… … …(記事全文7,649文字)よく生きるための「死の準備」
もし家族や自分が根治不可能ながんだと診断された場合、どうすれば最期まで「よく生きる」ことができるだろう。今回は、病院ではなく、できるだけ家で過ごすことを前提に、より具体的にその道筋を考えてみたい。
①延命を図るかどうか
第一に、がんの薬物療法や放射線など「積極的治療」を受けて、延命を図るかどうかを選択する必要がある。
積極的治療を受ければ、数ヵ月(場合によっては年単位)の延命を得られるチャンスがある。ただし、全員が延命効果の恩恵を受けられるわけではない。効果を得られない場合には、副作用で生活の質を落としてしまい、そのために寿命が短縮するリスクもある。さらには、通院や入院のために残された貴重な時間が確実に奪われる。
したがって、医師から積極的な治療を勧められて判断に迷った場合には、期待できる延命期間とともに、効果を得られる可能性がどれくらいあるかをきちんと説明してもらうべきだろう。
単剤あるいは複数の薬を組み合わせて行われる「がん薬物療法」の延命期間は、「新規治療群」と「従来治療群」または「プラセボ(偽薬)群」とを比較する臨床試験(ランダム化比較試験)で導かれる、「生存期間中央値(OS)」(50%の人が生存している期間)の差から算出される。
たとえば、免疫チェックポイント阻害薬の「ベムブロリズマブ」(商品名キイトルーダ)は、進行性非小細胞肺がんを対象に行われた臨床試験において、生存期間中央値が化学療法群(従来薬群)で14・2ヵ月だったところ、ベムブロリズマブ群で30・0ヵ月だった。これを引き算すると約16ヵ月(約1年4ヵ月)の延命を期待できることになる。
延命効果があるとされている化学療法群の効果を上回っているわけだから、この通りなら、何もしない場合と比べるとさらに大きな延命効果が期待できると言えるかもしれない。(https://www.msdconnect.jp/products/keytruda-nsclc/clinical-results/keynote-024-2fu/)
医師もこの生存期間中央値の差を「期待できる延命効果」として説明するはずだ。これを聞いて、期待を寄せる患者や家族も多いだろう。ただ、ここで注意が必要なのは、その効果を万人が得られるわけではないことだ。
12カ月後の生存率を見ると、化学療法群の生存率が54・8%なのに対して、ベムブロリズマブ群が70・3%なので、その時点でこの薬による延命効果を得られている人は「15・5%」ということになる。つまり、従来治療と比べて1年半の延命を期待できたとしても、1年後の時点でそのチャンスを得られるのは6~7人に1人なのだ。
逆に言うと、ベムブロリズマブによる治療を受けても約85%の人は利益を得られず、その副作用の害を被るだけということになる。この薬に限らず、新規のがん薬物療法で延命のチャンスを得られる人は従来治療群と比べて、生存期間中央値の時点で全体の10~15%程度のことが多い。
従来薬と比較していることを考えると、何もしない場合と比べた場合には、もっと大きな差が出る可能性が高い。しかし、そうだとしても全員が効果を得られるわけではない。多臓器の機能が低下している高齢者の場合にはなおさら、副作用に耐えられずに寿命短縮のリスクが高くなる。こうしたデータまで説明したうえで、薬物療法や放射線治療を勧める医師は、たぶんほとんどいないだろう。

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