… … …(記事全文6,338文字)今回は緊急性が高いため、月曜日の定期配信を待たずにお届けします。
三行で言えば
トランプは習近平を異例の厚遇で迎えた。だが、豪華な演出の割に、米中間で大きな新規合意は生まれなかった。
習近平は台湾問題で米国に態度の変更を迫った。そのうえ、トランプの口から「第二次世界大戦で米中は同盟国だった」という、中国共産党に好都合な歴史認識まで引き出した。
日本が受け取るべき教訓は一つだ。アメリカの善意と歴史認識に自国の安全保障を預ける時代は、終わった。
異様なまでの厚遇
習近平のワシントン訪問を見て、まず目を奪われたのはトランプの歓迎ぶりの異様さである。
トランプ夫妻は、習近平夫妻をアンドルーズ統合基地まで出迎えた。ホワイトハウスでは最高格式の歓迎式典。その後、トランプは習近平を新設のヘリポートに連れ出し、大統領専用ヘリMarine Oneの機内にまで招き入れた。
AP通信によれば、トランプは自慢の花崗岩製ヘリポートや建設中の大宴会場まで、自ら案内して回ったという。
国家元首を丁重に迎えるのは当然だ。だが、ここまでやる必要があったのか。
機内を見せたこと自体を、安全保障上の問題だと言うつもりはない。見せてよい範囲は管理されているはずだ。
問題は象徴性である。トランプは明らかに、「私はあなたを特別に遇している」と習近平に伝えようとしていた。
背景には、今年5月の北京訪問で受けた歓待がある。トランプは帰国後、「これほどの歓迎はかつてなかった」と繰り返し語り、習近平との個人的関係を誇ってきた。今回のワシントンは、北京での歓待への「倍返し」だったのだ。
支持率32%、トランプの焦り
だが、理由はそれだけではない。トランプはいま、国内政治で追い詰められている。
Reuters/Ipsosの9月調査で、トランプの支持率は32%まで落ちた。生活費問題への対応を支持した人は、わずか17%。共和党支持層の支持も、前週の82%から73%へと下がっている。
中間選挙の議会投票意向は、民主党43%、共和党35%。Reuters/Ipsosの調査で今年最大の差だ。
世論調査は選挙結果ではない。だが、中間選挙を前にしたトランプにとって、経済と生活費が最大の政治課題であることは間違いない。
だから、いまは中国との全面対決より安定が欲しい。関税戦争は再燃させたくない。レアアースやサプライチェーンの混乱も避けたい。市場を落ち着かせたい。そして、中国との交渉で目に見える成果が欲しい。
習近平とのディールは、国内政治のためにこそ必要だったのである。
習近平の狙いは別のところにあった
ここに、見逃せない非対称がある。
アメリカ側は国賓晩餐会に、文字通りの「オールスター」を揃えた。イーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、ティム・クック、ジェンスン・フアン、サム・アルトマン、スンダー・ピチャイ、ジェイミー・ダイモン。米国のテクノロジー、金融、産業界を代表する経営者たちだ。トランプは米中経済協力を全面的に演出したわけだ。
ところが中国側は、そうした「企業オールスター」を連れてこなかった。少なくとも最終的な訪米の顔ぶれを見る限り、北京は企業間のビジネスディールを主眼に置いていなかった。
習近平が正面から持ち出したのは、台湾である。
中国側の発表によれば、習近平はトランプに対し、米国が台湾独立に反対する「正しい立場」を取るよう求めた。台湾政府はこれを、米国の立場を微妙にずらそうとする圧力だとして反発している。
単純化すれば、こういうことだ。
トランプはディールを求めた。習近平は戦略的譲歩を求めた。
この差は大きい。
豪華な舞台、乏しい中身
では、トランプは何を得たのか。
Reutersの評価は辛辣だ。今回の首脳会談は“heavy on symbolism but light on substance”。演出は豪華、中身は乏しい、というわけだ。AI、貿易、台湾、イランといった主要課題で、大きな突破口は見当たらない。CBSも「few achievements announced」と報じた。
関税休戦は続く。対話も続く。AI分野などで一定の協力枠組みもできた。
だが、あれだけの歓待の見返りとして、トランプが国内に誇れる歴史的ディールは生まれなかった。支持率低迷に苦しむトランプにとって、得点になる話ではない。
これで支持率がさらに下がるかどうかは分からない。しかし、「ここまで習近平を厚遇して、アメリカは何を得たのか」という疑問は、当然出てくる。
晩餐会に流れた二つの曲
不可解なこともある。

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