… … …(記事全文2,991文字)【量子コンピューターという「未来の風景」】
量子コンピューターと聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、ガラス張りの空間に収められた巨大な装置、どこか美術館の展示品のような、静かで未来的な風景ではないだろうか。
今回の扉絵に用いたのは、スペインの量子計算スタートアップ Multiverse Computing が公開しているイメージ画像だ。かつて教会だった空間に設置された量子コンピューターは、機械というよりも、一枚の荘厳な絵画のように見える。
量子コンピューターとして公開されている写真やイメージの多くは、「最先端」「次世代」「まだ先の話」といった印象を強く与える。実際、量子技術はいまも実証段階にあり、不安定で扱いが難しい。
神戸の理化学研究所に設置された IBM Quantum System は、その中でも特異な環境にある。世界トップクラスのスーパーコンピューター「富岳」と連携し、実証実験を行える体制が整えられているからだ。
量子コンピューターは、温度変化、磁場、振動といったわずかな環境変化でも性能が著しく低下する。環境を維持するだけでも極めて高い技術とコストが必要だ。だが、条件が揃った瞬間に、従来の計算機では不可能な計算能力を発揮する。
現時点では、量子は「万能計算機」ではない。むしろ、特定の計算を担うワンポイントリリーフのような存在だ。
それでも、機械が人間の能力を越えていく未来は、確実に近づいている。
コンピューターが人間の知的能力を超える転換点を「シンギュラリティ」と呼ぶ。生成AIが一般に普及し、ボストン・ダイナミクスの Atlas が量産段階に入りつつある現在、その到来は「遠い未来」ではなく、現実の時間軸に入り始めている。
にもかかわらず、多くの人にとって、それはまだ「自分の生活とは切り離された未来の話」として受け止められている。しかし現実は、すでに目の前まで来ている。
【米国防総省報告書が示した、静かな転換点】
2025年、米国防総省が議会に提出した「中国の軍事・安全保障動向に関する年次報告書(China Military Power Report)」 は、一見すると例年通りの定例文書に見える。
だが、注意深く読み込むと、明確な変化がある。
2024年までの報告書では、「能力を獲得しようとしている」「可能性がある」といった慎重な表現が多かった。ところが2025年版では、中国はすでに一部の能力について実装段階に入りつつあるという前提で記述が進んでいる。
この変化は小さく見えて、決定的だ。
【「2027年台湾有事」という言葉の誤解】
この報告書をきっかけに、「2027年に台湾有事が起きる」という表現が広まった。しかし、これは正確ではない。
米国防総省が示しているのは、「いつ起きるか」ではなく、
いつまでに
軍事的な選択肢を持てるか
短期的に成果を出し得る能力を備えるか
という能力評価である。
つまり、
2027年までに
戦争を「始められる状態」
かつ短期間で軍事的成果を出し得る状態
に到達する可能性がある、という意味だ。
【「勝てる能力」が意味するもの】
ここで言う「勝利」とは、政治的成功や国際的承認を意味しない。意味するのは、より冷たい現実だ。
短期間で台湾に深刻な軍事的損害を与える
米国や同盟国の介入を遅らせる
国際社会が本格的に動く前に既成事実を作る
「軍事的に通用する選択肢を持つ」ということだ。
しかも、それは全面侵攻だけを指していない。
【実装される能力】
