… … …(記事全文6,196文字)X(旧ツイッター)のYUMI WATANABEさんの投稿で知ったのだが、2025年11月24日に共同通信が驚くような記事を配信していた。HPVワクチンを16歳までに接種すると、子宮頸がんリスクが80%も減少するというのだ。しかも、その結果を発表したのが「コクラン」というから二度驚いた(KYODO「ワクチンで子宮頸がん予防効果 HPV感染防ぎ、リスク80%減」YAHOO! JAPANニュース2025年11月24日 https://news.yahoo.co.jp/articles/d8f1ad9f3e272ce79d77b72630920feb20a7d9f0)。
コクランと言えば、世界中の医学研究者が無償で参加する非営利団体で、さまざまな薬や治療の有効性や効果について、信頼性の高いレビュー(エビデンスレベルの高い臨床試験のデータを総合的に分析した結果)を公表してきたところだ。これまでコクランのレビューはワクチンのみならず多くの薬や治療に対して容赦のない厳正な評価を下してきた。そのコクランがワクチンで子宮頸がんリスクが80%減少すると報告したというのだ。本当なのだろうか。
コクランのサイトにあたってみると、こんなNEWS(25年11月24日)がリリースされていた。〝New research confirms HPV vaccination prevents cervical cancer The findings show strong and consistent evidence that HPV vaccines are effective in preventing cervical cancer and pre-cancerous changes〟(新しい研究でHPVワクチン接種が子宮頸がんを予防することが確認されました これらの発見は、HPVワクチンが子宮頸がんおよび前がん病変の予防に効果的であるという強力かつ一貫した証拠を示しています)。
ここには、確かに次のように書かれていた。〝Girls vaccinated before the age of 16 were found to be 80% less likely to develop cervical cancer.〟(16歳以前にワクチンを接種した少女は、子宮頸がんを発症する確率が80%低いことが分かりました)。なるほど、共同通信の記事はこのリリースの記述を元に書かれたのだ。一応、裏付けのある記事だとは言えるかもしれない。
ただ、このリリースを読んでいくと、今回のHPVワクチンの評価に関しては、二つのレビューのあることがわかった。最初のレビューは「ランダム化比較試験に焦点を当てたもので、15万7471人の参加者を対象とする60件の研究を含んでいた」とある。そして2つ目のレビューが「複数国で1億3200万人以上を対象とした225件の研究の証拠を分析した」と書かれている。これら二つのレビューに何が書かれているのか。より詳しく見てみよう。
まず、一つ目は〝Human papillomavirus (HPV) vaccination for the prevention of cervical cancer and other HPV‐related diseases: a network meta‐analysis〟(子宮頸がんと他のHPV関連疾患予防のためのヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン─ネットワークメタ分析)という、2025年11月24日公表されたばかりのレビューだ。(https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD015364.pub2/full/fr)
このレビューでは、コクランがこれまでに行ってきた厳密な方法、すなわち最もエビデンスレベルの高いランダム化比較試験のデータを収集し、分析を行っている。そこには「これらの研究は、がんが発症するほどの期間が十分ではありませんでした」と書かれている。つまり、HPVワクチンには、「子宮頸がんを予防できる」と断言できる十分な証拠はないということだ。
そのうえで、15歳から25歳の女性では、HPVタイプに関係なく6年後に前がん病変であるCIN2+(高度異形成に近い、中程度の異形成)が30%(RR 0.70、95% CI 0.56から0.88)減少し、ワクチン適合型HPVタイプでは6年後にCIN2+がより大きく60%(RR 0.40、95% CI 0.30から0.54)減少したと書かれている。また、外陰部や膣、肛門などのいぼ(肛門性器疣贅/いわゆる尖圭コンジローマ)を減らす結果も出たという。
これらから著者らが導いた結論は次の通りだ。「HPVワクチン接種がCIN2+や肛門性器疣贅などの前がん化アウトカムのリスクを減らすという証拠があります」。一方で、「子宮頸がんやその他のがんの転帰に関するデータはなく、15歳未満の予防接種における前がん病変の転帰に関するデータもありません」とも書かれている。つまり、前がん病変(中程度の異形成)は減らせるが、子宮頸がんを減らせるかどうかはまだ分からないというのが、このレビューの結論だと解釈できる。
では、2つ目のレビュー〝Effects of human papillomavirus (HPV) vaccination programmes on community rates of HPV‐related disease and harms from vaccination〟を読んでみよう。(https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD015363.pub2/full/fr)。これは、「HPVワクチン接種が一般人口に与える影響を評価する研究も含めた」というもので、驚くのは「HPVワクチン導入前後のアウトカムを比較した集団レベルの研究」だけでなく、コホート研究、症例対照研究、横断面研究、自己管理症例シリーズなど、デザインの異なる様々な研究を対象として調べたレビューであることだ。
1億3200万人以上を対象とした225件の研究のうち、20件の研究に、HPVワクチン接種が子宮頸がんの発生率を低減するという中程度の確実性の証拠があったという。そのうちの439万人の女性が対象となった5つのコホート研究で、HPVワクチン接種後の子宮頸がんリスク低下を示す推定値が報告されており、なかでも16歳以前にワクチンを接種した人で、子宮頸がんのリスクが80%減少したと書かれていた。コクランのNEWSや共同通信の「子宮頸がんリスク80%低下」は、ここから取られていたわけだ。
しかし私は、この「80%低下」は、大きな誤解を招くものだと思う。なぜなら、この結論が導き出されたのは、「コホート研究」だからだ。コホートは「集団」という意味で、ワクチンの場合は接種者の集団と非接種者の集団を比較した研究ということになる。ただし、RCTと異なるのは、その集団が無作為に選ばれたものではないということだ。 つまり、集団の属性(年齢、性別、職業、年収、健康状態等々)に偏りがあるので、公平な比較ができないのだ。たとえばワクチンの場合、接種者は健康志向が強く性的にも真面目なのでHPVに感染する機会が少なく、非接種者は逆にHPVに感染する行動をとりやすい、といったことがあり得る。
もちろん、属性に偏りがないよう年齢や性別の構成が調整されて比較されているはずだが、それでも無作為に振り分けられたRCTに比べるとエビデンスレベル(結果の信頼性)は下がる。そもそもコクランは、フェアかつ厳密に有効性や安全性を検証するために、数多ある臨床試験の中からRCTを抽出して、解析するということを行ってきた。それが急に、デザインの異なる研究をごちゃまぜに対象とするようなレビューを出してきたことに驚いた。しかも、エビデンスレベルの高いRCTに基づくレビューの結果を無視して、NEWSで「80%リスク低下」と出したのだ。まるで、ワクチンメーカーのプレスリリースではないか。

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