… … …(記事全文6,415文字)この4月から定期接種化されるRSウイルスワクチン「アブリスボ®」(ファイザー)をめぐり、X上でワクチン推進派と慎重派の応酬が続いている。現在は任意接種のため、接種希望者は自費で3万円前後が必要だ。国立成育医療研究センターが24年7月~25年8月に出産した女性1279名を対象に行った調査では、接種率は11・6%だった。それが定期接種化で原則無料になるので、接種率は格段に上がるだろう。製造販売元のファイザーも、ホクホクに違いない。
アブリスボは妊婦(妊娠28週0日から36週6日まで)に接種することで、母体で作られた抗体が胎盤を通じて胎児に移行し、生後6か月(180日)までの赤ちゃんをRSウイルスによる「下気道疾患(気管支炎や肺炎など)」の発症や重症化から守るという触れ込みだ。ワクチン推進派からは「このワクチンで入院を減らせるメリットは大きい」「ワクチンに反対するのは、重症化して苦しむ赤ちゃんを見たことがないからだ」といった声が聞かれる。
一方、ワクチン慎重派からは、「ほとんどの乳幼児が軽症の風邪で終わるウイルス」「アメリカではワクチンによる早産リスクが案内されている」「妊婦は薬だけでなく、コーヒーやお茶だって控える」「新規のワクチンは何が起こるか分からない。接種は慎重に考えるべき」といった声が上がっている。妊婦さんの中にも、打つかどうか迷っている人がいるのではないだろうか。
私は、「RSウイルスワクチンの接種は慎重に」との立場だ。定期接種化にも大いに疑問を持っている。その理由を3つに整理すると、以下の通りになる。
1.全下気道疾患を減らせない可能性が高い
2.受診・入院を減らせないなら、ファイザーが儲かるだけ
3.妊婦の早産のリスクが上がる恐れもある
X上では安全性のことばかりが注目されがちだが、とくに1の「全下気道疾患を減らせない可能性が高い」ことについて、推進派・慎重派もしっかり認識したうえで、議論するべきだと強調したい。以下、一つずつ詳しく見て行こう。
1.全下気道疾患を減らせない可能性が高い
RSウイルスワクチンを妊婦に接種する目的は何か。それはRSウイルス感染症をこじらせて、下気道疾患(気管支炎や肺炎)で苦しむ赤ちゃんを減らすことだ。赤ちゃんの入院や死亡が目に見えて減るのであれば、接種するメリットは大きいと言える。そのメリットが明らかで、安全性にも特段問題がないのであれば、反対する理由はない。だが、本当にそう断言できるだろうか。
厚生労働省の該当ページを読むと、このワクチンの有効性について、「医療受診を必要とした下気道感染症」が日齢0~90日で「6割程度」、日齢0~180日で「5割程度」の予防効果と記載されている。また、「医療受診を必要とした重症下気道感染症」についても、日齢0~90日で「8割程度」、日齢0~180日で「7割程度」の予防効果と記載されている。これだけを見れば、多くの人が「ワクチンに大きなメリットがある」と思うだろう(「厚生労働省/RSウイルスワクチン/ワクチンの効果」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/rs/index.html
このワクチン承認の決め手となった治験(国際共同第Ⅲ相試験)の論文〝Bivalent Prefusion F Vaccine in Pregnancy to Prevent RSV Illness in Infants(乳児のRSV予防のための妊娠中の二価プレフュージョンFワクチン)〟を見ると、確かに厚労省の記載を裏付けるデータが報告されている。だが、本当にこのワクチンが有効と言えるのか、疑問を抱かざるを得ないデータも同時に載っているのだ(N Engl J Med 2023;388:1451-1464 https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2216480#f2)。
あらためて論文を確認してみよう。この研究は、妊娠24週から36週の妊婦7358人を「ワクチン接種群」(3682人)と「プラセボ接種群」(3676人)とに1:1で割り付ける「二重盲検ランダム化比較試験」で実施された。そして、ワクチン群の母親から生まれた3570人とプラセボ群の母親から生まれた3558人の赤ちゃんの下気道疾患の発症率や有害事象の発症率などを比較している。
その結果によると、「受診を要するRSウイルス関連下気道疾患」の予防効果は、生後90日以内57.1%だった(ただし統計的な成功基準は満たさなかった)。一方、「受診を要する〝重症〟RSウイルス関連下気道疾患」については生後90日以内81.8%で、統計的な成功基準を満たしていた。生後180日以内でも69.4%と高い効果を維持しており、論文は「母体ワクチン接種が乳児の重症RSウイルス関連下気道疾患の予防に効果的」だったと結論づけている。
ところがだ。本文を読んでいくと、こんなことがサラリと書いてある。「出生後90日以内のあらゆる要因による、受診を要する下気道疾患は予防しなかった(ワクチン有効率 7.0%)」。該当する別添の表S8(Table S8)「生後90日以内から360日以内の全要因による下気道疾患に対するワクチンの有効性」を見ると、たしかに全期間で統計的に有意に抑制できた結果になっていない。
https://www.nejm.org/doi/suppl/10.1056/NEJMoa2216480/suppl_file/nejmoa2216480_appendix.pdf
それだけでなく、全下気道疾患(あらゆる要因による下気道疾患)からRSウイルス関連下気道疾患の数を引くと、ワクチン接種群のほうがすべての期間でRSウイルス非関連下気道疾患の数が多いという〝逆転現象〟も見られてしまうのだ。これについては、浜六郎医師が発行人を務める「薬のチェック」(医薬ビジランスセンター)で詳しく解説されている。RSウイルスワクチンの記事(薬のチェック編集委員会「組換えRSウイルスワクチン(アブリスボ®)RSV 偽陰性化疑い、割付も偏りか?」やWeb資料が無料でダウンロードできるので、ぜひ読んでみてほしい(「薬のチェック」118号2025年3月https://medcheckjp.org/issue/n118/)

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