… … …(記事全文6,424文字)2026年6月6日、千葉市内で仕事があった。ライターの中川淳一郎さんとともに、愛する人を自死で失った経験を語る講演だ。その会場で、お手伝いに来られていた高梨由美さん(映画「レターパック裁判」監督)から花束をいただいた。
百合やアルストロメリアなど白い花々の中に、青紫の紫陽花が鮮やかに映える、とても可憐な花束だった。ちょうど、残念なことに叔母がホスピスに入所したときに買ったポットの花が枯れて、泣く泣くスタッフに捨ててもらったところだった。なので、この花束を叔母の部屋に持って行くことにした。
講演会の翌朝、6時過ぎにはホテルを出て、コインパーキングに停めておいた車で神奈川県相模原市内にある叔母のホスピスへ直行した。朝8時過ぎにはたどり着き、さっそく叔母に花束を見せた。
「講演会でもらったんよ。すごくきれいでしょ。おばちゃんの部屋に置くとちょうどいいと思ったから、持って来たよ」
ベッドから起き上がることができない叔母の代わりに、私が花束を手に持って、顔の近くへ寄せてあげた。
「まぁ、きれい。紫陽花の色がよく映えてるね」
叔母はやせ細った手を伸ばし、なでるようにして、いくつかの花びらを触った。
「とてもいい香り」
花に顔を寄せて目を細め、叔母は愛しむように、しばらく花束を眺めていた。
「根元に水分を含んだジェルがあるから、水をあげなくていいらしいよ」
私は叔母が見えやすいように、ベッド横にあるチェストの簡易テーブルを引き出し、そこに花束を置いた。叔母は本当にこの花束を喜んでいた。こんな素敵な花束を贈ってくださった高梨さんには、あらためて感謝を伝えたい。
いったん家に帰り、翌月曜日もホスピスへ向かった。K医師の診察日だったからだ。これまで、K医師の診察には、すべて欠かさず同席していた。しかし、この日は間に合わなかった。東関東道から首都高湾岸線にかけて、大渋滞していたからだ。後で分かったのだが、大井インターチェンジの手前にある東京港トンネルで早朝に事故が発生し、車線規制が敷かれていた。
9時を過ぎたので車のハンズフリーホンからK医師のクリニックに電話し、診療時間に間に合いそうにないことを伝えた。そして、診療が終わったら私に電話が欲しいとお願いをした。
K医師から電話があったのは11時過ぎ、ちょうど横浜町田インターを降りたところだった。K医師は「もう一つ診察がありましたので、お電話が遅くなりました。失礼いたしました」と詫びた。私が、
「診療優先ですから、大丈夫です。それはそうと、叔母は薬を飲み込むのも、大変になってきました。1錠でも大変なのに、朝4錠も飲むのは、もう難しいかもしれません。なんとかならないでしょうか」。そう言うと、さすがK医師。それをすでに承知で、
「飲み薬の代わりに、ロキソニンは張り薬にして、点滴も投与することにしました。本当は、余計な水分を投与したくないのですが、ステロイドを急にやめるとショック状態に陥ることがあります、なので、叔母さまが苦しくならない量のソルデム(水分、ブドウ糖、電解質の入った輸液)と一緒にステロイドを投与することにしました。
それから、叔母さまは肝機能が悪化して血液凝固因子が作れなくなり、出血しやすくなっています。痔からの出血が見られるとのことなので、止血剤も混ぜることにしました。叔母さまの胸のところに、赤い斑点が出ていますが、肝臓がホルモンを処理しきれなくなっているしるしです。大きな出血が起こらないように、明日の朝から点滴できるように準備しておきます」
そして、K医師はこんな話もしてくれた。
「叔母さまは、今日は甥御さんが来るはずなのに、まだ来ないの?と何度も言って、とても心配されていました。鳥集さんが叔母さまと、とてもいい関係を築いてこられたことが分かります。大変だと思いますが、ぜひ叔母さまのそばにいて、寄り添ってあげてください」
叔母は、私の到着を待ちわびてくれていた。K医師の言葉を聞きながら、思わず涙が込み上げてきた。叔母が信頼してくれているのが、本当にありがたく、嬉しかった。

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