… … …(記事全文1,250文字)トルストイの『アンナ・カレーニナ』を読了し、この毒々しい作品に激しい敵意を抱いたが、伝記を読んでトルストイという近代的害毒の正体を見たと思った。
『アンナ・カレーニナ』は恋愛小説でも恋愛の悲劇でもない。アンナは暴力性の極限だし、アンナの暴力性には、彼女を追い込み、傷つけ、最終章で侮辱してみせるトルストイの暴力性だけが似つかわしいと言いたくなるほど過激なものがある。『アンナ・カレーニナ』は火で火を焼いて、灰さえ残さない。
小川榮太郎「批評家の手帖から」
小川榮太郎(文藝評論家)