… … …(記事全文4,887文字)「コロナワクチンを打ったおかげで、重症化せずに済んだ」
この一文が「非科学的」であることを理解している人が、どれくらいいるだろうか。コロナが軽症で済んだのは、もともとウイルスにその程度の毒性しかなかっただけで、それを防ぐ効果がワクチンにはなかったのかもしれない。あるいはコロナワクチンで免疫がおかしくなったために、本来なら罹らなかったはずのコロナに感染したことも考えられる。つまり、逆効果だった可能性すらあるわけだ。
もちろん、コロナが重症化せずに済んだのは、ワクチンのおかげだった可能性もある。だが、これらのシナリオのうちどれが「正解」なのか、この個人のエピソードだけでは判別できない。「コロナワクチンを接種した」「コロナに罹ったが軽症だった」という出来事の間には、上記のように様々な論理的シナリオが考えられ、そのどれもが完全には否定できないからだ。
にもかかわらず、X(旧ツイッター)を眺めていると「原因」と「結果」を安直に結び付け、「重症化せずに済んだのは」「ワクチンを打ったおかげ」と断言するような投稿が後を絶たない。しかも、これに類した内容を、本物と思しき医師までもが、平気で投稿している。それを見て、私はニッポンの科学リテラシーの低さにがっかりする。きっと、ワクチンを打たせたいから、こんなふうに書くのだろう。しかし、個人のエピソードだけでは因果関係がはっきりしないのに、そのおかげであるかのように人々を誤認させるのはアンフェアではないか。
フェアに記せば、「コロナワクチンを打ったから、ターボがんになった」といった言説も、科学的ではない。急速に進展するがんを発症したのは、ワクチン以外が原因かもしれない。もちろんワクチン接種後にがんになる人が増えたという印象を元に、社会に警鐘を鳴らすことが間違いだとは思わない。むしろ薬害を拡大させないために、人々に起こり得るリスクを周知するとともに、科学的な検証を求めるべきだ。だが、それをあたかも「確定した事実」であるかの如く流布してしまったら、こちら側もフェアとは言えなくなってしまう。
そもそも「科学的」とは、どういうことなのか。Googleで検索すると、AIによる次のような概要が出てくる。
「科学的」とは、客観的な観察や実験に基づき、再現性があり、論理的・体系的に検証され、根拠をもって説明できることを指し、実証的で合理的な態度や方法論に合致している状態です。これは、個人的な思い込みや非科学的な俗説(占い、オカルトなど)と区別され、誰がやっても同じ結果になるような普遍的な法則や仕組みを探求する姿勢や知識体系のことです。
「科学的」な特徴
実証性・客観性: 観察や実験による裏付けがあり、個人的な主観を排除する。
再現性: 同じ条件で実験すれば、誰がいつ行っても同じ結果が得られる。
論理性・体系性: 物事が筋道立っており、知識が体系化されている。
因果関係: 原因と結果の関係が明確である。
反証可能性: 誤りであることが証明されうる性質(批判を受け入れ、理論を更新する姿勢)を持つ。
これは、京都大学理学研究科・理学部のホームページに掲載されている、ある研究者が書いた文章をまとめたものだ(https://sci.kyoto-u.ac.jp/ja/academics/programs/scicom/2015/201602/04)。私もまったくその通りだと思う。このような科学観に基づいて、臨床医学においても検査、薬、手術等の有効性と安全性を「科学的」に検証するための「EBM」(Evidence Based Medicine:根拠に基づく医療)の方法論が確立されてきた。
私にはEBMをきちんと解説する十分な能力も資格もないが、少なくとも臨床医学において科学的にフェアな結果を出すためには、次の条件を満たす臨床試験を行う必要があると考えている。
1.対照群を設ける
2.被験者の数を確保する
3.比較するグループ(群)間のバイアス(偏り)をなくす
4.比較するグループ(群)間のデータに統計的な有意差があるかどうか検証する
5.複数の試験を行って再現性を証明する

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