… … …(記事全文2,314文字)日本を守るとはどういうことか。
日本の歴史、日本人の生き方、日本人のあり方、日本の国語を守るということに他なりません。
皆さんが日本を守るには、まず日本人として立派な日本人であらねばならない。
ところがここで私はまた途方に暮れてしまうんですよ。
話をどう通じさせようにも、歴史と文学とから現代の日本人があまりにも遠ざかつてしまっているからです。
日本人というのは歴史や文学を調べれば調べるほど立派な民族なのです。
そして歴代の日本人というのは、まさに天皇陛下から庶民にいたるまで、それぞれに歴史と文藝に親しみ、人間性を歴史や文藝から学び続けてきました。歴史と文藝が日本人の長年の教科書だった。
もちろん、すべてが美談なわけではない。悪逆、残忍、汚辱、卑劣な歴史もあります。しかしそうしたことも含めて、それが人間というものでしょう。それを日本人は様々な歴史語りや文藝を通して表現し、学んできた。
日本人の文藝愛好というのは古代から非常に高かった。萬葉集に、天皇、宮廷歌人、貴族のみならず、防人の歌、東歌など庶民の歌が多く収められています。世界の文藝史に例を見ません。こうした詠歌は古代にあっても広く列島を覆っていたとみなければなりません。さらに、庶民までも巻き込んで、神話、語り伝へ、説話、猿楽があり、平家物語、謡曲、太平記、連歌俳諧、漢詩文、浄瑠璃、読本、国学と、我が国は常に文藝愛好の内にあった国です。
その中心には、御歴代が皆歌人でいらした天皇がおられた。
小川榮太郎「批評家の手帖から」
小川榮太郎(文藝評論家)