… … …(記事全文5,853文字)2025年9月28日、千葉県で開かれた「おむつ外し学会」に初めて参加した。会場は「いしいさん家」という宅老所が運営する通所介護施設「52間の縁側」。グッドデザイン賞や日本建築学会賞を受賞しただけあって、緑に囲まれて、心が落ち着く、とても素敵な空間だった。「ありのまま、その人らしく。」をモットーとする、いしいさん家のホームページをぜひ見てほしい(https://www.ishiisanchi.com/)
介護というと、排せつや食事までなにかと世話を焼いてしまい、危ないからと旅行や楽しみも制限してしまいがちだ。しかし、そうした管理型の介護のやり過ぎは、要介護者が自力で体を動かす機会を奪い、生活能力を衰弱させてしまう。おむつ外し学会は、そうした介護のあり方に疑問をもつ介護従事者を中心とする人たちの集まりで、生活をリハビリの場として捉え、要介護者の主体性を尊重した介護の実践を目標としている(私はそう理解した)。
この学会の提唱者で、『関係障害論 老人を縛らないために』(円窓社)など介護関係の多くの著作を持つ三好春樹氏(理学療法士)の話を初めて聞いた。「生活リハビリ」の重要性を唱えてきただけでなく、人間関係の深い洞察に基づいた話は含蓄があり、とても学びが多かった。個人的にとくに印象に残ったのが「医師の3K」の話。曰く「権威主義」「管理主義」「科学主義」。三好氏は施設における面会制限の弊害についても語っていたが、コロナ騒ぎの人権侵害やワクチン薬害は、まさしく医師の3Kによって引き起こされた人災だった。
珍しいことらしいが、今回の学会では医師も登壇した。どの人の話もよかったが、とくに印象に残ったのが、福井県で在宅医療を展開する医療法人オレンジグループ代表の紅谷浩之氏の話だ。紅谷氏は2011年にオランダの家庭医マフトルド・ヒューバー氏が提唱した「ポジティヴヘルス」という概念を紹介。病気や障がいがあっても、その心身を自分でうまく乗りこなすことができていれば、「健康」なのだと前向きにとらえる考え方だ(HCD‐HUB「人の“エネルギー”に注目する「ポジティヴヘルス」とは何か? 医師・紅谷浩之さんが語る「健康」の未来像。」2022年5月19日 https://www.hcd-hub.jp/magazine/interview/4412)。
さらに紅谷氏は、リスクを恐れるあまり要介護者や医療的ケア児から生活や遊びを奪ってしまう現状を嘆き、その人がその人らしく暮らせるよう地域で支え合う仕組みをつくる重要性や、社会の過度な医療化からの脱却を説いた。私は三好氏や紅谷氏に深く共感した。そして、休憩時間にお二人や他の人たちとも話をして、私の考えが間違っていないことを確信した。「キュア(治療)」から「ケア(介護)」中心の社会に転換する。それこそが人々の幸福度を高め、結果として国民医療費の削減につながるのだ(HCD‐HUB「病院に閉じず、生活の中へとひらく。新しい「健康」を探求する紅谷浩之さんと考える、医療の未来」2022年5月26日 https://www.hcd-hub.jp/magazine/interview/4418)。
それを確かめるために、まずは在宅医療と入院医療のコストを比べてみよう。これは「小瀬ゆい在宅クリニック」のブログにあった試算だが、月間の費用を比べると在宅医療が6~7万円(自己負担6000~7000円)なのに対し、入院医療は約85万円(自己負担約8.5万円)と、12~14倍も高いのだ。在宅医療の場合にはここに介護費用も上乗せされるが、居宅サービスの上限額は最も重い要介護5の場合36万2170円だ。したがって、家で最期を迎えた場合の1カ月のコストは医療費と介護費を合わせても、多くて40万円ほど。つまり病院死の半分程度ということになる(小瀬ゆい在宅クリニック・神戸直哉院長「医療費増加時代に求められる『自宅で治す』という選択肢」2025年4月20日 https://kose-clinic.com/blog)
8月25日、千葉市内で開かれた森田洋之氏(訪問診療医・医療経済ジャーナリスト)の講演にも参加したが、現実として在宅死にかかるコストは病院死の3分の1程度と話していた。コロナ騒ぎにより面会制限が続いたことで、皮肉なことに在宅療養を選ぶ人が増えているが、在宅死はいまだ全体の2割程度だ(介護施設等での死亡が10%程度)。現在も病院死が7割近くを占めており、亡くなるまでの一定期間、入院する人の多いことがうかがえる(厚生労働省「人生の最終段階における医療・介護」2023(令和5)年5月18日https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001104699.pdf)
当然、入院期間中に多額の医療費が使われることになる。終末期医療のコストは医療費全体の中では大きくないと言われているが、それでも病院死から在宅死へのシフトが進んでいけば、その分の医療費は下がることになる。しかも大事なことは、生活が管理されて面会まで制限されるような病院で最期を迎えるよりも、夜更かししようがお酒を飲もうが誰にも咎められない我が家で過ごし、最期は家族、友人、知人に囲まれて亡くなるほうが、絶対に幸福度が大きいことだ。

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