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吉富有治の魔境探訪 - 政治という摩訶不思議を大阪から眺める

吉富有治(ジャーナリスト)

吉富有治

【無料の臨時再配信(2022年4月20日号)】大阪の街は美しくなったのか 表面的な現象からは見えない裏の問題を憂う
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 以下は2022年4月20日に配信したメルマガの記事です。今回、無料配信いたします。お読みください。


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 大阪の街は以前に比べて「美しくなった」といわれている。聴こえてくるのは「地下鉄のトイレがきれいになった」「公園も整備された」といった言葉である。もっとも、そう吹聴しているのは大阪維新の会(以下、大阪維新)の周辺で、そのためか「大阪の美化は維新の実績だ」と勘違いしている支持者も少なくない。これは本当だろうか。以下、検証してみた。


https://twitter.com/hiroyoshimura/status/926692166180618240


 たとえば大阪城公園である。大阪維新が登場する前からこの公園には、ホームレスの人たちが暮らすブルーシートの簡易テントが目立ったのは事実だ。JR大阪環状線に乗って大阪城公園駅から森ノ宮駅に向かう途中、窓から緑豊かな公園を望むと木々の間から多くのテントが見え隠れしたものである。


 私も2002年に同公園内のホームレスの人たちを取材し、その中でリーダー格として"テント村"を統率する人から話を聞いたことがある。その方はホームレス同士の喧嘩の仲裁や、公園を訪れたお客に迷惑をかけないようルールを作るなど苦労されていたようだ。また大阪市にも取材し、ホームレスの人たちのための仮設の一時避難所も見学させてもらった。中には集団生活を嫌って避難所に入ってもすぐに出ていく人がいるらしく、それには市の担当者も困った様子だった。


  2007年には朝日放送のニュース情報番組『ムーブ!』で、私は増え続けるホームレスの実態を取材した。彼らを支援する市民団体が大阪市内で行う夜回りにも同行し、多くのホームレスの人たちとも話をした。繁華街・梅田近くの路上では80代の女性がダンボール箱で生活している姿を見た。また、JR大阪駅構内では家と職場を失った20代の男性と話をした。聞けば、以前は名古屋市内で派遣の仕事をしていたこの男性は、会社からクビを切られて住む場所を失って役所に相談したという。だが、担当者から「大阪なら仕事があるのではないか」と勧められ、ここまで流れてきたと寂しげに語っていた。とはいえ、大阪に来ても仕事は見つからず、結局は駅周辺で寝泊まりすることに。その若い男性は「役所は厄介者を追い払いたかっただけかも」と自嘲気味に話していた。


 2003年の厚生労働省による調査では、全国のホームレスは約2万5296人、そのうち大阪市は6603人もいた。約4分の1を大阪市が占めていたことになる。その後、同省が2021年4月に調査したところではホームレスは3824人となり、2003年から比べると激減している。大阪市内のホームレスは943人。18年前に比べると大幅に減ったとはいえ、それでも大阪市は全国的には最多である。


https://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/03/h0326-5c.html

https://www.mhlw.go.jp/content/12003000/000769666.pdf


  一方、大阪市が2016年に調査したホームレスの年齢層は、55~64歳が最も多く全体の39.1%を占めた。65歳以上は32.3%で明らかにホームレスの高齢化が目立つ。45歳未満の若年層は11.5%であり、性別では男性が99.1%と大半を占めている。


https://www.city.osaka.lg.jp/fukushi/page/0000008085.html?fbclid=IwAR0XJEcP0OHgxA_FaIGg1SxUtyqq8KeC37JM1on9sd2NUEh4hX3t8TTEnnI


 そのホームレスの人たちも、いつしか減っていった。その背景にあるのは、全国でも最多だった大阪市がホームレス対策に力を入れたからである。1999年8月には全国に先駆けて巡回相談事業をスタートさせ、2000年10月からは自立支援センター事業も実施した。その後、2002年8月に「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」(ホームレス特措法)が10年間の時限立法として公布・施行され、大阪市でも同特措法を受けてホームレス対策を進めてきた。


 このことからわかるように、大阪城公園内のブルーシートが減ったのは大阪維新がホームレス対策を進めて、そこで初めて達成できたものではない。それ以前から大阪市が積極的な対応策を取ってきたからである。磯村隆文、關淳一、平松邦夫らの歴代市長が取り組んだことが、その後の橋下徹や吉村洋文、松井一郎ら各市長の時代になって過去から続いた対策の成果がより可視化されたといってよい。

 

 なお、ホームレス特措法は2012年の国会で5年の延長が可決・成立し、2015年4月からは「生活困窮者自立支援法」が施行されている。国も大阪市も、また他の自治体も地面で寝泊まりする人を1人でも減らす努力をしたのは間違いない。


 ただ、問題は激減したホームレスの人たちの「その後」である。行政の支援を受けて就職し、自立した生活ができるようになったのだろうか。大阪市の関係者は次のように述べた。


