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やっぱり地理が好き
~現代世界を地理学的視点で探求するメルマガ~
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第147号(2024年2月26発行)、今回のラインアップです。
①世界各国の地理情報
~続・要衝を押さえる③~
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こんにちは。
地理講師&コラムニストの宮路秀作です。
日頃、周りの人たちからは「みやじまん」と呼ばれています。
今回で147回目のメルマガ配信となります。
台湾の英字新聞、英文台湾日報の2月15日付けに、中国がパラオを取り込もうと仕掛けてきたという内容の記事が載りました。
▼China offering to 'fill every hotel room' in Palau to abandon Taiwan
https://www.taiwannews.com.tw/en/news/5096273
「中国が、「『おめぇたちが台湾と国交断絶するなら、年間で2000万ドル支払うし、たくさんの中国人観光客をパラオに送り込むぜ!』と中国が言ってきてる!」と書かれた手紙が米国上院議員に届けられたと書かれてありました。
手紙の送り主はパラオ大統領スランゲル・ウィップス・ジュニア。彼は歴代のパラオ大統領と同様に、台湾との外交関係を非常に重要視しており、大統領就任後、最初の外遊先が台湾だったほどです。そして、その外遊に在パラオ米国大使が同行し、それを中国政府が非難するという、実に分かりやすい図式が横たわっています。
わたくしが初めてパラオを訪れたのは2011年8月のこと。以来、2020年3月までにパラオを訪れた回数は14回を数えました。2011年頃は、パラオを訪れる外国人のほとんどが日本人か台湾人でした。たまに韓国人がいる程度で、中国人観光客など皆無でした。
「うわぁ、中国人多いなぁ……」と明らかに感じたのが2015年のこと。以来、パラオを訪れる度に現地の日本人たちから「最近中国人ばっかり。街中ゴミは増えるし何も良いことないよ」の声がどんどん大きくなっていきました。
しかも中国人旅行会社が年間契約でホテルを予約してしまうので、中国人以外の外国人が泊まれるホテルの絶対数が減ってしまいホテル代が高騰しました。しかもやってきた中国人は、ホテルに籠もって怪しいことをしていたり定員オーバーの人数でボートに乗り、ライフジャケットをきてシュノーケルを楽しんだりする始末。しかも、1グループ30人とかで行動するのでとにかくうるさいわけです。ダイビングの合間、無人島に上陸してのんびり潮騒の音に包まれていると、定員オーバーの中国人を乗せたボートがやってくるわけです。そして上陸したら、ラジカセで音楽を爆音で鳴らして騒ぐ始末。
中国人観光客を大勢受け入れたとしても、特定のホテルやお店にしかお金が落ちませんので、パラオ経済にとってほとんど良いことなどありません。ゴミが増えるだけです。
パラオは台湾にとって重要な国であり、台湾はパラオにとって重要な国です。現在の中国の一帯一路はヨーロッパに向かって伸びていますが、ゆくゆくは太平洋に出たい野望は当然あるはずです。
台湾島の東側はフィリピン海プレートが存在し、数千メートルの水深となっていますから、原子力潜水艦などを配備しやすく、さらに台湾島東部が山がちであることから天然の要塞を建設するには好条件が揃っています。ここに軍事拠点などを作ってしまえば、たちまちパラオ、グアム、サイパンなどは一ひねりされてしまうかもしれません。そもそも習近平は台湾が自国領土だと野心を隠しておらず、「台湾を侵略するの? しないの?」ではなく、もはや「それはいつなの?」といった状況です。
グアムとサイパンを領有しているアメリカ合衆国からしてみればたまったものではないため、表向きは「台湾を独立国としては認めない」とはいいつつも、何かとこれらの地域の面倒を見ているわけです。それがアメリカ合衆国の利益だからです。そして、パラオの先にはすでに中国の息のかかったソロモン諸島が位置し、さらに早々とアメリカ寄りの姿勢を採ると決めtあフィジーが位置します。
これに関しては日本も同様で、中国の脅威が間近に存在していることのはずなのですが、国の政を預かる方々はそれに気づいているのか、どうも疑問です。見ている対象が日本列島に限定されており、ミクロネシア地域にまで目を配り、戦略をどのように考えているのかすら疑問です。
日本からパラオへの直行便は2018年5月まで、デルタ航空が週2便飛ばしていました。成田-コロール便は黒字路線だったらしいのですが、撤退してしまいました。噂によれば、デルタ航空が羽田国際空港の発着枠について公正な分配を求めたにもかかわらず、それが認められなかったことが要因との話もあります。
