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吉富有治の魔境探訪 - 政治という摩訶不思議を大阪から眺める

吉富有治(ジャーナリスト)

吉富有治

【無料再配信・2021年12月1日号】対維新の"最終兵器"か れいわ新選組の可能性と限界について
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 れいわ新選組の山本太郎さんが政界を引退すると発表した。れいわも党名を変更し、今後は新体制で臨むとした。勢いのあった同党はどこでつまづいたのか。以下は2021年12月1日に配信したメルマガで、れいわの勢いに触れている。れいわに大きな転換が訪れたこともあり、今回は無料で再配信したい。とくに読んでほしいのは最後のくだりである。なお、5年前の記事なので時制や事実関係、肩書等は当時のままであることをご了承願いたい。


 * * * * * * * *


 今回の衆院選で最も注目すべき点は、大阪の小選挙区で日本維新の会(以下、国政維新)が約4倍に議席数を伸ばしたことと、逆に自民党大阪府連所属の候補者が軒並み落選したことだろう。この件については前回で既に書いた。それに加え、もう1つ注目したいことがある。れいわ新選組(以下、れいわ)の山本太郎代表をはじめ、計3人が比例で当選したことだ。わずか3人の小規模政党ではあるが、いずれ大阪維新の会(以下、維新)や国政維新を脅かす存在になると思っている。


 れいわは他党にはない特徴を備えている。それは「熱」である。ここで言う「熱」とは人々の熱気であり、期待感と言い換えてもいい。もっとも、この熱の塊はまだまだ小さい。だが、海水の温度上昇が雲を作り、それが台風へと成長するように、れいわが帯びる「熱」は今後、ますます上昇し、人々を大きな渦へと巻き込む可能性がある。


 また、今回の衆院選でれいわは新たな"スター"を生んだ。大石あきこ衆院議員である。


 大石が世間の注目を浴びたのは今回が初めてではない。大石が大阪府職員だった2008年3月、この年に大阪府知事に初当選した橋下徹が若手職員向けの朝礼を行なったときに、「どれだけサービス残業をやっていると思っているのですか」と噛みついたのが大石だった。そのときの映像がテレビで繰り返し流されたことで大石は注目され、また橋下を支持する人たちからは「生意気だ」などとの批判も浴びた。


http://www.asahi.com/special/08-09/news2/TKY200811220153.html


 その大石は衆院議員に就任早々、今度は大阪府の吉村洋文知事(維新代表)に強烈な一撃をお見舞いした。さらに、吉村を援護射撃しようとした橋下を返り討ちにし、大いに狼狽させた。これが週刊誌やワイドショーなどで取り上げられ、大石は一躍時の人になった。ツイッターではフォロワーがわずか2日で約2万人も増え、今では5万人以上(11月30日現在)にも達している。ツイッターのフォロワー数が人気のバロメーターなら、大石は間違いなく注目されている。


 きっかけは文書通信交通滞在費(文通費)だった。衆院議員に当選したばかりの国政維新の小野泰輔が11月12日付けの文章投稿サイト「note」に、「文書通信交通滞在費の額がどうにもおかしいのです。10月31日に当選したということで、歳費(いわゆる給料)は日割り計算(約3万円)となっているのですが、文書通信交通滞在費は満額の100万円が支払われました」と書いたことから始まった。


https://note.com/onotaisuke/n/n4a88f38566dd


 小野の書き込みにさっそく吉村が反応した。吉村は同月13日、「どうやら1日だけでも国会議員の身分となったので、10月分、100万の札束、満額支給らしい。領収書不要。非課税。これが国会の常識。おかしいよ」などとツイッターに書き込んでいる。これにテレビなどのメディアが飛びつき、文通費の問題が全国的に知られるようになったわけである。


https://twitter.com/hiroyoshimura/status/1459446482135040000


 ところが、だ。この吉村の書き込みに強烈な一発をお見舞いしたのが大石だった。吉村は市長選に出馬するため2015年に衆院議員を辞職している。ところが辞職日を10月1日付けにしたことで、わずか1日で100万円をゲット。この事実を大石が暴露した。吉村は「おかしいよ」とツイッターに書きながら、自身が「おかしいよ」と批判されそうな行為をしていたわけである。吉村が放った文通費批判は、大きな弧を描いて自分自身のアタマに激突する巨大な"ブーメラン"となった。吉村自身、そのブーメランを認めている。


 もっとも、大石より1日早く吉村の100万円問題を取り上げた人がいた。


https://twitter.com/ourosaka2/status/1459509127579721730


 大石はこの書き込みをリツイートし、その内容をトレースしたにすぎない。だが、大石はこの事実を衆院事務局に確認したこと、また自身が衆院議員の身分であったことなどから話題をさらった。マスコミがこの問題を追ったことで、より大石の知名度は広がった。さらに文通費に関連した話題で、橋下が参戦したことが大石の名前をより世間に知らしめる結果になった。


