Foomii(フーミー)

吉富有治の魔境探訪 - 政治という摩訶不思議を大阪から眺める

吉富有治(ジャーナリスト)

吉富有治

【無料の臨時再配信(2022年10月19日号)】難波宮跡公園は「賑わいもなく寂しい公園」か 維新的都市公園論を斬る !!
無料記事

 以下は2022年10月19日に配信したメルマガである。この配信号についても今回、無料で配信する。ぜひ、お読みあれ。


  *** *** *** ***


 今年4月20日(注・2022年当時)のメルマガでは、「大阪の街は美しくなったのか 表面的な現象からは見えない裏の問題を憂う」というタイトルの記事を配信した。この記事の趣旨は、大阪維新の会(以下、大阪維新)やその支持者らが、「昔に比べて大阪の街は美しくなった」「汚かった地下鉄のトイレも綺麗になった」などと無邪気にはしゃいでいるので、その真偽を検証したものである。


https://foomii.com/00225/2022042008000093390


 大阪維新の界隈が「大阪の街は美しくなった」と声高に主張するのは、それが同政党の"実績"だと宣伝することで世間に支持を訴えるためだろう。また支持者にとっては、大阪維新を信じる1つのアイデンティティになっているのだと想像する。以前の大阪は薄汚れ、そして都市も経済も寂れていた。そこに大阪維新という"救世主"が現れたことで大阪の街も改善したというストーリーを造りたいのではないか。


 そこで4月20日のメルマガでは、大阪維新や支持者らの主張に対して、まったくの嘘ではないが事実でもないと指摘した。部分的に正しい事実を全般的な事実だとする詭弁だと書いた。


 当時のメルマガで例に挙げたのは大阪城公園と天王寺公園「てんしば」である。これらの都市公園では大阪維新が登場する以前からホームレスの人たちが暮らすブルーシートの簡易テントが目立ったのは事実であり、それが今ではどこかへ消えたのもまた事実である。つまり現象面と統計面では大阪維新がいう「大阪の街は美しくなった」は正しいといえる。


  その点について4月20日配信のメルマガでは次のように記している。


>2003年の厚生労働省による調査では、全国のホームレスは約2万5296人、そのうち大阪市は6603人もいた。約4分の1を大阪市が占めていたことになる。その後、同省が2021年4月に調査したところではホームレスは3824人となり、2003年から比べると激減している。大阪市内のホームレスは943人。18年前に比べると大幅に減ったとはいえ、それでも大阪市は全国的には最多である。


 しかし裏側を探っていくと、それほど単純な話ではないこともわかってきた。大阪城公園からホームレスの人たちが消えたのは事実でも、この世の中から消滅したわけではない。中には不幸にも亡くなった人がいるだろう。大阪城公園を離れて別の土地で生活している人もいるはずだ。行政の統計に表れないままホームレスとして暮らしているのか、それとも仕事に就いて住む家もあるのか。それがわからないのは、その後の彼らの行方がまったく不明だからだ。


 大阪市でホームレス対策にあたる関連部署の担当者は、私の取材に対して「ホームレスの人たちが消えた理由は正確なところはわからない」と答えていた。ホームレスから抜け出して定職につき屋根のある部屋で寝泊まりしているのか、それとも別の場所で相変わらずホームレスなのかは行政も把握していないのだ。彼らが大阪城公園から消えたのは事実でも、これでは消えた彼らは社会的な存在としてカウントされていないことになる。


 これはとても残酷な話ではないか。たとえ大阪城公園からホームレスが消えても抜本的な対策にはなっていないからだ。「きれいになった」といわれる大阪城公園も、その本質は大阪市民に見せたくないものを隠したにすぎない。「ホームレスという汚い存在が目の前から消えたら大阪城公園は美しくなった」という発想は非常に差別的であり、かつ精神の貧しさを示している。散らかった部屋のゴミを隣家の庭に投げ捨て、「我が家にゴミはない」とうそぶいているようなものである。


 大阪城公園のホームレス対策は、大阪維新が初めて手を付けたことではないとも指摘した。大阪市がホームレス対策に力を入れたのは1999年8月。全国に先駆けて巡回相談事業をスタートさせ、2000年10月からは自立支援センター事業も実施。国レベルでは、2002年8月に「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」(ホームレス特措法)が10年間の時限立法として公布・施行され、この法律を受けて大阪市もホームレス対策を進めてきた。つまり大阪市のホームレス対策は、故・磯村隆文(16代)から關淳一(17代)、平松邦夫(18代)ら歴代市長が既に取り組んできたことなのだ。大阪維新のおかげで大阪城公園が美しくなったとするのは、あまりにも飛躍と誇張がすぎる。