 「大阪市では以前からホームレス対策をとり、ホームレス特措法の施行にともなって支援実施計画を実施してきたもので、ホームレスの人が減ったのは大阪市だけではなく全国的な傾向だと捉えている。ただ、ホームレスの方々が公園などから姿を消した理由については個々の理由があるのだろうし、正確なところは不明である」


 要するに、大阪城公園からブルーシートが消えたからといって根本的な解決になったわけではないのだ。この場合の「根本的な解決」とはホームレス生活から脱却し、屋根のある家で自立した生活を送ることを意味する。2003年に大阪市内で6603人いたホームレスが2021年には943人に激減したからといって、その差の5660人全員が自立した生活を送れるようになったとは必ずしもいえない。亡くなった高齢者がいるかもしれないし、大阪市から離れて他の土地へ移り住んだ可能性も大いにある。大阪城公園からブルーシートのテントがなくなりホームレスが減ったのは、極論すれば「消えた」という以外にない。ホームレスの方がどうなったについては、大阪市も「不明」としている。


 ブルーシートが一掃されて「大阪城公園がきれいになった」のは事実だろう。ただし、それは表面的な現象にすぎない。外から見える上っ面が「きれいになった」だけのことで、根本的な解決からは程遠いといえる。 


 では、大阪城公園からブルーシートが消えた後、同公園内で大阪維新がやったことは何か。最大の"成果"は、レストランやショップ、イベント施設を揃えたことだろう。イベントや箱モノを好む、実に大阪維新の政策らしいではないか。


 たとえば、1931年に陸軍第四師団司令部庁舎として機能した歴史的建築物は戦後、1960年に大阪市立博物館として生まれ変わった。同博物館は2001年に閉館後、2017年10月から複合施設「MIRAIZA OSAKA-JO(ミライザ大阪城)」として営業を開始した。ここはショップやカフェ、レストランが並ぶ娯楽施設である。あるいはまた、2016年からは秋から冬にかけて西ノ丸庭園を中心に「大阪城イルミナージュ」が行われている。約300万球のイルミネーションが夜の公園を照らす。これが同イベントの謳い文句である。


 「大阪城イルミナージュ」のオープン当初には私も興味本位で足を運んだが、結局は金を払ってまで入場したいとは思わなかった。夜の静寂にたたずむ大阪城の威厳とはあまりにかけ離れた下品さと下劣さが公園の一部にあふれ、心底呆れたからである。公園はディズニーランドやUSJのようなアミューズメントパークではない。静寂と自然の風景を楽しむ憩いの場所に人工的な眩い光は似合わない。


 次は天王寺公園である。ここも大阪維新が「生まれ変わった」と宣伝するエリアである。大阪維新の市議や支持者も「維新の前は怖くて家族連れで遊べなかった」「不法占拠するカラオケ小屋が立ち並び、景観を損ねていた」などとSNSで書き連ねている。


https://twitter.com/oneosaka/status/1319602793167007748

https://twitter.com/hondarie/status/1508070603936657412


 かつて天王寺公園で不法占拠する路上のカラオケ店やカラオケ小屋が乱立していたのは事実だろう。公園沿いにある歩行者専用道路の約400メートル近くに不法カラオケ小屋が点在した。小屋のカラオケは1曲100円~200円。粗末な小屋だから防音設備などあるわけがない。結果、どの小屋からも昼間から下手な歌が流れていたことを覚えている。


 路上で客に歌わせるカラオケは「青空カラオケ」などと呼ばれていた。たまに公園内を歩くと広場の中心でマイクを握って自分の歌に酔う人たちや、その歌のリズムにあわせて女装姿で舞を演じる高齢の男性もちらほら見かけたものだ。だが、それら不法カラオケが一掃されたのは大阪維新の時代になってからではない。こちらも大阪城公園のブルーシートのテントと同じで、大阪市が不法店や不法小屋に退去を命じたのは2002年からである。


 2003年11月には大阪市が、天王寺公園内で無許可営業しているカラオケ屋台9店に対して撤去を勧告している。なお、この時代の大阪市長は磯村、關の両氏である。


 不法カラオケ店の経営者や支援者らは大阪市役所を訪れて存続を訴えたが、同年12月に大阪市は行政代執行を実施。大阪府警の警察官にガードされた市職員が強制的に店を撤去する様子を週刊誌記者だった当時の私も取材している。ただ、最終的には大半の店が自主的に撤去して大きな混乱には至らなかった。


 では天王寺公園で不法占拠するカラオケ店が跋扈していた時代、ここに家族連れで訪れるのは憚られる場所だったのだろうか。必ずしもそうだとはいえない。なるほど、大阪市が不法占拠するカラオケ店の撤去を決めたのは市民から苦情があったからだろう。行政としては法を無視して営業する者を放置するわけにはいかない。


 だが、当時は私も休みの日にはこの公園や天王寺動物園に何度も足を運んだが、いずれも家族連れの姿は目立っていた。デートを楽しむ男女の姿もあった。確かにカラオケの音は聞こえてきたが、無法地帯やアンタッチャブルな場所だったわけでは決してない。自然の少ない大阪市内としては緑と憩いの空間として機能していた。