 さっそく、某ワイドショーが<橋下VS.大石>の話題を取り上げた。ところが某ワイドショーは大石に出演を依頼したが、中身は録画撮りのコメントのみ。一方、橋下はオンライン出演するというアンバランスな構成になった。案の定、番組は欠席裁判のような様相を呈したことから、かえって橋下の評価が下がり、逆に欠席裁判を知りながら録画撮りに挑んだ大石の株が上がる結末になった。


 れいわは今、山本太郎に加えて大石という"新兵器"を持った。しかも、この新兵器は対維新として効果的な威力を持つ。大石自身、ツイッターで文通費に関して「維新を倒すための戦費として私は100万円でも何でも使います」と宣言している。これには橋下をはじめとする維新界わいは大いに反発し、対して維新を毛嫌いする人たちは大石の登場を歓迎している。この歓迎が無党派層を中心に大きなうねりとなり、他党にはない「熱」を帯びることになったのだ。


 れいわが持つ「熱」については、私は何度も目撃している。たとえば、れいわは11月20日、大阪市北区の北区民センターで「山本太郎とおしゃべり会」という集会を開いた。参加は自由。予約も必要ない。そのためか、この集会には開場前から多くの人が集まり、山本が登壇する前から会場は異様な熱気に包まれていた。同日の夜に行われた阪急電車三国駅前(大阪市淀川区)での大石の街頭演説会でも大勢の人が集まっていた。れいわが2020年に大石を次期衆院選(今回のもの)に公認候補にすると発表してから大石は街頭で地道に政治活動に励んでいたが、ここまで人が集まることはなかった。世間にすれば、ほぼ泡沫候補扱いだったのだ。


 私がれいわの強烈な熱を感じたのは、昨年11月1日投開票の住民投票の前からである。大阪市を廃止して特別区を設置するという、いわゆる大阪都構想という愚策に反対するため、関西出身の山本が同年10月中旬から大阪市内に乗り込んできた。市内のあちこちで辻立ちし、そのたびに多くの聴衆が集まる光景を目の当たりにしてきた。


 『「れいわ新選組」の山本太郎候補は本日大阪入りし、現在も大阪市内の街頭で演説中です』とれいわのスタッフが街頭で声を上げると、それだけで足を止める人が出てくるほどだった。演説が始まるとさらに人が集まり、うなずいたり拍手したりする人も少なくなかった。マスコミ記者に話を聞いてみると、この現象は大阪市内のどこでも共通しており、山本を中心とした「熱」がこのときから徐々に大きくなりつつある印象を受けた。


 住民投票前日の10月31日夜、場所は梅田のヨドバシカメラ側にあるJR大阪駅構内のコンコース。ここで山本が都構想に反対するため最後の熱弁を振るっていた。当然れいわの支持者もいたが、多くは道行く人が自然と足を止めてできた群衆だった。山本の声に耳を傾ける人たちは、そのまま立ち止まり、いずれ大きく膨れ上がっていったのだ。


 私はその6日前の10月25日、同じ場所で演説会を開いていた山本を直撃し、なぜ反対運動を行うのかを質問した。このとき山本は「前回2015年の住民投票で『負けたら政治家を辞める』と言っていた人が辞めていない。今回は公明党が手のひらを返した。賛否のパワーバランスが崩れ、(推進派の)説明も詐欺的なものになっている。これはマズいと思うようになった」と反対運動に加わる動機を語っていた。


 その公明党である。昨年10月31日の夜、山本の演説会から少し離れた阪急百貨店とJR大阪駅を結ぶ歩道橋の下で、同党の国会議員や大阪府議、大阪市議たちが「都構想賛成」の演説会を開いていた。ところが彼らの声を聞く者は、ほぼゼロ。むしろ取材する報道陣の数のほうが多かったくらいだ。


 通常なら創価学会員の動員をかけるものだが、さすがに同党が反対から賛成へと手のひらを返したことに気が引けたのか、サクラはいなかったようである。その代わり、「なぜ都構想に賛成なのか」と涙ながらに議員に食ってかかる学会員がいた。議員たちは防戦一方で頭を下げるのが精一杯という有り様。道行く人の足を止められる山本と、道行く人から軽蔑の目で見られる政党との明確なコントラストがはっきり現れていた。


 組織的な動員なしでここまで集客力のある政党や政治家は、今のところれいわか維新以外にない。ただし維新の場合、人が膨れ上がるのは吉村がいる場合に、ほぼ限られる。他の国会議員や地方議員で吉村の応援なしで集客できる者は、まずいない。れいわの場合、山本1人でも人は集まるが、今は大石1人でもそれが可能になった。れいわは山本と大石という2つの"ミサイル"を持ったことになる。


