Foomii(フーミー)

吉富有治の魔境探訪 - 政治という摩訶不思議を大阪から眺める

吉富有治(ジャーナリスト)

吉富有治

【無料再配信】分母を操作する民主主義のパロディ 住民投票の対象拡大を狙う維新の法感覚の欠如
無料記事

 以下の記事は今年4月3日に「臨時配信」したものである。現在、政府・与党において大阪市廃止・特別区設置構想が求める住民投票の対象を、これまでの大阪市民から大阪府民へと拡大する動きがあるようなので、これについて批判したメルマガを無料で配信したい。なお、時制や事実関係などは当時のままなので、現在では変更されている部分があることはご了承願いたい。


 * * * * * * * * * *


 ふたつの物質が混ざることで爆発物や毒薬などの危険物に化学変化することがある。たとえば、金属ナトリウムに水を加えると発熱し、爆発する。漂白剤と酸性洗剤を混ぜると強い毒性を持つ吸入性の塩素ガスが発生する。後者は家庭内で最も多い事故だと言われている。


 このように、化学の世界では「混ぜると危険」と警告されている物質は数多い。実験室だけではなく、種類によっては家庭で事故が起こる場合がある。私たちも様々な物質に囲まれて生活しているので注意が必要だ。


 ふたつの物質が混ざることで危険物に変化する事例は化学に限った話ではない。国際社会や政治の世界でも象徴的に起こり得ることである。その典型が現在の米国とイスラエルではないか。米国のトランプ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相が手を組んだことで国際政治的な"化学変化"が起こった。両国はイランに対して奇襲攻撃を仕掛け、その影響で周辺の中東各国を巻き込む戦乱へと拡大しつつある。


 日本もとばっちりを受け、ホルムズ海峡が封鎖されたことで原油の輸入に黄信号が灯っている。備蓄石油で急場をしのいでいるが、これも無限にあるわけではない。このまま戦争が終わらなければガソリンをはじめとする原油製品は底をつき、いずれ日本経済は破綻する。世界も大恐慌に陥る危険があるだろう。それもこれも、トランプとネタニヤフという"危険物"が混ざった結果と言える。


 日本の政治も現在、ふたつの政党が混ざったことで危険な"毒ガス"を日本中にばらまいている。高市早苗政権が率いる自民党と日本維新の会のことだ。いまや両党の混合が"化学変化"を引き起こし、"有毒ガス"を国内にばらまいている。高市の思想は超保守であり、ごりごりの改憲派。日本維新も思想的には右翼であり、両者が手を組んだことで日本は右旋回に舵を切った。


 高市以前の与党は公明党が控えていたことでストッパー役となるブレーキが政権内に存在した。安全保障をはじめとする、あまりに右旋回する政策には公明党が「待った」をかけていた。ところが日本維新はブレーキどころかアクセル全開で、一気に加速するターボチャージャーの役割を果たしている。高市政権は国旗の損壊に罰則を与える「国旗損壊罪」の法整備を進めており、表現の自由との兼ね合いが問題視されている。憲法第9条を有名無実化させ、そのうち自衛隊を「軍」に昇格させる改憲も目指している。まさに、やりたい放題である。そこに日本維新が力を貸しているのだから、「混ぜると危険」の法則は日本の政治の世界でも発動している。


 日本維新は単独でも危険だが、そこに与党入りという化学変化が加わったことで、いまでは有毒ガスか爆発物並みの危険度を備えている。中でも一番驚いたのは、維新代表で大阪府知事である吉村洋文の1日の会見だった。ここで吉村は、大阪市廃止・特別区設置構想(いわゆる大阪都構想)の賛否を問う住民投票の対象を、これまでの大阪市民から府下全域に拡大すると言い出した。さらに、賛成多数になれば大阪府を「大阪都」に名称変更することも可能だとした。


https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF0142X0R00C26A4000000/


 最初はエイプリルフールの冗談だと思っていたら本気だったから驚いた。ウソではなくホンモノだとわかった途端、維新の支持者は「これで都構想は実現する」と狂喜し、反対派は「インチキだ」などと反発した。私の素朴な感想は、「こんなアホな暴挙を許せば日本は法治国家ではなくなる」である。


