示している。 国家の基本姿勢ともいうべき日本の非核政策について首相の発言を否定する 仙谷官房長官。 影の首相と言われるゆえんだが、より深刻な事はその仙谷官房長官が憲法 9条を否定する方向に突っ走っていることだ。 仙谷官房長官は12日の記者会見で「時代状況、技術体系が(武器輸出) 三原則を決めた段階と変わってきたことは間違いない」、と武器三原則見直し に含みを持たせる発言をしている(10月14日産経)。 年末にも決定される新防衛計画の大綱はその仙谷官房長官の手によってつく られる事は間違いない。その方向は明らかだ。 二つ目は社民党の福島瑞穂党首が10月13日の記者会見で、オバマ大統領 にノーベル平和賞の資格はない、返上すべきだ、などと語ったことである。 その言葉は正しい。 それにもかかわらず福島氏は、対米従属に終始する菅・仙谷民主党政権との 連立に固執する社民党の党首にとどまったままだ。 鳩山首相が普天間基地の県内移設を容認した時、福島党首はそれに反対して 政権離脱をした。 その時、社民党議員の大勢は連立に固執し、辻元議員が社民党を離党した。 大勢は辻元議員に同情し福島党首は孤立した。 以来社民党は事実上分裂状態だと社民党の関係者は私に語っている。 それにもかかわらず社民党は分裂せず、福島党首は社民党の矛盾を抱えた まま党首にとどまっている。連立政権を目指して民主党に周波を送っている。 それでいてオバマ大統領にノーベル平和賞返上を迫る発言をする。これは 矛盾だ。 私は福島氏の政治信条は日米同盟反対だと思う。平和第一の政治家だと思う。 ならばなぜ社民党を離脱して憲法9条を守り、日米軍事同盟に反対する新党 をみずからつくろうとしないか。 彼女にはもはや失うものは何もないはずだ。資産もある。 それが出来ないところに福島氏の限界がある。社民党の救い難さを見る。 今度の米国の核実験であらためてわかったことは、米国政府は日本政府など 眼中にないということだ。米国国民の核兵器に対する考え方は、日本国民の それとはまったく異なるということだ。 オバマ政権は、国際社会への事前通報という慣例を破って今回は事前発表を しなかったという(10月14日日経)。 だからこそ9月中旬に行なわれていた今回の実験が、今頃になって報道 されたのだ。 しかし国際社会への事前公表はしなくても日米同盟の相手である日本には 事前通報するのが同盟国の信義だ。 しかし、どの新聞も日本政府への事前通報があったなどと書いているものは ない。事前通報はなかったのだ。日本政府の反応など米政権は眼中にはないのだ。 より注目すべきは、米国民の関心は低く、米メディアもほとんど報道して いない(10月14日産経)という厳然たる事実である。 そのような米国の核の傘に守られる事を国是とする日本。 そのような米国との軍事同盟を最優先する日本。 今回の米国の臨界核実験はまた、日米同盟の欺瞞をも教えてくれた。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)