… … …(記事全文3,317文字)●母の転院
母が転院するため朝8時30分にS病院へ赴いた。病室へ入ると母は何も分かっていなかった。看護師に部屋を片付けるように言われ、ゴミを捨て荷物をまとめた。ストレッチャーを運搬できる福祉タクシーを呼んでくれるよう看護師に頼んでおいたが、不安だった。別の看護師に確認すると、「はっ?」という顔をされた。「やはり」。よくあることだが、これからタクシーを呼ぶとなると、受け入れるN病院に指定された時間に間に合わなくなる。S病院はあくまで退院扱いなので、ますます不安になった。すると、「頼んであるみたいです」と他人事の看護師。胸をなで下ろした。
●S病院を「退院」
病院のストレッチャーを使用した場合、返却に来ないといけないのか、とまた気にしていると、タクシーの運転手がストレッチャーを押しながら、エレベーターの方から現れた。病院が一時的とは言え、ストレッチャーを貸し出すはずはないだろう、と自分に言い聞かせた。運転手と行き先の確認をして、別個にS病院を出発しようとすると、呼び止められた。「保険証見せてください」。弟が付き添った時には持って来なかったらしい。「今日は持っていません」と応じると、「では会計のときに持って来てください」。「また、来なくてはいけないのか」とがっかりしながら、S病院を後にした。
●N病院へ「入院」
N病院へは私が先に到着した。受付で「もうしばらくしたら母が来ます」と告げると、「入り口付近でお待ちください」とそっけなく言われた。ところが、タクシーがなかなか来ない。運転手が「行ったことがある」と言っていたので安心していたのだが。20分程してようやく到着した。指示どおり入り口付近で待機していると、「病室までお願いします」とやって来た看護師が運転手に当たり前のように言った。運転手は、嫌な顔一つせず病室まで運び、N病院のストレッチャーに移す作業をしてくれた。私には、初めての体験だったので、優しい運転手の姿に心が和んだ。
N病院で行う処置は、治療ではなくリハビリだった。食事のリハビリも行うとのことで、ちょうどお昼の時間だったので、早速専門の療法士が食事を持って来た。味や硬さに工夫を凝らしてくれたらしく、母は何日も食べていないように、がむしゃらに口へ運んだ。こんなにひたむきに食事をする母は久しぶりに見たような気がした。帰りに受付に寄ると保険証の提示と入院に必要な書類に記入するよう依頼された。「後日でいいですか」と尋ねると、「結構です。2通出してくださいね」との応答。「あれ、救急搬送され、半日でS病院へ行けと指示された日も入院扱いになるのか」と驚いたが、仕方のないことだった。
1日おいて書類を提出しに行った。弟から「おふくろ、桃のゼリーが食べたいそうだ」と伝えられていたので、それも持参した。面会は週に1度と制限されており、品物の受け渡しだけで看護師に託した。「どんな具合ですか」と訊くと、「今日から車椅子に乗っていますよ」と驚きの言葉が返って来た。「そんなに早く回復するのか」とも思ったが、まずは良かった。
●アンケートへの回答と調査票の作成
新聞、テレビ等の各メディアからアンケートへの回答と調査票の作成依頼が来ており、これに応えなければならなかった。どの社も似たようなものだったが、微妙に異なる。いざ、始めてみると意外と時間がかかる。一気に作業したため、半日を要した。毎日新聞と地元新潟日報から来ていないのが多少気になった。
●NHKで収録
朝7時台の新幹線で東京へ、両親が入院しているので、在宅しているよりも多少気が楽である。NHKで収録があるためだった。10人以上が順番に喋る。1人当たりの持ち時間はわずか20秒である。20年以上前はフロアディレクターがカンペを持って「あと〇秒」などと示していたものだが、今はプロンプターがカメラのレンズの真下の置かれており、原稿が流れて来る。それを読めば、自ずとカメラ目線になるという訳だ。
元々NHKには良い印象を持っておらず、いや嫌いだ。スタジオで仲間と「何でアナウンサーが『ここからはAIによる自動音声で』とか言うのか。あなた必要ないでしょ」などと悪口を言い合っていると、聞こえているはずのないNHKの担当者から「静かに」と注意されてしまった。