… … …(記事全文5,679文字)とうとう始まった。2024年4月17日、新型コロナワクチン接種後に死亡した8人(当時19~79歳)の遺族と、学校や職場へ通えなくなった後遺症患者5人(18~55歳)の計13人が、青山雅幸弁護士を原告代理人として、国に総額約9150万円の賠償を求める集団訴訟を東京地裁に起こしたのだ。
私は法律の専門家ではないので、裁判での責任の問い方の「良し悪し」を評価するつもりはない。ただ、記者会見の動画や各メディアの報道で訴状の内容を知って注目したのが、賠償を求める理由として「副反応などのマイナス情報を広報せずに被害を広げた」としている点だ。報道によると、訴状には次のように書かれている。
「国がワクチン接種を、新聞広告、テレビCM、果てはユーチューバーまで使って広報するなどして強力に推し進める一方、歴史上、類を見ない頻度で接種後の副反応報告が挙がった。 そして、その中には重篤な後遺障害や死亡例も多数含まれていたにもかかわらず、そのようなマイナス情報については国民に事実上広報しないまま、接種を推し進め被害を拡げたことに対する責任を問うことを主眼とした訴訟である」(FNNプライムオンライン「新型コロナワクチンで国を集団提訴 総額9152万円の損害賠償求める 接種後死亡も危険性『広報せず』」2024年4月18日より)
これまでの薬害の裁判では、製薬会社が安全性に問題のある医薬品を製造して販売したことや、その医薬品の承認手続きで安全性の確認を怠ったこと、市販後の安全対策を怠ったことなどが、国および製薬会社の責任を求める根拠になっていた。たとえば、手術や出産時に血液製剤を投与された患者にC型肝炎の感染が広がった「薬害C型肝炎」の訴訟について、法務省のホームページでは次のように解説されている。
「本件は、厚生大臣が製造承認又は輸入承認し、製薬会社が製造販売した血液製剤(特定フィブリノゲン製剤又は特定血液凝固第Ⅸ因子製剤)の投与によってC型肝炎ウイルスに感染し、生命・身体的、社会的、財産的、精神的な損害を被ったとする患者又はその遺族の方々が、国及び製薬会社に対し、損害賠償を求めている事案です」(法務省「C型肝炎訴訟/訴訟の概要」)
また、肺がんの治療薬で800人を超える人が間質性肺炎で亡くなった「薬害イレッサ事件」についても、同じく法務省のホームページで次のように説明されている。
「本件は,肺がん治療薬イレッサを服用した患者本人又はイレッサを服用してその後死亡した患者の遺族の方々が,患者らはイレッサの副作用により間質性肺炎を発症し若しくは増悪させ、又はそれにより死亡したものであり、厚生労働大臣には、(1)イレッサに有効性,有用性がないにもかかわらず、不十分な審査しか行わないままこれを承認した違法がある,(2)イレッサの副作用である間質性肺炎について適切な安全対策を執らなかった違法があるなどと主張して(中略)損害賠償を求めている事案です。(法務省ホームページ「イレッサ訴訟/訴訟の概要」)
ところが今回の訴訟は伝えられている限り、コロナワクチンそのものの害や、審査プロセスや安全対策などの一般的な医薬行政の手続よりも、「副反応などのマイナス情報を広報しなかった」点を問うことが主眼となっている。そこが過去の薬害裁判と比較して、かなり異色であると見ることができるだろう。さらに言えば、医薬行政執行の主体である厚労省だけでなく、政府の特定の要人に対しても薬害の責任を厳しく問おうとしている点で出色している。具体的には、次の二つが問題のあった広報の例として挙げられている。
一つ目が、岸田文雄首相が登場した、新型コロナウイルス対策「若者のワクチン接種」編という動画だ(2022年5月13日)。そこで岸田首相は次のように呼びかけていた。
「若い方々でも、新型コロナに感染し重症化する方もいます。また、感染後、症状が長く続く、いわゆる後遺症もあります。3回目接種をすることで、感染そのものを防ぐ効果、感染した際の重症化を防ぐ効果があります。自分を守り、家族や友人を守るために、ワクチンは、種類よりもスピード。3回目接種をご検討ください」
原告は訴状で、この動画の岸田首相の発言は「副反応報告など不利益情報についてまったく触れられていない」と指摘している。
そしてもう一つの例として挙げられているのが、我々のようにコロナワクチンに疑義を呈してきた人たちの間では有名な、2021年6月24日に当時の河野太郎・初代ワクチン接種推進担当大臣(2021年1月18日~10月4日/現デジタル担当大臣)が、ユーチューバーのはじめしゃちょーと対談した動画だ。その中で河野大臣は、次のように語っていた。
「アメリカで2億回打ってるんですけど、ワクチンで死んでる人は1人もいない。そんなに心配することはないです」
これに対して、訴状では次のように指摘している。「収録前日の2021年6月23日に行われた副反応検討部会で『6月13日までの累計接種回数は2368万5319回のうち、死亡報告数が254件。そのうち「関連あり」として報告されたものが20件』と報告されていて、アメリカでなく、日本の現実の接種を答えるべきで、『大臣による隠蔽(いんぺい)と評せざるを得ない』(以上、岸田首相、河野大臣の動画やそれに対する訴状の指摘等の引用は、FNNプライムオンラインの前掲記事より)。
ちなみに、これも我々の間では有名だが、河野大臣はワクチン担当大臣を退いた2カ月後の2021年12月、ユーチューブのライブ配信「たろうとかたろう」で、コロナワクチン接種後の心筋炎について、次のように語っていた。
「新型コロナウイルスに感染すると心筋炎、かなりの割合、それから結構重症の心筋炎になる方がいます。ワクチンでも心筋炎になる人がいるんですけども、確率的にも小さいし、軽症です。ほとんどの人は回復しています。ですから『ワクチン打ったら心筋炎が』とまた反ワクチンの人が騒いでいますけども、それは全然気にすることはありません。リスクよりベネフィットのほうがはるかに大きいというのは、その通りですから。とくにワクチンについて、何かが変わるということはありません」(YouTube「【河野太郎のLIVE配信】たろうとかたろう」2021年12月5日15:00~15:47ごろまで)。
この発言を見てもわかる通り、河野大臣がコロナワクチン接種後に心筋炎を発症するリスクがあるという指摘を認識していながら、それを軽視していたことは明白だ。多くの医師が指摘している通り、心筋炎は軽視できる病気ではない。事実、予防接種健康被害救済制度でも、心筋炎・心膜炎による健康被害が多数認定されているうえに、その中には死亡例もある(著書『コロナワクチン 私たちは騙された』宝島社新書を執筆するために調べたのだが、少なくとも2023年11月24日までの段階で、13例死亡認定があった)。心筋炎が命に関わる結果を引き起こしかねないことは、容易に予想できることだ。河野大臣の発言は極めて無責任だと言わざるを得ない。
X(ツイッター)では言えない本音
鳥集徹(ジャーナリスト)