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吉富有治の魔境探訪 - 政治という摩訶不思議を大阪から眺める

吉富有治(ジャーナリスト)

吉富有治

副首都法案が可決された日 付帯決議のちゃぶ台返しが招く政治的ハレーションと維新が失うもの

 25日まで会期を延長した今国会で、政府・与党の重要課題だった副首都法案が参院で可決された。当初、副首都法案については野党から「生煮えだ」との批判もあり、法案成立は綱渡りの状況となっていた。しかも、会期延長にともなう実質的な審議日はわずか数日。それでも与野党はぎりぎりまで攻防を繰り返し、どうにか本会議での採決へとこぎ着けた。ところが、それが台無しになる事態が起こったから驚いた。


 採決の条件として野党が求めていたのは、大阪市廃止・特別区設置構想(いわゆる大阪都構想)の賛否を問う住民投票の実施時期についてだ。この住民投票を統一地方選などと同時実施することを禁止する内容を付帯決議に盛り込むことだった。対して与党は、「重複しないように最大限調整する」の文言を明記するとし、野党もこれを了承した。


 ところが、可決直後に日本維新の会の吉村洋文代表が「同日選を目指すべきだ」と、付帯決議を無視するかのような発言をした。付帯決議に法的拘束力はないとはいえ、政治的には明確に信義則を損なう言動であり、今後の国会運営に深刻な影響を及ぼす可能性が高い。


 付帯決議は法律そのものではないため、違反しても法的責任は問われない。だからといって、「罰則がないから破ってよい」ものではない。国会は法的拘束力だけで動いているわけではなく、「合意したことは守る」という誠意や信義則によって成り立っている。付帯決議を軽視する行為は次の法案審議での協力関係を損ない、政党間の信頼を根っこから破壊してしまう。


 維新議員や支持者の一部には「付帯決議に拘束力はないから問題ない」という声もあるが、これは国会政治の実務を理解していない戯言だ。今回の付帯決議は、野党が採決に応じるための最低限の条件だった。与党は「最大限調整する」と明記し、野党はそれを信頼して採決に応じたのだ。なるほど、守らなくても罰則はないが、守らなければ政治的コストが極めて大きい。だからこそ、各党は付帯決議を事実上の約束事として扱ってきた。


 吉村は「付帯決議の趣旨は尊重する」と述べつつ、「同日選禁止法案は否決された」「自分は同日選を目指すべきだ」と言い訳をしている。これは付帯決議の政治的意味を空文化し、国会合意を軽視するものでしかない。


 吉村の発言は、国会内で「維新は合意を守らない政党だ」という評価を広げる可能性が高い。今後の法案審議や協議で維新の発言力が低下し、与党との協力関係にも亀裂が入る恐れがある。今回の付帯決議は与党が野党を説得するために提示した妥協案だった。それを維新代表が直後に否定する方向の発言をすれば、「維新は与党の顔に泥を塗った」と受け取られ、連立相手である自民党の警戒心を強めるのは必至だ。


 いわゆる都構想の制度設計を行う法定協議会では、すでに他会派が維新への不信感を募らせている。今回の吉村発言は「維新は国会でも府市でも合意を軽視する」という印象を補強し、協議の停滞を招く可能性がある。


 住民投票の正当性を損なうリスクもあるだろう。付帯決議は、都構想の賛否を問う住民投票と通常選挙を同時に行うことで生じる有権者による判断の混乱を避けるための民主的配慮だった。その直後に「同日選を目指す」と発言すれば、「維新は住民投票を政局化している」「公平性が損なわれる」という批判が出るのは避けられない。住民投票は政令市廃止の正当性を担保するプロセスであり、その中立性が疑われれば賛否の結果も疑わしくなってくる。


 吉村は「同日選がかなわない場合は知事選に出馬しない」と述べていた。この発言と今回の「同日選を目指すべき」が結びつくと、「付帯決議の軽視は吉村の個人的政治日程のためではないか」という批判が生じる。それを追随する維新という政党も、「改革政党」どころか「吉村の私兵」と見られてしまう。


 政権にも火の粉が及ぶだろう。副首都法案は高市早苗政権と維新の協力関係の中で成立した経緯がある。そのため、維新の独走や約束違反が問題視されると、維新を与党に引き入れた政権の責任が問われる。連立・協力関係のあり方が野党の追及材料となり、政権運営に不安定要因を残すことになる。


 吉村の発言は法律上の問題こそないものの、国会合意を軽視したと受け取られるのは避けられない。維新の信頼性、政党間協議の円滑性、住民投票の正当性に影響を及ぼす構造を持ち、政治的ハレーションは複数のレベルで発生する可能性が高い。「与野党の約束すら守らないまま、強引に住民投票を押し進めている」という批判が強まれば大阪の政治にも飛び火し、再び深い対立と分断の渦に巻き込まれるだろう。

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