 大阪維新が言う「きれいになった」のはホームレスが消えたからだけではなく、公園内にレストランやカフェなどの施設が建ったことも意味しているようである。


 大阪城公園は2016年以降、秋から冬にかけて西の丸庭園を中心に「大阪城イルミナージュ」というイベントをスタートさせている。2017年10月からは複合施設「MIRAIZA OSAKA-JO(ミライザ大阪城)」として営業を開始し、数々のショップやレストランが並ぶ娯楽施設が並んでいる。確かに以前に比べて人の出入りが増えたのは確かだろう。


 余談だが、「大阪城イルミナージュ」のオープン当初には私も興味本位で足を運んでみた。だが、夜の静寂にたたずむ大阪城の威厳とはあまりにかけ離れた下品さと下劣さが公園の一部にあふれ、結局は金を払ってまで入場したいとは思わなかった。都市公園はディズニーランドやUSJのようなアミューズメントパークではない。静寂と自然の風景を楽しむ憩いの場所に人工的な眩い光は似合わない。


 2015年、天王寺公園内で開業した「てんしば」もそうだ。近鉄不動産によれば、2019年度に「てんしば」を訪れた年間の入場者は約500万人で、開業以来、過去最多を更新したと発表している。新型コロナウイルスが全国で猛威を振るってからは入場者数は減っているが、それでも昔に比べて人があふれて賑わっているのは事実だろう。


 天王寺公園については、たまに大阪維新の市議や支持者らが「天王寺公園は怖くて家族連れで遊べなかった」「不法占拠するカラオケ小屋が立ち並び、景観を損ねていた」などとSNSで投稿している。過去と現在を比べることで大阪維新の"功績"をアピールしたいのだろう。なるほど、不法なカラオケ小屋が群れをなして建っていたのは事実だ。ただ、「怖くて家族連れで遊べなかった」ということはない。私も当時はこの場所をよく散歩したが怖いと感じたことは一度もない。


 大阪城公園のホームレスと同様、不法カラオケ小屋を一掃したのは大阪維新ではない。こちらも磯村、關の両市長の時代に取り組んだことである。とにかく大阪維新は、他人の実績を自己のものにすり替える術だけはバツグンだと感心せずにはいられない。あっぱれである。


 ところで最近では、「難波宮跡公園」(大阪市中央区)が大阪城公園や天王寺公園のような様変わりをすると話題になっている。それは、大阪府の吉村洋文知事が次のようなツイートをしたことからもわかる。


https://twitter.com/hiroyoshimura/status/1575454603688058880


 なお、難波宮跡公園とは次のようなものである。


https://osaka-info.jp/spot/remains-naniwa-no-miya-palace/


 吉村知事がいう「整備」とは国交省が推進する「公募設置管理制度」(Park-PFI)に則ったもので、NTT都市開発が「難波宮跡公園を中心とした一体的な環境整備による、周辺エリア全体の魅力向上に取り組む」としている。もちろん国の史跡に指定されている難波宮旧跡は破壊しないが(できない)、周辺エリアにはレストランなどの商業施設が併設されるようである。


https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1443507.html


 ちなみに公募設置管理制度とは都市公園を整備するための手法であり、民間活力によって公園の再生・活性化を推進するものである。2017年6月の都市公園法の改正に伴い、同制度が創設された。


 同制度が制定された背景にあるのは都市公園内の施設老朽化と各自治体に見られる財政難だ。財政が厳しい自治体では公園の維持や管理が難しく、ましてや再生のための投資にも限界がある。そこで公的資金だけでなく民間資金も投入することによって公園を整備、発展させる目的がある。


 公募設置管理制度の特徴は、都市公園においてレストランやカフェ、売店などの施設を設置・管理する民間事業者を公募により選定することである。それらの施設で得られる収益を公園整備のために還元することで官民共にメリットを受ける。同制度の詳しい流れは、以下のサイトを参考にしてもらいたい。


https://www.city.kumamoto.jp/common/UploadFileDsp.aspx?c_id=5&id=19778&sub_id=5&flid=142618


 一般論として、私は公園の再開発には反対していない。それまで雑草が生え、周辺の住民が無許可で駐車場や個人菜園にしているような公共空間は整理・整備すべきだと思う。有効な土地活用があれば、それに越したことはない。ただ、非常に気になるのが吉村のツイートに反応した日本維新の会(以下、日本維新)の東徹衆院議員のツイートだ。東は次のように書いている。


https://twitter.com/toru_azuma/status/1575558269736988673


 特に引っかかるのは、「賑わいもなく寂しい公園がどうなるのか楽しみにです。」(本文ママ)の箇所だ。難波宮旧跡は遊園地やテーマパークではないから人がそれほど集まる場所ではない。だからといって、「賑わいもなく寂しい公園」という認識はどうなのか。あまりにも発想が貧困すぎないかと呆れてしまう。


