□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン 2010年8月19日発行 第60号 ■ =============================================================== 菅民主党政権はアスベスト問題を取り上げなければ偽物だ ================================================================ こういう記事こそ本物のスクープ(特ダネ)だ。 8月18日の東京新聞が一面トップで、建築廃材の中に含まれている有害物質 アスベストが全国で野ざらしになっている事実をすっぱ抜いた。 私がアスベスト問題に関心を持ったのは、あの耐震偽装問題を告発した イーホームズの藤田東吾社長が、かつて私に次のように述べた事があったから である。 耐震偽装問題で国交省(旧建設省)と協議していた時、当時の国交省の官僚 が頭を痛めていたのは、耐震偽装問題よりも深刻なアスベスト問題であった のです、と。 それを聞いたとき私は直感的にアスベスト問題の深刻さを感じ取った。 元官僚の私は官僚の考える事、する事が手に取るように分かる。 藤田社長が何気なく口にした言葉こそ、今日の東京新聞のスクープに見られ るアスベスト問題を物語っているのだ。 アスベスト問題といえば、報道されるのは、すべて過去のアスベスト被害で あり、その被害者の救済と補償に関する訴訟ばかりである。 その一方で、国民にとってより深刻なアスベストの安全な除去、処理問題に ついては、まったく報じられる事はない。 建築後数十年たった多くの建築物には、当時まだその使用が認められていた アスベストが多く含有している。 その建築物が次々と古くなって建て替える時期を迎える。 今後長期にわたって大量に出てくるこのような老朽建築物を廃棄、建て替え る時に、必ず必要になるアスベスト粉塵対策とアスベスト汚染廃材の適切処理。 これこそが行政が抱える現在のアスベスト問題なのである。 ところがこれに対する行政の対応がまったくなっていないのだ。 政府・官僚はなぜ対応が遅いのか。なぜアスベスト問題を国民から隠蔽しよう とするのか。 それはもちろんアスベスト問題が厄介な問題であるからだ。しかもアスベスト 問題の所轄は多くの省庁にまたがる。国交省はもとより経産省、厚労省、環境省、 総務省など多岐にわたる。 うまみのある仕事ならば、各省庁は予算確保、権限拡大のため競って奪い合う。 しかし厄介な問題は逃げて他の省庁に押し付け合う。官僚用語でいう消極的権限 争いだ。 だから一向に物事が進まない。放置されたままどんどん事態は悪化する。 幸か不幸か、アスベスト被害が顕在化するのは何十年も先だ。どこまで粉塵を 吸引するれば発病するかもわからない。 それをいい事に対応策を真剣に考えない。不作為の罪である。 おまけにアスベスト問題は産廃問題とも関連するやっかいな問題がある。下手 に正義を貫こうとすると不測の事態さえ起こりうる。 官僚の不作為をとがめ、国民の暮らしを第一に考えることこそ、政権交代を 果たした民主党政権に期待される事ではなかったか。 菅民主党政権はアスベスト問題を取り上げなければ嘘だ。 8月18日の東京新聞のスクープ記事が波紋を広げるか、それとも何も なかったように無視され続けるか。 私は菅民主党政権の出方を注目する。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)