 いわゆる都構想の賛否を問うた各メディアの世論調査によれば、大阪市民を対象にしたものより大阪府民対象のほうが賛成は多い。大阪市民を対象にしたものでは、賛成がやや多いか賛否が拮抗している。吉村が住民投票を府民に拡大しようとしているのは、このほうが賛成多数になる確率が高いからだろう。こうなると維新が最大限にメリットを受けるためだけに法律改正が行なわれるわけで、日本は法治国家と言うよりは「ご都合国家」と呼ぶほうが、むしろスッキリする。


https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20260211-GYO1T00004/


 吉村が言う住民投票の対象拡大については、自民党と合意した「国家社会機能継続性確保施策の推進及び副首都の整備に関する法律案」(仮称)に一応の根拠があるようだ。この法案については、元維新で現在は国民民主党の足立康史参院議員がX(旧ツイッター) で記しているので以下を読んでもらいたい。ポイントは、最後の「附則」にある「副首都が名称変更を希望する際の住民投票等の手続等について定める大都市法の改正を行う。」という一文だ。大都市法とは、いわゆる都構想の根拠法である「大都市地域における特別区の設置に関する法律」の別称である。


https://x.com/adachiyasushi/status/2039005112040038882


 附則に「大都市法の改正を行う」と記されていることから、同法の改正によって住民投票の対象を府下の市町村にまで拡大することを狙うようである。だが、住民投票の対象拡大は法改正という機械的な作業で済むほど簡単な話ではない。法律だけではなく憲法上の問題を含むからである。


 まず、現行の大都市法の構造とも、憲法上の住民自治の原理とも整合しない可能性が極めて高い。吉村は「可能」と語るが、法技術的には無理筋でしかない。


 現在の大都市法は住民投票の対象を、廃止される政令市の住民、すなわち大阪市民に限られるとしている。その根拠は大都市法施行令4条にあり、大阪府のQ&A「問2.住民投票できる人の範囲は?」にも記されている。


(注・現在、このURLは削除)


 なぜ大都市法は住民投票の対象を廃止される政令市の住民だけに限ったのか。その理由は、政令市が廃止されて特別区が設置されると、直接的なデメリットを受けるのはそこに住む住民だからだ。大阪市の財政と権限の一部が大阪府へ移管されることで、特別区は財政と権限が劣る自治体モドキになる。直接的な影響を受けるのは特別区の住民になることから、選択権は大阪市民にあるというのが法の趣旨である。


 多くの維新支持者は「都構想は大阪府全体に影響が及ぶ。住民投票を府下全域に拡大しても問題ないし、むしろ当然だ」と主張する。大阪市が廃止されると、府の役割や財政構造が変わるため、府全体の広域行政の再編につながる。だから、大阪市だけの問題ではないと言いたいようだ。なるほど、一理あるように思えてくる。


 だが、これを民主主義のルールや法的な立て付けに照らし合わせると、極めて危うい劇薬でしかない。確かに都構想が実現すれば、その影響は府下に及ぶだろう。しかし、影響の拡大が投票権拡大の理由にはならないのだ。そのようなことを許せば、「大阪市廃止の影響は大阪府下に及び、いずれ隣接する京都市や神戸市にも及ぶ。だから両市民も住民投票の対象にすべき」というヘリクツを招いてしまう。


 ここまで極端ではなくても、たとえば自分の家の建て替えが町内全体の景観や地価に影響するからといって、建て替えの是非は町内全員の多数決で決めると言われるようなものである。大阪市の廃止も同じことで、そのメリットとデメリットを受けるのは大阪市民であり、政令市の廃止を直接決めるのは大阪市民であるというのが日本の地方自治制度の基本構造であり憲法上の規定なのだ。


 憲法第92条に規定された「地方自治の本旨」にも反する。日本の地方自治制度は、その自治体の組織・存廃に直接の利害を持つ住民が意思決定するという原理に立脚している。都構想の場合、廃止されるのは大阪市であり、影響を受けるのは大阪市の法人格と財産、行政権限、そして住民サービスだ。したがって、意思決定の主体は大阪市民に限定されるのが憲法で規定した地方自治の原則である。


