天木直人のメールマガジン ─反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説 2009年3月8日発行 第0091号 覇権大国が手を結ぶ事の恐ろしさ 核軍縮について米国とロシアが合意したという国際報道が、あたかも喜ばしい ニュースのごとく3月8日の新聞紙上をにぎわしていた。もっとも、米ロともに 相手に対する不信感は根強く、これが本物の両国の協力関係に発展していくかは 疑わしいと、留保づきで報じられてはいる。 それでは、米ロの関係が良好になれば世界は平和になるのか。世界の人々が 幸せになれるのか。この問いかけは極めて重要な意味を持っている。この報道に ある核軍縮問題の例をとって考えて見よう。 世界から核兵器がなくなる、少なくともその方向で皆が核軍縮を行う事に 合意する。それを核の二大保有国である米ロが率先して行なう事に合意した。もし 今度の合意がそういう事であれば、もちろん大歓迎だ。しかし今度の合意は決して そのようなものではない。 いま仮に覇権国家の定義を、「軍事力を背景に自国の国益実現を優先する大国、 もしくは潜在的大国」と単純化して定義づけるとしよう。米国やロシアは 紛れもなく覇権国家であり、中国もまた覇権国家である。 二大覇権大国である米ロが、覇権国家としての自国の国益を二の次にして、 世界の国々や人類の平和と繁栄の為に譲歩し合うという事はありえない。たとえ 核軍縮に関する合意が米ロの間で結ばれたとしても、それはお互いにとって国益 を損なうものでは決してない。それどころかそれぞれの思惑による取引に過ぎない。 3月8日の読売新聞はいみじくもヒラリー・クリントン米国務長官の共同声明 発表記者会見での次の言葉を報じていた。 「米ロは大量破壊兵器の拡散を深く憂慮する。我々は、この大切な分野で世界を リードする責任がある」、 「(米ロ)両国はアフガニスタン、中東、イランについて協力を深めていく」 どうだ。これを要するに、米国は「テロとの戦い」という名のパレスチナ 弾圧政策を最優先事項であると宣言し、「テロ」が核兵器を持つ事は絶対に 許さない、そう米国は世界に宣言しているのだ。 もしロシアが、パレスチナ問題を自国の国益にとって二の次と考え、米国の 「テロとの戦い」に協力するかわりに、自国にとってより重要な見返りを米国 から取り付けよう、その見返りが得られるなら米国に協力してもよい、と考える ようになったらどうか。 パレスチナのハマス弾圧やアフガンにおける反米武装組織の掃討作戦が、米ロの 了解のもとに一気に進む事になる。非人道的な弾圧と殺戮が放置されることになる。 それを誰も止められなくなる。要するに覇権国家が手を結べば、何でもできる事に なる。これほど危険な事はない。 私はパレスチナ問題の将来を危惧している。もし米ロとイスラエルがハマス排除 を決め、ECがそれを追認するような事になると、ハマスは一方的な悪として 地球上から抹殺されてしまう。ハマスを支援するイランやレバノンのヒズボラが 絶対悪と見なされて彼らへの攻撃が許される事になる。彼らの抹殺によって 中東和平が達成される事になる。そこに正義がなくても、力が正義となる。 覇権勢力が手を結ぶ事の恐さを我々は知らねばならない。しかしそれは国際政治 においてだけの話ではない。国内政治もしかりだ。政官財支配、いやそれに加えて メディア、警察、検察、司法、が手を結んだ勢力に、小沢なき民主党が加わったら どうか。小沢なき民主党と自民党の見せ掛けの政権交代ごっこや、政界再編後の 保守大連立政権を想像してみたらいい。 そこでは体制に反対する声は見事に弾圧、抹殺され、人権までもが拘束される ようになる。対米従属が固定され、憲法9条がかなぐり捨てられる。そのような 日本が、この国には戦前には確かにあったのだ。

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