… … …(記事全文2,821文字)表現者クライテリオンの最新刊が明日、発売となります。今回の特集は、
「インフレは悪くない、悪いのは低賃金だ!」
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これは、とかく皆に嫌われるインフレですが、インフレには実は良いところもあるのであって、完全な悪者扱いをしてはいけない、賃金が上がるように仕向けれることができれば、インフレは素晴らしいことなのだ、という点を、様々な論点から徹底的に論じた特集です。
要するに今のインフレは、資源や食料などの輸入品が高騰したことで導かれたもので、「悪い」側面があることは間違いない(要するに、コストプッシュインフレ、という奴です)。なぜなら、消費者が物価高騰で余計に払ったおカネは基本全て外国に流れ込み、日本人の賃上げには直接は貢献しないからです。ですが、今のインフレですら善い側面があります。
第一に、あらゆるモノが上がり始めると、労働市場のサービス対価、つまり「賃金」も上昇するからです。実際、賃上げが今、進んでいます。もちろん物価上昇率の方が高く、実質賃金は下がってはいますが…それでも、名目だけでも賃金が上がるのは良いことです!
第二に、物価が上がると、消費者が価格が上がることに慣れ始め、その結果、各業者は物価を上げやすくなる、という循環が生まれます。その結果、デフレで無理していた業者は適正な価格を付けやすくなると同時に、賃上げもしやすくなるのです。その結果、さらに賃金も上昇する傾向が生まれます。
第三に、物価が上がると、おカネを持っている人達は「今使わないと損だ」と考えるようになり、現時点での消費・投資が拡大することになります。なぜなら放っておくとどんどん、物価が高くなって、買えるものが減っていくからです。
これは、「今使うより、物価がもっと下がった将来に使う方がもっと得だ」と考えて、現時点での消費・投資を冷え込ませるデフレ(物価下落状況)状況よりも、ずっと望ましい状況です。要するにデフレからインフレになるだけで、消費・投資が拡大し、内需が拡大する傾向をもたらすのです。その結果、その拡大した内需は賃上げを必ず導く事になります。
この様に、インフレには、その「原因」が「コストプッシュ」(輸入価格高騰)という「悪いモノ」である側面があったとしても、その「帰結」には、上記3つの理由を通して賃上げをもたらす「善いモノ」である側面もあるのです!
これは、例えば、「実は良い奴だけどちょっとやんちゃな、クラスのヤンキーの様なもの」です。
クラスのヤンキーと言えば、授業中ウルサいし、威圧的だし、とかく一般の生徒にとってみれば迷惑なモノ、であることは間違いありません(それはちょうど、インフレが一般の消費者にとっては嫌なものだ、というのと同じです)。
ですが、ヤンキーは一般の生徒と違って、気合いが入ってるし気概もあるし、何と言っても元気がある。だから、そこに良い担任の先生がいて、上手にヤンキーのその元気さを良い方向に活用することができれば、クラスはもの凄く元気な良いクラスになる。クラスが一丸となって文化祭でも体育祭でも、めっちゃ良い結果を残すことができるし、何と言っても、一般の生徒達も良い思い出がたくさんできることになる。
ところが、そんなヤンキーを、そのクラスの担任がただただ邪険に扱って、高圧的に押さえつけようとすれば、ただ単に暴れ出して、授業が妨害され、学級が崩壊する状況にもなってしまう。
それと同じように、今の「インフレ」も、そのインフレの「元気さ」を担任の先生たる岸田総理大臣が上手に「活用」し、悪い方向でなく良い方向に導くことができれば、一般の消費者や労働者を含めたあらゆる国民が豊かになる、素晴らしい帰結を得ることができるようになるのです。
藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~
藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)