 もし大阪府民全体にまで住民投票を拡大すると、自分の自治体は存続するのに他の自治体の廃止に投票できるというイビツな構造が生まれる。これは、自治体の存廃を決める権限を、その自治体の住民以外に与えることになり、住民自治の原理に反してしまう。それでも強引に大都市法を改正するとどうなるか。違憲の疑いが濃厚となり、違憲審査の対象になるのは確実だろう。


 じつは維新と自民党との間で副首都構想の問題が議論されたとき、維新が主張する住民投票の対象拡大に対して、一部の自民党議員から「憲法第92条に反する」という異論が出たと、私は自民党関係者から耳にした。だが、関係者は「最終的に政治的な判断によって合意内容に落ち着いた」と語っていた。法律の趣旨や立て付けよりも政党間の利害関係が優先されるこの国は、やはり法治国家ではない。


 また吉村は、住民投票の対象を拡大する理由について副首都構想を挙げている。「住民投票の範囲が府域全体であるということは筋が通っている」と訴えるが、実際は筋など全然通っていない。


(注・現在、このURLは削除)


 そもそも副首都構想は国家レベルの問題であり、都市全体の行政機能と広域政策の再編を扱う政治的構想にすぎない。政令市廃止の法的手続きとは別次元の制度である。副首都構想を理由に住民投票の対象を拡大する法的根拠は存在しないし、あたかも存在するかのように錯覚させるのは詐欺師の甘言と大差ない。


 吉村は、住民投票の対象を府下全域にまで拡大するかを最終的に決めるのは法定協議会だと説明する。しかし、大阪府と大阪市の両議会は大阪維新の会が最大会派を占めている。対象拡大の案が賛成多数になる可能性はきわめて高いだろう。


 ただ、そのような中にあって吉村の"暴走"を危惧する声は維新内部からも聞こえてくる。維新の一部には住民投票を府下全域に広げることを「とんでもない禁じ手だ。バカげている」と怒る議員がいることも最後に付け加えておきたい。(文中・敬称略)


<なお、この記事の無断転載は固くお断りいたします。>




本ウェブマガジンに対するご意見、ご感想は、このメールアドレス宛てにお送りください。


配信記事は、マイページから閲覧、再送することができます。

マイページ:https://foomii.com/mypage/


【ディスクレーマー】

ウェブマガジンは法律上の著作物であり、著作権法によって保護されています。

本著作物を無断で使用すること(複写、複製、転載、再販売など)は法律上禁じられています。


■ サービスの利用方法や購読料の請求に関するお問い合わせはこちら

https://letter.foomii.com/forms/contact/

■ よくあるご質問(ヘルプ)

https://foomii.com/information/help

■ 配信停止はこちらから:https://foomii.com/mypage/



今月発行済みのマガジン

ここ半年のバックナンバー

2026年のバックナンバー

2025年のバックナンバー

2024年のバックナンバー

2023年のバックナンバー

2022年のバックナンバー

2021年のバックナンバー

このマガジンを読んでいる人はこんな本をチェックしています

月途中からのご利用について

月途中からサービス利用を開始された場合も、その月に配信されたウェブマガジンのすべての記事を読むことができます。2026年6月19日に利用を開始した場合、2026年6月1日~19日に配信されたウェブマガジンが届きます。

利用開始月(今月/来月)について

利用開始月を選択することができます。「今月」を選択した場合、月の途中でもすぐに利用を開始することができます。「来月」を選択した場合、2026年7月1日から利用を開始することができます。

お支払方法

クレジットカード、銀行振込、コンビニ決済、d払い、auかんたん決済、ソフトバンクまとめて支払いをご利用いただけます。

クレジットカードでの購読の場合、次のカードブランドが利用できます。

VISA Master JCB AMEX

キャリア決済での購読の場合、次のサービスが利用できます。

docomo au softbank

銀行振込での購読の場合、振込先(弊社口座)は以下の銀行になります。

ゆうちょ銀行 楽天銀行

解約について

クレジットカード決済によるご利用の場合、解約申請をされるまで、継続してサービスをご利用いただくことができます。ご利用は月単位となり、解約申請をした月の末日にて解約となります。解約申請は、マイページからお申し込みください。

銀行振込、コンビニ決済等の前払いによるご利用の場合、お申し込みいただいた利用期間の最終日をもって解約となります。利用期間を延長することにより、継続してサービスを利用することができます。

購読する