もともとデルタ航空が参加している航空連合はスカイチームであり、ここには日本の航空会社が参加しておらず、デルタ航空は日本人搭乗客の取り込みに苦戦していました。そこで、同じくスカイチームに参加する大韓航空の拠点があるインチョン空港へとアジア・太平洋路線のハブ空港を移してしまい、成田国際空港から撤退してしまいました。成田空港のデルタ・スカイラウンジは本当に素敵なラウンジで、搭乗前に腹一杯になって酔っ払えるという最高の場所でした。
その後、佐山展生さん率いる投資会社インテグラルにより再生したスカイマークが、国際線も飛ばそうということで、手始めに成田-コロールのチャーター便を飛ばしたのが2020年3月のことでした。「これで、また直行便でパラオに行ける!」と期待に胸躍らせたものですが、コロナ禍へと突入してしまいます。スカイマークが国際線を飛ばすには、早くて2026年くらいからになりそうと言っています。長い……。
コロナ禍に突入してパラオから引き上げた日本人もいれば、再興を信じてパラオに残った日本人もいます。
そして何より、あれだけ日本とゆかりの深い国との関係性を希薄なものとしてはならないことくらい、誰が考えてもわかりそうなものですが、政治家のみなさんにはそれがわからないのでしょう。
つくづく、日本人は戦略を立てるのが下手です。そもそも戦略という概念すらないのではないかとすら思います。臭い物に蓋をする戦術を考えるのは超一流です。
小さい国ほど大国に翻弄されます。日本に関わりの深い国ですら興味を持たない、気にもかけないのですから、日本から遠く離れた国や地域のことなど、なおさら興味が沸かないかもしれません。
それでは、今週も知識をアップデートして参りましょう。
よろしくお願いします!
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①世界各国の地理情報
今回は、前号「続・要衝を押さえる②」の続きです。
▼#145:続・要衝を押さえる①
https://foomii.com/00223/20240204220000120026
▼#146:続・要衝を押さえる②
https://foomii.com/00223/20240212010000120320
前号にて、山崎製パン株式会社が「紅海でイエメンのフーシ派が暴れてっから、物資の輸送に時間がかかっちまって、『白いスマートボウル』の出荷が遅れてるぞ!」と声明を発表したことを紹介しました。
最近の日本における物価高は、至る所で阿鼻叫喚の嵐を巻き起こしていますが、その要因を「円安」や「ロシアによるウクライナ侵略」などに落とし込む空気感ばかりのように思えます。しかし、価格決定には様々な要素が絡んでいるはずで、例えば輸送費などもそれに含まれるはずです。
ヨーロッパから日本へと運ばれてくる物資は、輸送元がどこかにも寄りますが、その多くはスエズ運河を通り、そして紅海からインド洋へと出て、さらに東南アジアのロンボク海峡からマカッサル海峡を経るルートを辿るはずです。もちろん、中東諸国から日本へ運ばれてくる原油についても、ペルシア湾からインド洋へと出てからは同じルートを辿ります。
航空機輸送でもない限り、基本的に輸送元と輸送先が直線で結ばれることはなく、通れるところを通り、なるべく最短距離を取ろうとします。しかし、そのルートの各所は要衝となっており、そこを押さえることが物流を支配するという意味において重要です。歴史上、それを行ったのがイギリスであり、特に地中海と大西洋を結ぶジブラルタル海峡を押さえたところにイギリスの戦略性の高さを見てとれます。イギリスは、現在においてもジブラルタル海峡の北側(イベリア半島南端)にイギリス領ジブラルタルという海外領土を有し、ここにイギリス軍を駐屯させており、決してここを手放してはいません。
「ジブラルタル海峡」という言葉は、かつてTBSで放送されていた「痛快なりゆき番組 風雲!たけし城」(1986.5~1989.4)にて生まれて初めて知った言葉で、後に実在すると知ったときに驚くわけですが、そういう人は結構いたのではないでしょうか。谷隼人扮する、攻撃軍隊長から金のボールを受け取り、それを携え、たけし軍団扮する守備軍の猛攻を避けながら、狭くて足場の悪い橋を渡りきるというアトラクションでした。これをジブラルタル海峡になぞらえた番組スタッフのセンスが個人的に好きです。
■BRICSに加盟したイラン
みなさんは「BRICS」という用語をご存じと思います。この用語、時は遡ること2001年11月30日、ゴールドマン・サックス社のジム・オニールが『Building Better Global Economic BRICs』と題した投資家向けレポートを発表したことで一躍世界的に知られるようになりました。これによりブラジル・ロシア・インド・中国の経済成長に注目があつまるようになり、特にその後の10年間で世界のGDPに対する中国の比重は高まるだろうと予測されていました。