… … …(記事全文3,858文字)◆世論の勝利
6月24日、機密文書告発サイト「ウィキリークス」の創設者ジュリアン・アサンジ氏がロンドン・スタンステッド空港からプライベートジェット機で飛び立ち、米自治領・サイパン島の裁判所に出廷したことを世界中のメディアが報じました。彼はアメリカの「スパイ活動法」違反の罪を認める代わりにイギリスの刑務所での服役期間(5年2カ月)をアメリカの刑務所で服役したこととして帳消しにする、という司法取引で米司法当局と合意していました。このことは日本でも報じられましたが「司法取引が行われた結果の釈放」という点ばかりに報道の焦点が当たっているようです。彼は今、母国オーストラリアで自由の身になりましたが、そこに至るまで7年間の駐英エクアドル大使館での軟禁生活と5年間の英刑務所での勾留に耐えなければなりませんでした。
2022年5月のオーストラリア総選挙で労働党が勝利し、アンソニー・アルバニージー氏が首相となりました。彼はアサンジ氏の行動を「全面支持はしないがもう十分だ」と主張し、彼の釈放を求めました。豪議員団は昨年9月に訪米し、米議会に彼の釈放を働きかけました。今年2月、豪議会が米英両国に対してアサンジ氏の帰国を認めるように求める決議案を、圧倒的多数で可決しました。それでもなお、この問題が解決にいたるかどうかは不透明でした。
アサンジ氏の罪状は一つではありません。アメリカの国防に関する機密を公開した罪17件は、それぞれ最高10年の禁錮刑が科される可能性がありました。ハッキングの罪1件は最高5年の禁錮刑となり得ました。アメリカに引き渡されたら間違いなく終身刑か死刑だったでしょう。そもそも彼が今まで生存できたことすら奇跡的でした。しかしアメリカに引き渡すことに反対する世論が欧州やオーストラリアで湧きあがりました。今回の釈放はまさに世論の勝利といえるでしょう。