… … …(記事全文6,231文字)コロナが騒がれなくなったと思ったら、今度はインフルエンザだ。A香港型(H3N2)の新たな変異株である「サブグレードK」なるウイルスが流行中で、欧州では「スーパーインフルエンザ」とも呼ばれているとか。いまのところ我が家は、息子たちも私も感染の兆候はなくピンピンしているが、今年は多くの人が罹患して結構な高熱を出している。私の好きなギター系YouTuberさんも、小学生の息子ちゃんから始まり、ママ、娘ちゃん、そしてパパまで一家4人が高熱を出していた。幸いなことに、みんな何事もなく回復されたようでよかったが、家族の発熱を伝える動画を観て気になったのが、幼い娘さんに抗インフルエンザ薬「タミフル」(一般名・オセルタミビル)のドライシロップを飲ませていたことだ。
苦味があってなかなか飲みたがらなかったが、アイスだかヨーグルトだかに混ぜたら食べてくれたと喜んでいた。それを観て、私は心の中でため息をついた。「本当にこの子にタミフルが要るのかな」と。もちろん、そのYouTuberさんに悪意があるはずはなく、娘さんを早く楽にしてあげたい一心だったに違いない。だから、そのYouTuberさんの親心を腐すつもりは一切ない。問題は、発熱したらすぐに医師にかかることを「是」としている日本社会と、インフルエンザの検査をして陽性と出たら、すぐに薬を出してしまう日本の医師のほうにある。
むかし週刊誌でよく記事を書いていた頃、秋冬のシーズンになると決まってインフルエンザ関連の記事を書いた。それくらい関心が高く、読者の需要があるのだ。もう20年近く前のことになるが、その一環で感染症内科医の間では有名なある医師に取材をしたことがある。その話によると、欧米ではインフルエンザによる発熱だと思っても、ほとんどの人が医療機関にはかからないのだそうだ。なぜなら、よほどのことがない限り薬は処方されず、「しっかり水分補給をして、症状が収まるまでゆっくり休むように」と言われるだけだからだ。そして、日本でタミフルが処方されすぎていることを嘆いていた。
なぜ欧米では抗インフルエンザ薬をほとんど使わないのか。健康な人であれば薬など使わなくても、大半が自然に治るからだ。保険制度が充実していない米国のような国では、気軽に薬を使えないという理由もあるが、そもそも抗インフルエンザ薬には多くの人が思うほどの劇的な効果はない。そのような薬に医療費をかけるのは費用対効果が悪いという評価も欧米にはある。そのため、タミフルは全世界の7割が日本で使われているとも指摘されてきた。日本は製薬会社のいいカモになっているのだ。
実際、タミフルでどの程度の効果が期待できるかは、添付文書を読めばちゃんと分かる。「タミフルカプセル75」の添付文書にある「臨床成績」の項目を見ると、国内の第Ⅲ相試験(治療試験)で5日間投与した結果、「インフルエンザ罹患期間(すべての症状が改善するまでの時間)」の中央値はプラセボ(偽薬)群が93.3時間だったのに対し、オセルタミビル群は70.0時間だった。その差は23.3時間。つまり、タミフルを飲めば4日ほどの発症期間が1日短くなり、3日ほどで症状が治るかもしれないというのが、国内での臨床試験の結果だ。
一方で、因果関係が否定できない有害事象が520例中250例(48.1%)に認められ、その内容は頭痛124例(23.8%)、嘔気50例(9.6%)、疲労32例(6.2%)等だった。つまり、こうした副作用を甘受してまで、1日早く治るかもしれない薬を飲む意味があるかどうかどうかだ。さらにいえば、添付文書には「発症して48時間以降に投与した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない」と書かれている。実臨床では、2日前に発症していたことに気づかず受診する患者もいるだろうから、臨床試験のデータより効果が落ちる場合もあるだろう。
小児用の「タミフルドライシロップ」の添付文書も見てみよう。1~12歳を対象に海外で実施された第Ⅲ相試験の結果を見ると、5日間投与した結果、インフルエンザ罹病期間(咳、鼻症状が改善し、体温37.2℃以下、罹患前の日常生活に回復するまでの時間)の中央値は、プラセボが101.3時間だったのに対し、タミフル群が137.0時間だった。その差は1日半ほど(約36時間)。つまり、5~6日の罹患期間が3~4日で済むというのが、小児を対象とした海外での臨床試験の結果だ。その一方で、タミフルとの因果関係が否定できない有害事象は342例中77例(22.5%)に認められ、嘔吐43例(12.6%)、下痢12例(3.5%)、嘔気10例(2.9%)等であった。
「1日半も罹患期間が短く済むなら、タミフルを飲ませたほうがいい」という人もいるだろう。しかし、罹患期間を短くするために薬を使うことが果たして適切と言えるのか。そもそもインフルエンザが恐れられているのは、一部に重症化して肺炎で亡くなるお年寄りや、脳症で障害が残る子どもがいるからだ。流行状況によって異なるが、インフルエンザによる国内の死者数は毎年数千人から1万人超と推計されている。また、インフルエンザ脳症の症例が、毎年100~200人報告されている。脳症になる子どもたちを減らせるなら、タミフルを処方する意味があるだろう。
だが、2023年6月、JAMA Internal Medicine(米国医師会雑誌・内科版)に、「インフルエンザの外来患者の入院予防に用いられるオセルタミビルの評価」と題されたレビューが掲載されている。その結論は次の通りだった。
「6295名の患者を対象とした15件の試験が含まれた。オセルタミビルの使用は、治療意図感染(ITTi)集団の入院リスクを有意に減少させなかった(リスク比 0.77)。また、65歳以上の集団(0.99)、入院リスクの高い集団(0.90)でも入院リスクとの関連はみられなかった。オセルタミビルは悪心(1.43)、嘔吐(1.83)を増加させたが、重篤有害事象については、有意差はなかった(0.71)」
つまりは、オセルタミビルによってインフルエンザによる入院や合併症を減らせるという確かなエビデンスはないのだ。
(Evaluation of Oseltamivir Used to Prevent Hospitalization in Outpatients With Influenza: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Intern Med. 2024 Jan 1;184(1):18-27. https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2805976)

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