… … …(記事全文5,663文字)多くの医師たち、とくに産婦人科医たちがHPVワクチンを普及させたいと思う気持ちはよく分かる。若くして高度異形成で円錐切除術を受ける人や、子宮頸がんで子宮全摘せざるを得ない人たちを、産婦人科医であればたくさん見ているはずだ。そんな辛くて悲しい思いをする女性を一人でも減らしたいと思うのは当然のことだろう。もちろん私も、子宮を失う人が減ることを願っている。
「HPVワクチンを接種すれば、子宮頸がんリスクが『80%減る』と論文にも出ている。一人でも多くが接種をすれば、子宮頸がんで泣く人が減るはずだ。それにHPVワクチンの安全性は確立されている。多くの人に安心して打ってほしいのに、被害を受けたと思い込んで訴訟をしたり、有効性にケチをつけたりして接種の邪魔をする『反ワクチン』を許せない」──そんなふうに、我々ワクチン慎重派に憎しみを抱いている医師も多いと想像する。
だが、なぜ我々慎重派が、HPVワクチンを批判するのか。それは推進派の情報発信の仕方が、あまりにも「不誠実」だからだ。医療情報の発信は科学的に「フェア」であるべきだ。フェアであるからこそ情報を信頼することができ、適切に医療選択することができる。しかし、推進派はアンフェアな情報を元に、人々を医療へ誘導しようとする。そこに我々慎重派は「不誠実」を感じるのだ。では、擁護派のどこが「不誠実」なのか。「HPVワクチンを信じられない理由」を3つにまとめてみた。
その1 RCTを無視してバイアスのあるコホート研究で効果を誇張する非科学性
もっともエビデンスレベルの高い結論を出しているコクランのRCT(ランダム化比較試験)レビューに基づくと、HPVワクチンの主な効果に関して現時点で言えるのは、「15~25歳の女性で6年後にCIN2+(高度に近い中等度異形成)が30%減少する」ということまでだ(https://doi.org/10.1002/14651858.CD015364.pub2)。しかし、推進派はこれを無視して、コホート研究の結果に基づいて、「子宮頸がんリスクが80%減った」などと誇示してくることが多い。
だが、コホート研究は鵜呑みにできない。最近(2026年2月25日公開)も世界的な医学誌「BMJ」に、4価HPVワクチンの接種者約36万5千人と非接種者約56万人を比較したスウェーデンのコホート研究の結果が報告された。それによると、浸潤性子宮頸がんが930例確認されたが、そのうち未接種者が833例で、接種者はたったの97例だったという。そして、17歳未満のワクチン接種者のうち、未接種群と比較した子宮頸がんの発生率が0.21(95%信頼区間(CI)0.13〜0.32) 、つまり約80%も減ったというのだ(https://doi.org/10.1136/bmj-2025-087326)。
しかし、この研究の対象集団の特性を見ると、接種群と未接種群で大きな偏りのあることが分かる。未接種群は年齢の高い1985~88年生まれ(現在41~37歳)が20万7899人もいるのに、接種群には1万5067人しかいないのだ。逆に接種群は年齢の低い1999~01年(現在24~27歳)生まれが10万7681人いるのに、未接種群には3万3725人しかいない。つまり、接種群の方が圧倒的に若い年齢に偏っているのだ。年齢が高くなるほど子宮頸がんを経験する人が蓄積されるはずだから、未接種群の子宮頸がん症例が多くなるのは当たり前だ。
しかも、17歳未満で接種した人は1985~88年生まれには1人もいないのに、1999~01年生まれは99・3%が17歳未満で接種している。「17歳未満で接種した人は子宮頸がんが80%も減った」という結果は、たんにこの年齢構成の差を反映しているのではないだろうか。つまり、この大きなバイアスが、RCTレビューの「CIN2+30%減」との結果との大きなギャップの要因になっていると疑われるのだ。
もちろん、この研究も含めコホート研究ではバイアスの調整が行われるのが常だ。しかし、もともとこれほど大きな偏りのある集団のバイアスを調整したと言われて、どこまで信用できるだろうか。このような指摘をしているのは私だけではなない。オンライン診療医の田頭秀悟医師のブログをぜひ読んでみてほしい(たがしゅうブログ「前回の問題を修正したのではなく、前回と同じトリックをさらに隠蔽している」2026年3月4日https://tagashuu.jp///blog-entry-2514.html)。
このような信用できない研究ばかりを盾に「子宮頸がんを予防できる」と拡散するから、我々慎重派は、推進派をますますアンフェアに感じるのだ。科学的にフェアにHPVワクチンを評価するためにも、私はRCTに参加した対象者を長期に追跡し、その結果を示すべきだと主張してきた。そして子宮頸がん発症や子宮頸がん死だけでなく、「総死亡率」の低減効果があるかどうかまで確かめるべきだと言ってきた。なぜなら、子宮頸がん死が減ったとしても、その効果をワクチンの害が上回れば、総死亡率に差がでないか、接種群で上昇する可能性もあるからだ。「そんなはずはない」というのならば、RCTの結果を出せばいい。実際、コクランのレビューにある通り、子宮頸がんのRCTは行われているのだから。

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