□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2012年4月1日第265号 ■ ========================================================= 福田博元最高裁判事の勇気ある発言を見逃すな ======================================================== 3月31日の朝日新聞に福田博元最高裁判事のインタビュー記事 が掲載されていた。 最高裁判事といえばこの国では国家権力に最も忠実な保守政権の 守護神のような存在だ。 最高裁判事を務めるということはこの国では最高の名誉である。 その名誉をみずからかなぐり捨てたと思わせる反逆的発言を、この 福田博元判事は朝日新聞紙上で行っている。 すなわち一人一票という民主主義制度の根幹を否定する一票の格差 問題。 それを容認してきた最高裁を痛烈に批判しているのだ。 彼は言う。 一票の格差の違憲訴訟に最初に向かい合った時、「格差の存在は 民主的政治システムと相いれない」という反対意見を書こうとしたら、 「確立した最高裁判例に反します」と調査官から言われて苦労したと 述べている。 この発言は最高裁の判決が、事実上調査官という司法官僚によって 書かれている事を見事に暴露したのである。 そして福田元判事は言う。 「当時私の意見に同調したのは弁護士出身の判事だけで、多数を占 める職業裁判官、検察官、行政官出身の判事による「(一票格差) 合憲」判断はゆるぎなかった、と。 つまり司法官僚と政権政党の政治家は一体であると言っているのだ。 極めつけはその後に続く次の発言だ。 「・・・最高裁がなぜ国会(政治家)に広範な裁量権を認めてきたの かを考えると、判例が成立した時代背景があると思います。口に出して は言いませんでしたが、厳しい東西冷戦の時代で、東アジアで唯一の 民主主義国だった日本で保守政権が続くためには安定した(政治)基盤 が必要だと考えそのために多少の投票価値の不平等には目をつぶったの ではないでしょうか・・・」 これは物凄い発言なのである。 それはそのまま日米安保体制、日米同盟を聖域視するこの国の政治家、 外務官僚への痛烈な批判でもあるのだ。 冷戦が終わって20年以上も経つというのに対米従属から一歩も自立 できない、いや自立しようとしない、この国の保守政治家、官僚の保身 を批判しているのだ。 しかし私が心底驚いたのはその発言が福田元判事から発せられた事で ある。 ここからがこのメルマガで私が言いたいことだ。 私にしか書けない事だ。 この福田博という元判事は外務官僚から天下った判事だ。 そしてこの福田博という元外交官は自他ともに認める外務省の本流を 歩んだアメリカンスクールの筆頭だった人だ。 実は私がかわいがってもらった数少ない、というよりも唯一の先輩 外務官僚であった。 次官を経て駐米大使になるべき人だったが、次官争いに敗れ、その 代わりとして最高裁判事のポストを与えられた人物である。 その彼はかつて私がまだ入省して間もないころ、問わず語りに次の ように助言してくれたことがあった。 君は優秀な試験で入省したらしい。君はこのまま大人しくしていたら いいのだ、と。 親切な先輩の忠告を聞かずに、私は外務省に逆らってこころざし半ば で外務省を追われることになった。 その福田大先輩が、最高裁判事を務め、大人しくしていれば栄光の ままに官僚人生を終えられたはずなのに、最高裁を正面から批判した のだ。 彼の心境に何が起きたのか。 人は言うだろう。 最高裁判事という天下りをして任期をまっとうして辞めた後に何を言っ ても遅い、と。 私もそう思う。 しかし、辞めた後の残り少ない余生に真実を語って過去と決別する。 これもまた大変勇気のいることなのだ。 むしろ自分に最も厳しい生き方なのかもしれない。 外務省との一切の関係を断ち切った今の私にとって、もはや二度と福田 さんとは交わる事はないだろう。 しかし、私は心の中で彼の勇気をたたえている。 了 ──────────────────────────────── 購読・配信・課金などのお問合せやトラブルは、 メルマガ配信会社フーミー info@foomii.com までご連絡ください ──────────────────────────────── 編集・発行:天木直人 ウェブサイト:http://www.amakiblog.com/ 登録/配信中止はこちら:https://foomii.com/mypage/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

新しいコメントを追加