… … …（記事全文7,029文字）8月15日「敗戦の日」に当たり、様々な思いが去来した。弟家族とも話したが、やはり朝鮮半島の分断と、この国に生きる「在日コリアン」の人たちのことが大きなテーマの一つになる。旧稿でも少し触れたが、「フォーラム福島」で観た映画「差別」の強烈なインパクトが頭の中に残っていた影響もある。
6月30日配信「KBSの再取材 福島で観て聞いた『差別』」
https://foomii.com/00200/20230630054000110893
2017年、人権団体「のりこえねっと」共同代表の辛淑玉さんと拉致問題、在日コリアン、ヘイト・スピーチ、朝鮮学校等について対談した。この模様は「拉致と日本人」と題し出版されたが、現在は絶版となっている。辛さんと言えば、最近では沖縄の米軍基地反対運動を扱ったTOKYO MXのテレビ番組「ニュース女子」で名誉を傷つけられたとして制作会社DHCテレビジョン（現・虎ノ門テレビ）に損害賠償などを求めた裁判で勝訴が確定したことで知られる。辛さんは、2018年の提訴から、ネット上の誹謗中傷に耐えられずドイツに逃げた（本人談）という。
また、辛さんの歯に衣着せぬ物言いは時に物議を醸す。だが、潔い。対談でもその真骨頂が発揮され、示唆に富む発言が数多くあった。本稿では、「拉致と日本人」から印象深い辛さんの発言を抜粋引用して紹介するとともに、自分自身も改めて噛みしめたい。
●朝鮮学校無償化除外 朝鮮人差別の象徴
蓮池 朝鮮学校に対しては、私は朝鮮学校を教育無償化の対象から外したり補助金を停止したりすることには反対ですが、弟は教育内容を判断した上で判断するべきではないかという意見です。弟は「首領様」を崇めさせる独裁政権が大嫌いなんです。「金日成、金正日を神格化する教育をしているのであれば、無償化は反対だ」と。その気持はわからなくもないです。
辛 朝鮮学校は「各種学校」として扱われていて、文科省が言う一条校として認められていないから、朝鮮学校を卒業しても大検（大学入学資格検定、現在は高等学校卒業程度認定試験）に合格しなければ、基本的に大学を受験することはできません。
日本政府は、12年間という教育期間に対して大学受験資格を与えているのに、日本の朝鮮学校で12年間教育を受けた人には受験資格を与えない。北朝鮮で教育を終えた人には受験資格があるのだから、裏を返せば、日本政府は北朝鮮より在日が嫌なんですね。なぜこういう、論理的に矛盾していることを平気でできるのかわかりません。
戦後最初に朝鮮人のための学校を作ろうとがんばった一世の男性と話す機会があって、その時に聞きました。「あんたたちの学校には補助金はやらない」と日本政府から切り捨てられたが、「それでもいい」と言ったと。自分たちの奪われた言葉を、自分たちの手で取り戻すんだという意気込みで、何よりまず学校を作り、自分たちの手で母語を取り戻すことに必死だった。だから、日本側の言う条件を全部飲んだと。切ないよね。それに、当時は、これほど長く南北が分断され続けるとは思わなかったのでしょう。
蓮池 今、日本政府が朝鮮学校にやっていることは、学校閉鎖令に近いと思います。そしてそれを拉致問題と紐付けるというのは、まったく理解できない。
辛 拉致問題について抗議するべき相手は北朝鮮という国家とその責任者であって、朝鮮学校にいる子どもたちにはまったく関係ない。植民地の宗主国としての責任をとる意思も自覚もないのです。
朝鮮学校は象徴的な存在なのかもしれませんが、実はそこに通っているのは、在日のうちのほんの数パーセントです。在日の中で朝鮮総連に加入している人たちの率も同じようなものです。その他は日本社会のあちこちに散らばっていて、日本の人と同じ情報を得ることしかできず、そして静かにひっそりと生きています。しかし、その人たちに対する暖かいまなざしなど、まったくありません。その人たちがどんな思いで生きているか。どんな思いで拉致のニュースを見て、どんな思いで北朝鮮や韓国叩きを見て、どんな思いでヘイトだらけのインターネットを使っているか。
私は子どもの頃、朝鮮学校に通っていた時期がありますが、正直、あそこにいい思い出はありません。でも、日本社会の中で同じ朝鮮人と出会う機会がほとんどない在日にとって、朝鮮学校は、生きていくうえで必要となる、友だちづくりの場所なのです。私が通っていた40年以上前には、狂信的な人たちもいましたが、今は、少なくとも私の知る限り、学校で「金日成万歳（キムイルソンマンセー）」をする子どもたちのほとんどは白けています。その中で生きていくための方便にしかすぎず、ダブル・スタンダードなのです。私は、教育においてはダブル・スタンダードが一番いけないことだと思っています。
しかし、朝鮮学校への補助を停止するというのは、ただの朝鮮人差別以外の何ものでもない。朝鮮人だから支援したくないだけです。北朝鮮がどうであれ、韓国がどうであれ、足もとにいる朝鮮人を真っ当に扱いたくないというだけなのだと思います。
朝鮮学校の先生たちは、ほとんど給料をもらっていません。現状として、朝鮮学校は給料を支払えるような経営状況にはありません。
四国にある朝鮮学校に何回か行ったことがあります。四国に朝鮮学校は一校しかなくて、全寮制です。そこに通わせるのは、親にとっては経済的にとても大きな負担です。だけど、子どもにせめて民族の言葉を覚えさせたいと願って、みんな必死に働いて、高い費用を払っています。
そして、多くの生徒たちは、朝鮮人だからということで、日本社会に出ても、日本人と互角以上に稼げることはまずない。それができるのはごくごく一部の人たちだけ。そういった中で、朝鮮学校はずっと叩かれてきました。私が小さい時も、兄が日本の学生に暴行されて血だらけで帰ってくることがありました。学校に行く兄貴を見ながら、今日でお別れなのではないかと思って送っていました。それがヘイト・スピーチとして今も続いている。それはむごい。とてもむごいと思います。
