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藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~

藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)

藤井聡

【政府の棄民思想に徹底抗議する】「過疎地の復興は無駄,移住を考えよ」と能登半島地震の被災者に提言する財務省・財政審提言は許し難い暴言である

今日は,南海トラフ地震の「注意」情報についてさらに書こうと思っていたのですが,目を疑うようなトンデモナイ,ニュースが飛び込んできました.

 

「能登の復旧・復興「コスト念頭」 財務省、被災地は人口減」

財務省は9日、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会を開き、能登半島地震の被災地の復旧・復興は「将来の需要減少や維持管理コストも念頭に置き、住民の意向を踏まえ、十分な検討が必要だ」と訴えた。「被災地の多くが人口減少局面にある」ことを理由に挙げ「過去の災害の事例も教訓に集約的なまちづくり」を提言した。

 復興が本格化する中、無駄な財政支出は避けたいとの立場を明確にした。

https://www.47news.jp/10766174.html


要するに財務省の財政審議会は,

 「過疎地の復興は無駄」

だと断じ,

 「そんな過疎地に住んでた人間は移住しろ」

と言っているわけです.

 

これはまさに棄民思想.つまり,「政府であるにも関わらず民を捨て去り,見殺しにする」思想そのもの.「政府は遂にここまで腐ったか」と思わざるを得ぬ暴言です.国民は「自衛」のためにもこんなあからさまな棄民思想を顕わにする政府を絶対に許してはなりません.

 

この政府の棄民思想は,この審議会の増田寛也会長代理の次の言葉にも明確に表れています.

 

「家の片付けが進んでない地域に、将来の議論をしようと言っても難しい」

 

あまりにも酷すぎるもの言いです.

 

家の片付けすら済んでいない方々だからこそ,「大丈夫,なんとかしますから安心して下さい.オカネの心配なんて何もしなくても大丈夫です」という態度を国家は取る必要があるのです.必ず街を復旧,復興させまるという「将来の議論」を通してはじめて,被災地の方々に希望が生まれるのです.

 

つまり増田氏は「家の片付けも済んでないから未来の議論はできない」と言うわけですが,それとは逆に「未来の議論があるからこそ家の片付けをしようと思うようになる」のです.誠に以て許し難い話です.

 

それにも関わらず,家の片付けも済んでいない被災者の方々に「もうオカネがないから復旧・復興なんて難しいですよ.移住考えてくださいよね」なぞと,政府が公式に言ってのけるなど,見殺しの思想そのものです.

 

こうした政府による「棄民思想」的態度に対して徹底批判すべく,まさに今週,元国交省技監の大石久和氏と出版したのが書籍『国土は日本人でできている』https://www.amazon.co.jp/dp/4819114387)です.

 

本書では過疎地における「棄民」や将来の災害における想定被災地における「棄民」など,様々な棄民思想批判を展開しましたが,その中でも特に強く非難したのがまさに,能登半島地震の被災者に対する棄民的態度です.

 

実際,大石氏は次のように本書の中で語っています.

 

『大石 能登半島地震ではもう一つ、非常に憤りを感じたことがあります。それは新潟県知事を務めた米山隆一さんがX(エックス)で、こう投稿したのですね。

「非常に言いづらい事ですが、今回の復興では、人口が減り、地震前から維持が困難になっていた集落では、復興ではなく移住を選択する事をきちんと組織的に行うべきだと思います。地震は、今後も起ります。現在の日本の人口動態で、その全てを旧に復する事は出来ません。現実を見据えた対応をと思います」(二〇二四年一月八日)

と。この人は、本当に過疎地を多く抱えている新潟県の知事をやっていたのだろうかと思うぐらい、ひどい発言だと感じました。

 われわれは何をするにしても、誰一人として日本人を失うことがあってはなりません。それと同じで、寸土といえども毀損させていい地域があるはずはないのです。われわれは、いただいた日本の国土をそのまま次の世代に引き継いでいく責任があります。そこに人が住んでいなければ、国土は荒れていくしかないわけです。』

(出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4819114387第六章『棄民思想がはびこっている』p154)

 

本当に酷い話ですが,恐るべきことに,この言語道断の米山発言は,SNS上でさして批判されることも炎上することもなく,世間からほぼスルーされたのでした.

 

つまり,この令和日本には,棄民思想が文字通り蔓延ってしまっているのです.そして今回の財務省の財政審の「過疎地の復興は無駄.そんな過疎地に住んでた人間は移住しろ」と言わんばかりの提言は,この空気を捕まえて出されたものなのです(無論,財務省は「そんな事言ってない!」「移住も選択肢の一つだと言ったに過ぎない」なぞと言うでしょうが,復興のための事業費を所管する財政当局が,被災者にそんな選択肢を提示するだけでもはや言外に「移住しろ」と言っているに等しいものです).

 

しかし,一昔前の平成日本では,そういう空気は必ずしも支配的ではなかったのです.『日本人は国土でできている』の以下の一節をご覧下さい.

 

『藤井 東日本大震災のときも、実はそういう声を政府近辺で聞きました。主に経済官僚や財務官僚からそういう声が出ていました。霞が関、永田町ではずっと囁かれていた発言なのです。東日本大震災のとき、まったく米山さんと同じものの言い方が暴露されたニュースがありました。

経産省の役人が自身のブログに「復興は不要だと正論を言わない政治家は死ねばいいのに」「もともと滅んでいた過疎地」「じじぃとばばぁが既得権益の漁業権を貪る」等と暴言を書き込んでいたのです.…

… … …(記事全文3,622文字)
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