… … …(記事全文8,051文字)いまから7年前の原稿です。
杉田水脈さんと同じ号に掲載されたものです。
ヘイトスピーチは「第二の慰安婦問題」だ
ITジャーナリスト 宮脇睦
■差別される足立区
「ああいやだ!埼玉なんて言っているだけで口が埼玉になるわ!」。東京都民に虐げられる埼玉県民を描いたギャグ漫画「翔んで埼玉」のワンフレーズです。「パタリロ!」で知られる漫画家、魔夜峰央氏の三十年前の作品ですが、昨年末に復刻版が出版され三十万部を越えるヒットとなります。生まれ落ちた環境による侮辱は「差別」そのものですが、版元の宝島社によると、もっとも売れているのが埼玉県内で、産経新聞の取材に、作者はその県民性を「鷹揚(おうよう)」と紹介します。
漫画ではなく実際に「差別」と呼べる状況にあるのが、埼玉県に接する東京都足立区。治安の悪さが誇張され、「住みたくない街ランキング」では上位の常連です。朝ドラ「あさが来た」の主演女優、波瑠さんも足立区出身で、他区の友人から「足立区というと運転の荒い地域」と揶揄されたと、地元ケーブルテレビの取材に答えていました。偏見に基づく根拠のない中傷とは「差別」といって過言ではありません。もっとも多くの足立区民は根拠なき中傷を、笑い飛ばす度量と心の豊かさを持ち合わせております。ちなみに私も足立区民のひとり。
ところが「ああいやだ!大阪なんて言っているだけで口がタコ焼きになるわ!」とのギャグが、差別として糾弾される恐れがでてきました。「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例(以下、ヘイトスピーチ条例)」が今年の一月に可決され、今夏にも施行されるからです。条例によりヘイトスピーチと認定されれば、氏名、または(団体の)名称が公表され、晒し者にされます。差別に基づく中傷や、排斥を求める「ヘイトスピーチ」を許すものではありませんが、この条例は先の冗談にさえ、「差別」のレッテルを貼れる仕組みになっているのです。そしてレッテルを武器に、自由な言論を封殺することも可能です。また、条例に呼応するかのように、「従軍慰安婦」を世界に広め日本を貶めた勢力の動きが活発化し、日頃は言論の自由を声高に叫ぶジャーナリストらが、沈黙をもって目論見の背中を押しています。
■主観に過ぎない憎悪感情
ヘイトスピーチ条例は《人種若しくは民族に係る特定の属性を有する個人又は当該個人により構成される集団(以下「特定人等」という。)を社会から排除すること》や、特定人等の自由の制限、ないし憎悪若しくは差別の意識又は暴力をあおることの、いずれかを目的とし、特定人等を相当程度に侮蔑・誹謗中傷したり脅すような、不特定多数に向けた表現活動を「ヘイトスピーチ」と定義しています。しかし「憎悪や差別の意識」など主観に過ぎず、「翔んで埼玉」における埼玉県への、あるいは言われなき足立区への中傷、そして「タコ焼き」の冗談も、了見狭く解釈すれば「差別」となります。大前提であるはずの「ヘイトスピーチ」の認定は、主観に左右される恣意的なものだということです。
運用面にも懸念があります。ヘイトスピーチと認定するのは、大阪市長が指名した五人の委員による「大阪市ヘイトスピーチ審査会(審査会)」です。条例には《学識経験者その他適当と認める者のうちから市会の同意を得て委嘱する》と定められていますが、具体的な指名基準はなく、国籍の規定もありません。語弊を怖れずに言えば、市長の「趣味」に委ねられます。そのくせ権限だけは強大です。
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