 さて、大阪城公園と同様に天王寺公園も"維新のおかげ"で生まれ変わった。それが「てんしば」である。


 この場所の企画と設計、施工を担当した竹中工務店は、「"てんしば"は、大阪市内第3のターミナルである天王寺駅に直結した約26haの天王寺公園のうち、約2.5haのエントランス部を新たなにぎわいゾーンとして大幅に改造し、芝生広場や店舗などを整備したものです。」と概略を説明し、「事業方式は、公園の管理運営のみならず、再整備から20年間の魅力創造をトータルに民間に委ねるPPP方式で、民間のノウハウを最大限活用するものと言えます。このてんしば整備により天王寺公園は見違えるほど開放的な都心の公園に生まれ変わり、ファミリーを中心に多くの市民が訪れ、周辺の施設も活性化する波及効果も出ています」と自慢気に謳っている。


https://www.takenaka.co.jp/solution/needs/pfi/service24/index.html


 竹中工務店が胸を張る「天王寺公園は見違えるほど開放的な都心の公園に生まれ変わり」は事実としてその通りだろう。近鉄不動産によれば、2019年度に「てんしば」を訪れた年間の入場者は約500万人で、2015年の開業以来、過去最多を更新したと発表している。ここ2年は新型コロナウイルスの影響で入場者数も減っているだろうが、以前に比べて人があふれて賑わっているのは間違いない。


 大阪城公園も天王寺公園も共通しているのは、行政は場所を提供して開発と運営は民間企業に任せていることである。このこと自体は特に批判されることではないだろう。だが、何でもかんでも民間に委託すると行政が果たす本来の役割が薄れていくのではないか。自然や環境の保護は行政が担う仕事の1つだが、大阪城公園では民間による運営が決まった2015年以降、約1200本の樹木が伐採されたことがわかっている。都市公園の商業化は人の集中を生む反面、緑の破壊という負の側面も併せ持っている。誰もがくつろげる憩いの空間であるはずの公園は、大阪では金儲けの手段として利用されている。


https://www.asahi.com/articles/ASM6S5HZ9M6SPLBJ00H.html


 ただ、百歩譲って大阪市が金儲けをしても公園を民間委託しても良しとしよう。しかし、「公園やトイレがきれいになった」「大阪は住みやすくなった」という謳い文句は、あくまでも一部の区域に限られ、それも外ヅラだけが派手な表面的現象にすぎないのではないか。


 繰り返しになるが、大阪城公園のホームレス問題にしても、彼らが同公園から姿を消したのはブルーシートのテント生活から自立した生活へと好転したからではない。大阪市も認めるように、大阪城公園を去ったホームレスのその後は不明なのだ。居場所を追われて大阪市から離れ、他の土地に移り住んだだけかもしれないのだ。言い方は悪いが、「きれいになった」といわれる大阪城公園と天王寺公園は大阪市民に見せたくないものを隠したにすぎない。だとすれば、それは問題を根本的に解決したとはいえないだろう。


 私は今、「きれいになった」のは一部の地域だと言った。その証拠は山ほどある。たとえば、私が住む大阪市北区のJR天満駅前である。


   (写真  JR天満駅の不法自転車)


 写真でもわかるように、ずいぶん昔から駅前は不法駐輪の自転車であふれかえり歩行者の通行の妨げになっている。管轄する大阪市北区役所も見て見ぬふりの様子で改善する気配はまったくない。これは一例にすぎず、市内の他の場所でも不法駐輪が目立ったり、あるいは道路脇や公園の雑草が生い茂っていたり、道路のセンターラインが消えかかっていたりと、「きれいでない」事例など枚挙にいとまがない。


 また街の景観とは次元が異なるが、大阪の犯罪件数は今なお全国でもワーストワン(刑法犯検挙率、刑法犯犯罪遭遇率)である。ひったくりも少しは減ったとはいえ全国最多だ。大阪の治安が相変わらず悪いのだとしたら、いくら外ヅラの景観がきれいになっても、人の心まできれいになったとは言えないだろう。部屋を掃除して表面的には整理整頓しても、机や押し入れの中にゴミが押し込められているのと変わらない。


https://www.alsok.co.jp/person/recommend/dangerous-ranking/


(注)最新のALSOK(綜合警備保障)「全国治安ワーストランキング2023」は次のとおり。大阪府の犯罪遭遇率は相変わらず高い。

https://www.alsok.co.jp/person/recommend/dangerous-ranking2023/


 かつて「汚い」と言われ続けてきた大阪の街。森喜朗元首相は1988年、「大阪はたんつぼ。金もうけだけを考えて公共心のない汚い街」と発言して批判を浴びた。その一方で、「その通りだろう」と同調する意見も少なくなかった。その大阪がきれいになることは喜ばしいことである。だが「きれいになった」のは事実でも、それはあくまでも一部の区域と一部の分野だけだ。外ヅラの美しさや繁栄に目を奪われていると、私たちは本当に大切なものを失う気がしてならない。(文中・敬称略)


 <なお、この記事の無断転載は固くお断りいたします。>




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