… … …(記事全文6,242文字)日本医師会(日医)の松本吉郎会長が2025年10月22日の定例記者会見で、自民党と日本維新の会(以下、維新)の連立政権合意書に盛り込まれた社会保障改革の内容について「非常に厳しい項目が並んでいる」と述べ、なかでも「OTC類似薬」の医療保険適用除外に反対の姿勢を示した。「特に収入が低い方や子育て世帯にとって非常に大きな打撃になる」というのが、その理由だ(毎日新聞「維新の主張は『大きな打撃』日医会長、連立合意書『非常に厳しい』2025年10月22日」https://news.yahoo.co.jp/articles/433c137436d4231cfd5741aeda13614ed38bf48f)。
しかし、日医がOTC類似薬の保険適用除外に反対するのは、それだけが理由ではあるまい。これを実施すると患者の受診が抑制され、自分たちの収入も減るからだろう。そもそも日本医師会を筆頭とする医療界は「経営が厳しい」と言って、毎年のように診療報酬の引き上げを求めてきた。その結果、国民医療費は30年前から倍近くになり、2024年度は48兆円にも膨らんでいる。その間、国民の所得は上がっていないにもかかわらずだ。国民の多くが健康保険料の支払いに四苦八苦しているのに、医師たちはまだ医療費削減に抵抗し続けている。保険診療のお金はすべて国民の財布から出ている(自己負担金と保険料と国庫と自治体から)。節約は当たり前ではないか。国民に負担を押し付けてばかりで、自分たちの身を切ろうとしない強欲な日本医師会に、国民はもっと怒るべきだ。
たしかに、OTC類似薬が保険から外されたら、所得の低い人ほど経済的な負担が増すことになる。これまで医師に処方箋を書いてもらえば安く手に入ったのに、ドラッグストアなどに行って全額自費で買うしかなくなるからだ。したがって、税制の優遇措置だけでなく低所得者にはその分を給付で戻すなど、何らかの手当が必要だろう。とはいえ、医療費の削減は待ったなしだ。無駄は極力減らさなくてはならない。それを考えても、OTC類似薬を保険適用から外すことは、やむを得ないと私も思う。
そもそも、どうして「OTC類似薬」がやり玉にあげられたのか。それを理解するにはまず、「スイッチOTC」のことを知る必要がある。「OTC」は「Over The Counter」(店頭) の略で、医師の処方箋なしに「薬局のカウンター越しに買える薬」のことを指す。OTCの中でもとくに重要なのが、「スイッチOTC」。これは、元々医師の処方箋が必要だった医薬品を、ドラッグストアでも買えるようにしたものだ。いわゆる「セルフメディケーション」促進策の一環で、指定のスイッチOTCを年間1万2000円以上購入した場合には、医療費控除を受けられる制度も設けられている。
スイッチOTCには、どのようなものがあるのか。解熱鎮痛薬(非ステロイド性消炎鎮痛薬やアスピリン)、総合感冒薬(PL顆粒)、去痰薬、胃腸薬(H2ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬)、花粉症薬(抗アレルギー薬)、点眼薬(抗アレルギー薬)、単純ヘルペス・水痘帯状疱疹薬(抗ウイルス薬)、点鼻薬、口内炎薬、腰痛・関節痛等の貼り薬(湿布薬)、乾燥肌用クリーム(ヘパリン類似物質など)、水虫・たむし治療薬、膣カンジダ治療薬、ステロイド外用薬、抗生物質外用薬、抗アレルギーの塗り薬、禁煙薬、睡眠薬(メラトニン受容体作動薬)、便秘薬(酸化マグネシウム)、ダイエット薬、ビタミン剤(ビタミンB12、ビタミンE)等々、その種類は多い。
この中で多くの人になじみ深いのが、たとえば解熱鎮痛薬の「ロキソプロフェン」だろう。商品名「ロキソニン」は、「非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)」の中でも消化管出血や腎機能障害などの副作用が懸念されるため長らく市販されておらず、医師の処方箋が必要だった。それが2011年にOTCとしてスイッチされ、今ではドラッグストアに行けば、ロキソプロフェンを配合した頭痛薬、貼り薬、塗り薬などが多数並んでいる。市販が開始された当時は、有害事象が多発するのではないかと、ドラッグストアでの販売を心配する声もあった。そこで、スイッチOTCでとくに副作用に注意が必要なものは、薬剤師が販売時に注意を促すことになった。
また、花粉症薬の「アレジオン」も、元々は処方箋の必要な薬だった。これも2011年にOTCにスイッチしたが、2015年には10㎎から20㎎に容量を倍増したアレジオン20も市販が許可された。私は花粉症が酷く、3月頃になると必ずアレジオン20をドラッグストアで買う(最近はジェネリック市販薬を買うことが多い)。クリニックに受診すれば安く手に入るが、待ち時間の節約になるので正直助かっている。2015年には「アレグラ」もスイッチされ、市販されるようになった(私にはアレグラよりアレジオンのほうがよく効く)。
さて、今回の「OTC類似薬」の話に戻ろう。これは医師の処方箋が必要な医薬品のうち、OTCと成分・一日最大容量が同じ医療用医薬品のことを指す。28の有効成分がリストアップされているが、日本維新の会の猪瀬直樹議員(元ノンフィクション作家)が厚労省医薬局に薬剤統計データから抽出させたのがきっかけだったようだ。薬剤費が多い上位3位は、皮膚保湿剤のヘパリン類似物質(544億円)、便秘薬の酸化マグネシウム(231億円)、花粉症薬のフェキソフェナジン(203億円*市販薬アレグラ)で、維新はこれらを保険適用外にすることで、最大1兆円の給付削減を目指していると伝えられている(全国保険医新聞「社会保障改革 自公維3党協議 維新がOTC類似薬の保険外しを要求」2025年5月25日 https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/2025-06-12/)。
OTC類似薬がなぜ狙い撃ちされたかと言えば、本来はドラッグストアで買えるにもかかわらず、「病院に行ったほうが安いから」という理由で、薬をもらうために受診する患者が多いからだ。とくにヘパリン類似物質のクリームを美容目的で入手しようとする女性や、腰痛・関節痛の貼り薬(シップ薬)をもらうために頻繁に受診する高齢者の存在が、しばしば槍玉に挙げられてきた。薬代の無駄遣いになるだけでなく、受診回数も増えるので、医療費を増やす原因になる。これを抑制しようというのが、社会保障費抑制を掲げる維新の狙いというわけだ。

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