□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン 2010年8月20日発行 第61号 ■ =============================================================== パキスタンの洪水被害に陸自派遣を決定した菅民主党政権の対米従属ぶり ================================================================ 満を持してこのメルマガを書いている。 ついに菅首相はパキスタン洪水被害に自衛隊ヘリ部隊の派遣を決定した。 北沢防衛相は8月19日陸自ヘリ部隊に派遣準備を支持した。 思い起こしてほしい。菅民主党政権は、今年7月、スーダンの国連平和維持 活動(PKO)への参加を見送っている。 参加を主張する岡田外相と、それに反対する北沢防衛相の対立の中で、最後は 仙谷官房長官に一任された。そして仙谷官房長官は陸自派遣を見送った。 その時の北沢防衛相の反対理由が「自衛隊の評価につながらず、士気もあが らない」という理由であった。 これを見た朝日新聞は7月25日の社説でこう批判した。 「あまりにも内向きな発想だ・・・スーダンが日本の役に立つかどうかでは ない。日本がスーダンの役に立てるかどうかだろう・・・平和構築の大切さを わかっているのか」、と。 それから一月ほどして、今度はパキスタンの洪水被害について自衛隊ヘリ部隊 の派遣話が浮上してきた。 国連平和維持活動への参加と言う本来の防衛省の国際貢献を断り、洪水災害に 自衛隊ヘリ部隊を派遣する、そんな決定を菅民主党政権はするとしたら、その 根拠はどこにあるのか。 そう思って私はその成り行きを注視して見て来た。 その間にもパキスタン洪水援助の裏には米国主導の「対テロ」戦がらみの思惑 がある事が報じられるようになった。 洪水が起きているインダス川流域はアフガンに駐留する北大西洋条約機構 (NATO)軍の物資輸送と重なっていること、パキスタン・タリバンが 「外国の援助を受けるべきではないと脅かしていること、などが報じられた (8月13日毎日)。 住民との信頼関係を構築し、対テロ戦を有利に展開するための、米国と武装 勢力の援助合戦の様相を呈している(8月13日東京)とも報じられた。 そうであるならばまさしく対テロ戦の中に自衛隊部隊を投入する事になる。 危険をともなう。だから当然防衛省も当初警戒していたという。 ところがパキスタンの洪水援助に対する自衛隊派遣はどんどんと進められて いった。 なぜだろう。洪水援助という人道援助なら他にも適切な援助の仕方がある はずだ。 そう思っていたら8月14日の産経新聞に次のような記事が掲載された。 「自衛隊派遣について米政府から打診があったのは8月2日。当初防衛省は 派遣に慎重だった。部隊到着時に被害が終息している可能性があるためだ・・・ 救援活動で政情不安と民生悪化を避けたい米政府の強い要請を受け派遣に踏み 切った・・・」 そして北沢防衛相も、防衛省の決定の背景に米国の要請があった事を認めた。 米国の要請なら何でもそれに従う外務省に異論があるはずはない。 かくて自衛隊ヘリ部隊のパキスタン派遣はあっさりと決まったというわけだ。 米国の代弁者のようになってしまった朝日新聞は8月17日の社説でこれを いち早く唱えている。テロの連鎖を防ぐべきだと、資金協力だけでなく陸自ヘリ を派遣すべきだと。 おまけにパキスタンにとどまらず、自衛隊による協力をインド、パキスタン、 アフガンなどでつくるアジア地域協力連合地域に広げよと唱えている。 一方の産経新聞は同じ8月17日の社説で、なぜ「丸腰」の派遣なのか、テロ との戦いの危険性があるところに派遣する以上、武器携行は当然だと主張して いる。 もはや国際貢献という名の下に行なわれる自衛隊の海外派遣の方針はあって なきがごとくだ。 あるのは米国に命じられるままに、最後はどこへでも行くということだ。 菅民主党政権が続けばこの国の外交・安全保障政策は歯止め無く対米従属に なっていくような気がする。 メディアがこぞって菅政権続投を支持する理由がそこにある。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)