 私は先ほど、公園の再開発は否定しないと書いた。再開発することで新たな価値を生み出す場合も数多くあるからだ。ただ、それもケースバイケースである。世の中には「賑わい」にふさわしい場所もあれば、そうでない空間もある。特に大阪の場合、東京や他府県に比べて極端に緑が少ない。大阪の中心は人とビルが密集する都会である。だからこそ、あえて緑豊かで静寂な場所も必要ではないのか。


 私はこれまで、米ニューヨークの「Central Park(セントラル・パーク)」やシカゴの「Lincoln Park(リンカーン・パーク)」、英ロンドンの「Highgate Wood(ハイゲート・ウッド)」を訪ねたことがある。セントラル・パークもリンカーン・パークも商業施設や文化施設がないわけではないが、基本的には市民が広い空間でのんびりと憩う空間だ。週末になれば人々は芝生の上で家族とランチを楽しんでいる。かつて治安の悪かったセントラル・パークでは、市と市民が共同で対策に乗り出してきた。公園を再開発するにしても市民の意見を取り入れている。英国のハイゲート・ウッドなどはロンドンの中心部からさほど遠くなく、鬱蒼とした森林に囲まれた広大な公園だ。ここでもベンチに座って静かに過ごす人や、散歩する家族連れが目立っていた。


 さて、「賑わいもなく寂しい公園」という発想は東だけかと思ったら、そうでもない。大阪維新大阪市議団の藤田あきら市議は2019年、ツイッターに次のような書き込みをした。藤田も東と同様、大阪城公園が「空き地」だという認識のようである。 何もなく空いた土地にハコモノを建て、人とカネを集めることが「発展」と考える彼らは文化と歴史に対する認識が甘い。言葉は悪いが、金の亡者にしか見えない。


https://twitter.com/fujita_akira_/status/1091270914979749888


 難波宮公園だけではない。知事の吉村は昨年7月、服部緑地公園(大阪府豊中市)も民間投資によって活性化するとツイートした。これに反対する声も大阪府に数多く寄せられた。


 公園とは本来、喧騒を離れて静かに安らぐ場だろう。そこに「賑わい」があるとすれば、民間施設が乱立するからではなく、散策等を楽しめる自然豊かな空間があるからではないか。自然豊かで静かな場所だからこそ人が集うのではないのか。


 特に豊中市の服部緑地公園は府内でも有数の緑の濃い空間だ。ここに集う人は散歩したりジョギングしたりと、思うままに自然の恩恵を楽しんでいる。この空間を活かすとすれば、現在の自然の豊かさが崩れぬよう維持することだ。同公園には既にカフェや施設はある。これ以上は不要なだけだ。


 東京に比べて大阪市内は極端に緑が少ない。だから梅田から地下鉄に乗って15分ほどで行ける服部緑地公園はとても貴重な異空間なのだ。大阪市内に緑が少ないからといって周辺市の自然まで奪うことはない。都市に「魅力」や「賑わい」を求めるのなら、大阪だからこそ緑を増やす路線に転向すべきだろう。


 繰り返すが、一般論として私は民間活力の導入を全否定はしない。斬新な発想で都市に活力を与えることもあるからだが、それも時と場合による。極端な話、民間活力の導入で富士の樹海に「賑わい」を求めようとはしないだろう。樹海は樹海のままでいいからだ。だが大阪府が志向する公園の活性化は、この極端な例に通じるものがある。


 私が考える「魅力」と大阪維新の界隈の人たちが考えるものは根本的に意味が違うようだ。先ほども記したが、大阪維新の藤田市議がツイッターで大阪城公園を指して「空き地」と呼び、「経済損失」を生んだと書き込んだ。ここには公園と人間との共生関係を理解せず、憩いの場を単なる金儲けの"商品"としか考えない貧困な思想があるとしか思えないのだ。


 この考え方の行き着く先は公園をリゾート化し、それを「賑わい」と錯覚させることだろう。さらに、この発想が極端に先鋭化すると自然や環境の破壊へとつながってしまう。それを押し止めるのは自然への畏怖と、人と環境、人と社会、文化・歴史との繋がりへの理解。これが「教養」や「知性の高さ」ではないのか。東や藤田らの言動を見ていると、どうも基礎的な教養が欠けているように感じてしまう。


  大阪城公園では民間による運営が決まった2015年以降、約1200本の樹木が伐採されたことがわかっている。都市公園の商業化は人の集中を生む反面、緑の破壊という負の側面も併せ持っている。誰もがくつろげる憩いの空間であるはずの公園は、大阪では金儲けの手段として利用されている。


