■□■□■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ □■□■ 【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ 天木直人のメールマガジン 2009年4月8日発行 第136号 □■ ────────────────────────────────── ■ 桜のある風景 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「今年もまた桜の花が咲き出した。世の中がどうであれ、春が来れば 必ず咲くものだ、と当たり前のことにいまさら感嘆して眺めた人が古来、 たくさんいたはずだ。人生のはかなさを思うにつけても・・・」 こういう書き出しで始まる作家古井由吉(よしきち)の随筆が4月8日の 毎日新聞に載っていた。 その中のいくつかの文章を抜書きして紹介したい。こういう文章を書いて いるほうが私の心は優しくなれる。 そういえば先日京都の路地を散歩していた時、あまりの桜の美しさに思わず 足を止めてしばし眺めていた事があった。 ふと気づくと着古した和服姿の一人の老人が微笑みながら語りかけてきた。 「きれいやろ、一人で観るのはもったいないぐらいや・・・」 「ほんとうにそうですねえ」、そう答えてしばし二人で眺めた。 古井由吉の次の文章を読みながら私はその時の事を思い出していた。 ・・・桜とて、そんなに長大な寿命に恵まれているわけではない・・・往年は 春爛漫の精のごとく光を放っていた桜がいつか老いて、それから十年ほどの間 は老いの幽玄の艶を見せていたが、雪折れのあった年を境にめっきり衰え、 やがては人の邪魔にもされて、低く垂れた大枝を無残にも切られ、今では皺皺の 幹から小粒の花を吐いて、名残の華やかさを密かに訴えている・・・ ・・・マンションの二階になる拙宅の南のテラスのすぐ外から、春ともなれば 間口いっぱいに、豪勢な花の屏風をひろげて、部屋の内を花の色に染めていた 桜が・・・丈が伸びて三階へ押しあげられてしまった。貧相な若木だった頃の ことを知っているんだ、と年寄りはつぶやく・・・ ・・・あの桜の木はいまごろどうしているのだろう・・・4月の晴れ上がった 正午の空に、警報のサイレンが鳴り渡ったかと思うと、敵機を迎え撃つ高射砲 の音が炸裂しはじめ、あわてて防空壕へ駆け込もうとする子供の、すぐ目の先に いまや満開の花がひろがり、子供があせればあせるほど、のどかに風にさやぐ ように見えた・・・ ・・・遠くで夕日に霞む花を電車の窓から目にとめて、あれは桜かい、と一人が たずねる。いや、あれは桜だよ、と一人が答える。そうか、桜かと思った、と 一人が首をかしげる。落語のような三人の問答を、実際に聞いた事がある。 三人とも仕事に疲れた様子だった・・・ ・・・親の寝ている病院へ通った時期がある。そういう境遇にある人間の常と して、うつむいて歩く・・・一斉に発進する車の音に耳を聾されてふっと目を あげると、交差点の角に、大枝を詰められた桜が、ひょろりと伸ばした小枝に、 花をいっぱいに咲かせている・・・ ────────────────── 天木直人のメールマガジン 2009年4月8日発行 第136号 発行者:天木直人 著者ブログ: http://www.amakiblog.com/ 読者の皆様からのメールをお待ちしております。このメールマガジンに返信して いただければ、著者まで届きます。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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