□■□■ 【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ 天木直人のメールマガジン 2009年5月24日発行 第197号 □■ ────────────────────────────────── ■ ノンフィクション作家の功績とそれを引き継ぐ政治の責任 私のもとには定期的にいくつかの会報誌や雑誌が送られてくる。かつて私が 講演を頼まれたり、寄稿文を寄せたりしたところが厚意で送ってくるのだ。 そのなかに、東日本JR労組の「セミナー」という会報がある。その最新号に、 ノンフクション作家佐野眞一がJR政経セミナーで述べた講演録の要旨が掲載 されていた。 JR政経セミナーはいつも良質の講演者を呼んで話をさせているのだが、 「誰も書かなかった昭和史」という演題で話した佐野眞一氏の講演も極めて興味 深いものであった。 その講演で、佐野氏は、取材で関係者から聞いたという貴重な話の一端を披露 している。 たとえば、小渕官房長官(当時)が国民の前に掲げた「平成」という文字は、 その後世田谷、代沢の竹下邸に飾られていて、孫のDAIGOが時々持ち出して 「これを爺ちゃんがもらったんだ」などとやっている話。 岸信介氏が満州を去って日本に戻ってきた時に、「満州国は自分の最高傑作だ」 という名文句を残したという話。 沖縄を米国に「くれてやった」事を昭和天皇は晩年までたいへん心を痛めて いたという話。 沖縄県警の定年間際の刑事部長が、「新聞記者だったらこれを脳みそに刻んで おけ」と言って涙を流しながら、米軍の犯罪にかかわる、口ではとてもいえない ような陰惨な写真を焼いて証拠を永遠に闇に葬った話、それを取材先の沖縄で 仲良くなった琉球新報の記者から聞いた話。 佐野氏が明らかにしたそのような話の数々の中で、このメルマガでは12年前の 東電OL事件とアジア人差別の話について考えてみたい。 佐野氏は、被害者である渡邊泰子を殺害したとされているゴビンダという ネパール人は、完全なる冤罪だと断言した上で、次のような「真実」を述べている。 東京地裁で無罪になったその事件は、東京高裁で逆転有罪となり、無期懲役に なる。その途端、ゴビンダはあまりうまくない日本語で、「神様、私はやって いない」と叫ぶ。 佐野はその光景をまざまざと思い出すとともに、この事件は最高裁にまで上告 されるが、結局棄却され、ゴビンダの無期懲役が確定してゴビンダは横浜刑務所に つながれることになった、と教えてくれる。 その後、佐野氏はそのゴビンダに何度も会いに行き、ゴビンダの不屈の気持ちを 知って感動する。 無期懲役といえども20年以上が経てば仮出獄で出てこられる。ゴビンダはもう 12年も服役している。しかしゴビンダは無実をはらすため再審請求をする。 ゴビンダは、弁護士の助言をあえてさえぎって、仮出獄が遅れる事を承知で 再審請求の道を選んだ。「私はやってないんだから、断固やります」と言って。 その事について佐野眞一は次のように書いている。 ・・・この犯罪の裏側にあるのは、『アジア人差別』だと思います。 たとえば、ヨーロッパ人がもし容疑者であったなら、こんな事が起きなかったし、 アメリカ人でも中国人でも起きなかったと思います。中国は巨大なプレッシャー グループです。それから朝鮮半島の人であっても起きなかったと思います。 ここもかなり強烈なプレッシャーグループです。 僕がすごく印象的だったのは、ネパール大使館に、『あなたがたは、母国人が こんな目にあっているのに、何故抗議しないんだ』、と。 その時ネパール大使館員は多くを語らなかった。後で知ったのですがネパールに とって日本からのODAが最大のものなのです。だから文句が言えないんです。 そういう構造のなかであの冤罪事件が起こったのです・・・ 私はかつて外務省にいた時、経済協力を担当していた事がある。佐野氏のこの話を 聞いたとき、かつて経済協力局の幹部が、ある小国の大臣に、援助が欲しければ 言う事を聞けといって、外務省の都合を押しつけていた事を思い出した。 悲しい話である。やりきれない話である。 このような「事実」を取材を通じて我々に教えてくれるノンフクション作家の 功績に私は敬意を抱く。 同時に、誰かがこの不正を正さなければならない。それはもはや ノンフィクション作家の手を離れ、それを知った我々の責任である。 我々の責任という事は、我々を代表して世の中に貢献する政治家の責任という ことだ。 政治家は、国会で論争するだけが仕事ではない。ましてや政争に明け暮れたり、 自らの選挙運動に奔走していればいいとういう事ではない。 世の中の不正に敢然と立ち向かい、救いのない弱者を助け、守る事である。 政治がそれを知って動かなければ、ノンフィクション作家の体を張った報告も、 ただの好奇心の対象で終わってしまう。やがて忘却とともに、何もなかった事に なる。 ───────── 天木直人のメールマガジン 2009年5月24日発行 第197号 発行者:天木直人 著者ブログ: http://www.amakiblog.com/

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