… … …(記事全文3,620文字)松本人志さんの性加害スキャンダルの件は、文春が三週にわたって様々な証人を登場させ、ついに今週は実名、顔出しで性加害を訴える記事まで掲載されました。
松本さんは事実無根である、という発言は撤回しておらず、かつ、数億円の損害賠償を請求する裁判を起こすと宣言しています。
しかし、大方のミカタは、松本氏の戦いは相当に厳しいだろうというもの。なぜなら、これだけ多くの証人が「MeToo」で名乗りを上げている案件で、裁判長が、「この証人が全て嘘をついている」と判断する可能性は限りなくゼロに近いからです。
もちろん、松本さんが訴える記事(最初の記事)の「一部」について何らかの事実誤認があり、それについて松本さんの名誉毀損が部分的に認められる可能性はもちろん存在しますが、記事の内容のあらかたの部分が、裁判所において一定の事実性があるものとして認定される可能性は極めて高いと考えざるを得ません。
いずれにしても、部屋飲みがあり、かつ、そこでの性行為があったこと自体は後輩芸人達も認める発言がでてきており、しかも、松本氏自身も、同様の認識を示唆するツイートをされていることですから、「記事内容が完全に事実無根」である可能性は既にゼロといって差し支え有りません。
後、争点となり得るのは、「合意の有無」ということですが、松本氏が社会的な強者であるという前提から考えると、松本氏の「合意があった」という主張が認められる可能性は、その点において限りなくゼロであると思われます。
いずれにせよ、記事によれば、20年近く前からこうした不特定多数と性的な関係を後輩も同席/援助する恰好で松本氏が繰り返しているとのこと。
これを見た時に思い出したのが、かつてまっちゃんが若い頃、横山やすしや西川きよし、三枝、難波先生等のお笑い界の重鎮達を徹底的にこけにしたコント。
まっちゃんが登場する迄は、上方(大阪、京都)のお笑いは、師匠がいて、その師匠が弟子を育てる、というもの。いわば、今の落語の世界と同様の師匠と弟子システムで、芸人が育てられていたのですが、まっちゃんは、吉本興業が立ち上げた、お笑いの専門学校NSCの第一期の卒業生として、いわば「師匠」がいない初めてのお笑い芸人となったのです。
だからこそ、まっちゃんは師匠筋の重鎮お笑い芸人達を徹底的にコケにして笑いをとっていくことができたのです。
当時の僕にとって(というよりも、今からみても、ですがw)、それはそれは大変に新鮮な笑いで、ひぃひぃいいながらメッチャクチャに笑っていました。
師匠筋をコケにするなんて笑いは、当時のお笑い界では絶対に御法度だったからです。我々関西社会では、大御所のお笑い芸人とは大きな権力者で弄っては絶対にいけないものだったからです。
ぜったいやっちゃイカンことをやっている―――その途轍もない「禁断の笑い」が、鳴り物入りの古い漫才や松竹新喜劇の人情話にウンザリしていた当時の関西の若者達の絶大な人気を集めたのです。
そんなまっちゃんの大ファンだった当時の僕は、この笑いが永遠に続くことを心から願っていましたが(特に、「一人ごっつ」に至っては、それはもはや、求道者による神聖なお笑い空間だと認識していました)、これがそんなに長く続くはずがない、とも認識していました。
なぜなら…
藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~
藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)