□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年1月19日発行 第36号 ■ ============================================================= 北洋漁業4社の裏金漁獲事件をどう考えればよいか ============================================================== 日本の北洋漁業会社がロシア国境警備局に裏金を渡して漁業枠を超える 漁獲を行なっていたと報じられたのは昨年12月末であった。 水産庁は1月18日、その違法性を確認し、北海道の漁業会社4社に 操業停止という重い行政処分に踏み切ると発表した。これを19日の各紙 が一斉に報じていた。 その間、この裏金事件はあたかも重大な犯罪のごとく連日大きく報じら れて来た。 確かに漁業法違反は犯罪だ。裏ガネを支払っていたなら贈収賄とか背任罪 とか、さまざまな違法性が問われる。 漁業関係者の中には悪質な者もいたかもしれない。 しかし、それらすべてを勘案してもなお、政府が下した操業停止処分は厳し 過ぎるのではないか。 ただでさえ厳しい経済状況の中で漁業関係者たちの受ける経済的負担の大き さは察してあまりある。 なによりも、今回の事件に関して、日本政府側に責任はないのか。 私はそう思って本件が報じられた当初からずっと注視してきた。 そうしたら、1月19日の朝日新聞「時々刻々」に、今回の逮捕劇の裏に ある様々な政府・官僚側の無策が書かれていた。 漁業関係者は次のように窮状を訴えているという。 「国の決めた漁獲量ではとても商売は成り立たない」、と。 「ロシア海域の北洋漁業はずっと(前から)、違反しないと採算に合わない 構造」だった、と。 違反しているかどうかは(ロシア側)係官のさじ加減ひとつ。恐怖心も 手伝って、「裏金」が常態化していった、と。 朝日の記事のハイライトは、毎年の漁業枠を決める日露漁業交渉の実態を 記す次の記述だ。 ・・・昨年11月末、農林水産省の庁舎で水産庁、外務省の幹部と、 ロシア側の連邦漁業庁、国境警備局の幹部らが向かい合った。ロシア側が 主張する排他的経済水域(EEZ)における、日本側の漁獲枠を決める漁業 交渉だった。 漁を認めてもらう代わりに日本側が支払う「協力費」の額がロシア側から 示される度に、水産庁職員が別室に向かった。待機するのは日本の漁業会社 の幹部ら。会社幹部が直接ロシア側に訴える場面もあった・・・「実際に カネを出すのは業者。伺いを立てないと、我々は勝手には決められない」。 水産庁幹部はそう説明する。 交渉終了から約3週間後の昨年末、国境警備係官への裏金提供が発覚。 「国も漁獲枠の超過を知っていたはずだ。係官への袖の下も見て見ぬ振りを していたのだろう」(4社の関係者の一人)・・・ この朝日の記事のポイントは、ロシアの排他的経済水域で操業させて もらうのも、漁業枠を勝ち取るのも、すべて協力費という名の下で漁業会社 が支払う金で決まるということだ。 政府間で決められる漁獲枠も、裏ガネをつかませて超過漁獲量をお目こぼし してもらうのも、すべて漁業会社の支払う金で決められるという事だ。 そこには日本政府のロシア政府に対する働きかけや交渉は微塵も感じら れない。 極めつけは、ロシアの排他的経済水域の設定は、北方領土問題に絡む日露 の政治的力関係によって不利に設定されているという事実である。 竹島問題を抱える韓国や、尖閣問題を抱える中国と比べて、圧倒的に不利な 排他的経済水域を日本政府はロシア政府に飲まされているのだ。 これは対露外交の敗北である。日露関係における日本政府の交渉力のなさが 日本の漁民を追い込んでいるのだ。 おまけにロシアから威嚇発砲されて犠牲になっても日本政府は守ってくれ ない。安全を裏ガネで買っている側面もあるのだ。 その一方で、裏金を日本の漁業会社からもらったロシア国境警備局がロシア 政府から罰せられたという話は聞かない。 北洋漁業関係者に同情もしたくなる。 国民を守らない日本政府の冷たさが見えてくる。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)