□■□■ 【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ 天木直人のメールマガジン 2009年5月14日発行 第185号 □■ ────────────────────────────────── ■ 限りなく遠のいた北方領土問題 プーチン首相はさぞかし笑いをかみしめて離日したことだろう。北方領土 問題で内部分裂する日本を尻目に、得るものだけ得て帰ったからだ。 そもそも領土問題などという国家の基本がかかっている外交問題の解決は、 国力の充実と、国家の一致した意思統一がない限り実現はおぼつかない。 現在の彼我の国力はどうか。麻生首相とプーチン首相の指導力の強弱を 見れば一目瞭然だ。日本国内の政治、経済情勢の衰弱を考えると、その答え は明らかだ。 今の日本の国力で、まともな領土交渉などできはしない。 おまけに、弱体な今の日本の国力に加えて、突如として国家の意思統一の 脆弱性が表面化してしまった。 それは言うまでもなく谷内政府代表の3・5島返還失言と、それに対して 猛烈な勢いで起きた反発のことである。 その反発が、たとえばきょう5月14日の産経新聞の桜井よしこの 「領土問題1ミリも譲るな」、という論評で見られるような、おなじみの 愛国、保守主義者からの反発だけなら、話は別だ。 しかし、谷内発言に対しては、そのような右翼的反発に加えて、歴代外務省 幹部がそろって猛反発をしている。これは深刻だ。 ここに、北方領土問題の難しさがある。国論を分裂させた谷内発言の責任の 重さがある。 読者の皆さんは5月11日の各紙に北方領土に関する緊急アピールという 大きな意見広告を目にされたことだろう。 財団法人日本国際フォーラムが音頭をとって、プーチン首相訪日にタイミング をあわせ、わが国固有の領土である北方領土4島の返還を譲ってはならないと 訴えるアピールだ。 それは一見すればプーチン首相のロシアに訴えているように見える。 しかしそれは、思いつきや功名心で妥協しようとしている麻生首相と 谷内政府代表への、痛烈な批判なのである。 このアピールの異様なところは、アピールに連盟する者たちの圧倒的多数が、 歴代外務省OB、しかも次官経験者、旧ソ連・ロシア担当局長経験者の ほとんどを網羅したOBである、ということである。歴代の外務省幹部OBが こぞって、一人の前外務事務次官を批判する事は、前代未聞の異様な事だ。 なぜそのような強い反発が外務省OBから出たのか。 そもそも北方領土返還問題は、突き詰めると、不当に占領されたわが国固有 の領土について、あくまでも筋を通して返還要求し続けるのか、あるいは 実利を求めて部分返還で譲歩するか、という問題である。 そのどちらが正しいか、という事をここで私は断じるつもりはない。 はっきり言える事は、筋を通して4島返還を要求し続ける事は、北方領土問題 の解決はのぞめないということである。それを言い続ける限り、北方領土は 返ってこない。 歴代の外務省責任者は、皆その事を知っていた。知っていながら筋を通して きたのだ。領土の一部でも返ってくればそのほうが実利的だ、という思いは 皆が抱いていたに違いないが、歯を食いしばって原則を貫いてきたのだ。 原則を曲げて妥協しようとした動きは、時の首相や外務官僚の功名心から、 確かにこれまでにも何度かあった。あの鈴木宗男でさえそうだった。しかし、 そのいずれも、4島返還の原則をギリギリのところで堅持した。 それを、今回の麻生首相と、麻生外交を動かしている一人の元外務官僚が、 バナナの叩き売りよろしく、思いつきで発言する。 歴代の先輩外務官僚が歯を食いしばって貫いてきた原則を、いくら谷内氏が 麻生首相の政府代表となって麻生首相を意のままに動かせるからといって、 ここまで簡単に放棄する。 つけあがるな、思い上がるな、という反発があがるのは当然である。 それにしても今度の北方領土問題をめぐる大騒動には国民の視点がまったく 欠如している。国民の声が無視されている。 国民を無視して政治家や官僚が独占する外交に、強い外交などできるはずはない。 ───────── 天木直人のメールマガジン 2009年5月14日発行 第185号 発行者:天木直人 著者ブログ: http://www.amakiblog.com/

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