先日、アベマプライムという番組に出演した。アベマには数年の間に何度か呼んでもらっているが、今回はゲストではなく通しのコメンテーターとしての出演だった。
大変感じのよい番組だったと言っていいだろう。特に若い女の子たちがいかにも賢い事に感心した。知識があるという事ではなく、物の考え方の筋がいい。
筋のいい賢さは気持がいい。人柄などはまるで分らないが、話を聞いていていかにも女性らしい、持って生れ、自然にはぐくまれた賢さのようなものが私には心地よかった。
男は賢くなろうとせねば賢くなれない。学問を学び、武道で鍛錬し、仕事で汗をかき、恥をかいて、男は徐々に男になる。この過程を踏まねば、男は愚鈍であり続けるか鼻持ちならない才子になるほかない。
女は生まれながら賢さを裡に持っている。女の本質に母性があるからであろう。母になるのに学習はいらない。どんな動物の雌も母親業をそれぞれの性情に応じて身に着けている。母性というこの深い本能は物心ついた時から女を深く満たしていて、それを損なわなければ、女は女らしさの裡に聡明さをおのずと育む。
その聡明さは、成熟していない男には見えない。時に愚鈍に見える。が、命そのものが持つ本能の確かさに足を付けた女の賢さは、男が成熟すればするほど、貴重なもの、及ばないものに見えてくるように思う。
「人は女に生れるのではなく女になる」と言ったのはボーヴォワールだが、男の学問をやり過ぎた女の発想である。これを私は批判や皮肉で言うのではない、この男の学問、いやイデオロギーに染まった女の誕生が何を意味するのかは、今、人類が直面している巨大な主題である。よく考えてみねばならないのだろう。
昔女は生む機械と言って失言した政治家――大変立派な人格者だし教養人だった――がいたが、男は生物学的には子種なので、生物としての役割は女よりもはるかに息が短い。
文明は間違いなくその男が生んだ。生物としての役割が乏しい雄なのにも関わらず、なぜかホモ・サピエンスの雄はそれに甘んじず、余剰価値を生み続ける事になったわけだ。
男によってホモ・サピエンスは人間へと離脱した。
部族の中で闘争し、他の部族と戦争し、群れではなく社会なるものを形成し、威張り、支配し、着飾り、ハーレムを作り、文明を作り、法を作り、しまいには学問などという妙なものをし始めた。
こうして生れた人類の文明のコードは徹頭徹尾男性性に貫かれている。
女性の社会進出というが、男性性によってしか社会なるものは形成され得なかった。そこは闘争と創造のるつぼであり、競争と暴力をあくまでも原理としてここまできた。発達してきたとも言えるし、より多く破壊してきたとも言える。進歩して来たとも言えるのか知れないが、まさに人類の歴史とは死屍累々そのものとも言える。男がいなければ戦争に次ぐ戦争、殺人に次ぐ殺人の歴史はなかったろう。
そんなものに「進出」したいのですか、女性の皆さんよ。あなたたちはより深い賢さに満たされているのに、と言いたい気持ちを持っていないと言えば嘘になるが、それでは単なる皮肉で終ってしまうだろう。
そこには戦争と暴力によって開拓された結果としての果実はあるわけだ。文明も創造も宗教も学問もある。社会事業があり、社会的成功があり、経済的な自由もある。
それが男性にだけ魅力的で女性に魅力がない筈はないのだろう。
私はそれを肯定も否定もしない。
それが何を意味するか、まだ全くわからなくもある。
ヒト属の歴史は1000万年、ホモ・サピエンスの歴史は20万年~30万年だが、高度文明の歴史は精々6000年である。
余りにも短い。
ましてや科学技術文明に至っては300年程度の歴史しか持たない。
私たちは文明の新参者に過ぎず、経験があまりにも不足している。
その短い文明史を男が血で血を洗う殺戮の中で生み出した。
科学はどんどん人間を疎外し続けている。
私たちはかつてない快適さと清潔さと利便性に囲まれているが、人生そのものは空洞化している。
ネットでは映画や音楽が無数にただ同然でデータ取得できるが、昔、一冊の活字を貪り読んでいた人たちの誰よりも、私たちは不注意で散漫で中途半端なデータの消化者に過ぎなくなっている。
暮しに立ち止まる余裕は掻き消え、消化すべき予定がそれにとって代わっている。よりによって「暮らし」を守る側を受け持ってきた女性の社会進出が叫ばれるに至ったこの数十年、私たちの「暮し」そのものの空洞化が同時に極めて根深く生じているのである。(続く)
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