 そもそも発展とは何か。「国の発展」や「都市の発展」、また「企業、団体の発展」という言葉があるように、過去に比べて勢いや広がりがあることだ。人が集まらなかった土地に人が集まるようになるのは「発展」といえる。水道がない地域に水道管を敷くのも発展と呼べるだろう。


 問題は、それらの「発展」が示す現象ではなく中身ではないか。仮に人とカネが集まっても景観や環境、文化・歴史がおざなりになれば、果たしてそれは「発展」といえるのかどうか。もちろん、世の中には都心の真ん中のように発展するにふさわしい場所もある。ただ、中にはそうでない場所もあることを理解しなければならない。


 例えば、国定公園である箕面公園(大阪府箕面市)である。山に囲まれた緑の濃い道を登れば見事な滝があり、秋になれば紅葉がまぶしい大阪府内でも風光明媚な場所として知られている。この箕面公園に「山林を切り開いて開発し、カフェや娯楽施設を建てよう」という計画が出てくればどうか。どう考えも自然破壊だろう。


 山林が開発整備されて人工物に変わり、そこへ人とカネが集まるのなら外形的には「発展」といえるかもしれない。だが、これはどう見ても自然と景観を破壊する「後退」であり、人と社会が豊かになるものではないだろう。東や藤田にはこの手の思考回路が潜んでいるように思う。


 ただ、東や藤田のような考え方は、彼ら独自のものではないのだろう。おそらく大阪維新や日本維新の各政治家が共有する価値観だと想像する。人のいない土地はムダでしかなく、そこに商業施設を建てれば人が集まってカネを落とす。ついでに土地収入も自治体の懐に入ってくる。このような新自由主義的発想こそが彼らの思考回路の中心にあるのではないか。


 <空いた土地>=<ムダ>と考える大阪維新的発想は、何も大阪城公園や天王寺公園、難波宮旧跡だけに見られるものではない。彼らの思考方法は物理的な土地だけをターゲットにしているのではなく、ときに制度も槍玉に挙げられる。その典型例が大阪市廃止・特別区設置構想、いわゆる大阪都構想だろう。


 都構想の発想の根底にあるのも「ムダ」と「ムダの排除」である。大阪府と同格の権限を持つ政令市があるのはムダ。大阪市会もムダ、ついでに公務員もムダ。だったらそれらを排除してしまえという思考回路が潜んでいる。


 この発想が行き着く先はどこか。「大阪維新の政策に反対する市民はムダ」とならないことを祈るばかりである。(文中・敬称略)


 <なお、この記事の無断転載は固くお断りいたします。>




本ウェブマガジンに対するご意見、ご感想は、このメールアドレス宛てにお送りください。


配信記事は、マイページから閲覧、再送することができます。

マイページ:https://foomii.com/mypage/


【ディスクレーマー】

ウェブマガジンは法律上の著作物であり、著作権法によって保護されています。

本著作物を無断で使用すること(複写、複製、転載、再販売など)は法律上禁じられています。


■ サービスの利用方法や購読料の請求に関するお問い合わせはこちら

https://letter.foomii.com/forms/contact/

■ よくあるご質問(ヘルプ)

https://foomii.com/information/help

■ 配信停止はこちらから:https://foomii.com/mypage/



今月発行済みのマガジン

ここ半年のバックナンバー

2024年のバックナンバー

2023年のバックナンバー

2022年のバックナンバー

2021年のバックナンバー

このマガジンを読んでいる人はこんな本をチェックしています

月途中からのご利用について

月途中からサービス利用を開始された場合も、その月に配信されたウェブマガジンのすべての記事を読むことができます。2024年9月19日に利用を開始した場合、2024年9月1日~19日に配信されたウェブマガジンが届きます。

利用開始月(今月/来月)について

利用開始月を選択することができます。「今月」を選択した場合、月の途中でもすぐに利用を開始することができます。「来月」を選択した場合、2024年10月1日から利用を開始することができます。

お支払方法

クレジットカード、銀行振込、コンビニ決済、d払い、auかんたん決済、ソフトバンクまとめて支払いをご利用いただけます。

クレジットカードでの購読の場合、次のカードブランドが利用できます。

VISA Master JCB AMEX

キャリア決済での購読の場合、次のサービスが利用できます。

docomo au softbank

銀行振込での購読の場合、振込先(弊社口座)は以下の銀行になります。

ゆうちょ銀行 楽天銀行

解約について

クレジットカード決済によるご利用の場合、解約申請をされるまで、継続してサービスをご利用いただくことができます。ご利用は月単位となり、解約申請をした月の末日にて解約となります。解約申請は、マイページからお申し込みください。

銀行振込、コンビニ決済等の前払いによるご利用の場合、お申し込みいただいた利用期間の最終日をもって解約となります。利用期間を延長することにより、継続してサービスを利用することができます。

購読する