 ここに来てれいわの大石が注目されるようになったのは、明らかに彼女が反維新だからである。ただ、単なる反維新ではない。反維新だけなら大阪の自民党も共産党も、立憲民主党なども同じである。だが、これらの既成政党が組織的動員なしに人を集められる能力は、ない。となると、考えられるのはキャラクターの問題ということになる。なるほど、山本もそうだが、大石のキャラはユニークだ。


 たとえば橋下がツイッターで大石に噛み付いても、大石は両目を釣り上げて怒るような反応はせず、ユーモアで返している。ボクシングでいえば真正面から打ち合わず、クリンチで相手の体力を徐々に奪うといった戦法だ。橋下は肩透かしを食らい、見ている側は大笑いし、いつのまにか大石のペースにはまってしまう。山本が街頭で維新批判の演説をするときも同じだ。タレントだった山本は話術も上手いがユーモアのセンスも高度だ。聴衆を笑わせながら維新の痛いところをチクリと刺している。見ている側も、いつのまにか山本のファンになっている。


 非維新の旗印を鮮明にする他党の場合、どうしても真正面から批判的な論を展開する。直球で正論を押し付ける。ただ、それがど真ん中のまっとうな批判であっても、あまりにも直球すぎて聞いている人は疲れてしまう。自民党や共産党、立憲民主党や連合などの非維新陣営が無党派層への広がりを見せないのは、このような理由からではないか。ユーモアは話の潤滑剤であり、人を飽きさせない。れいわの山本と大石の話術とユーモアのセンスは他の非維新陣営が持たない強力な武器である。


 集客力という点において、れいわと維新は共に優れている。吉村が街頭演説すれば道行く人は立ち止まり、すぐに人だかりができる。ご婦人方からは「吉村さ~ん」といった黄色い声援が飛んでくる。れいわの山本も同じであり、大石も集客力を備えるようになった。なぜか。繰り返すが、れいわも維新も「熱」があるからだ。特に今のれいわが持つ「熱」は、かつて大阪維新が誕生した当時の熱とよく似ている。大阪人の「世直し」への期待感が維新の党勢を拡大させたように、れいわへの期待感にも同じ熱とエネルギーを感じる。


 この「熱」は、かつての橋下人気を彷彿とさせる。ただし、山本や大石の熱のスケールは維新に比べてまだまだ小さい。だが、この小さな熱が渦となり、巨大な台風の目のようになる可能性は捨てきれない。そのユーモアと話術で無党派層だけでなく右派から左派までを取り込んでいる。政権与党が一番恐れるのは、このような熱を帯びた政党なのだ。数の上では立憲民主党や国民民主党、共産党の方がはるかに上だが、熱は渦となって支持層の拡大につながり、いずれ政権を脅かす存在になるからだ。


 維新とれいわ、両党は政策も理念も180度異なるが、新しい政治に対する有権者の期待感は瓜二つだ。人々の期待感は支持政党を拡大する大きなエネルギーになる。ただし、そのエネルギーが向かう方向次第では「善」と思ったものが「期待はずれ」に終わる。いや、期待はずれなら、まだいい。困るのは、いつしか「熱」がポピュリズムになり、それが結果的に国民に害悪を与えることである。これが一番怖い。


 維新が、まさにそれである。大阪維新が自民党を抜いて大阪府議会と大阪市会で最大会派になったのは橋下人気に助けられたからだろう。だが、いつしか大阪維新はポピュリズムに走り、大阪府民や大阪市民に維新の"実績"とやらや、また好イメージを刷り込むことで、ますます勢いを増すことになった。都構想の住民投票を2度も行ない大阪市民の心を疲弊させても、まだ諦める様子はない。数の力で府市一元化条例を制定し、大阪市の解体にエネルギーを注いでいる。


 また国政維新の会は立憲民主党に次ぐ政党へと成長し、自公政権と対立するように見せかけながら自民党タカ派をアシストしつつ改憲への道を開こうとしている。維新が持つ「熱」は支持層を広げるエネルギーになったと同時に、「改革」という一般ウケするスローガンを掲げながらポピュリズム政党の本領を発揮しようとしている。


 れいわにも「熱」と「渦」がある。私の見る限り、今のところ維新に対抗できるのはれいわしかないと思っている。対維新のリーサル・ウェポン、つまり最終兵器である。だが、れいわが持つ「熱」は、まかりまちがうと維新と同じ道を歩む可能性がある。人気取りのポピュリズムに走り、政治的に暴走しないとも限らない。


 政党が自分自身で暴走を防ぐことはできない。その仕事を行うのはマスコミであり、支持者である。民主主義国家において世論こそが政党の暴走を防ぐ唯一の方法である。核分裂は膨大な熱を生むが、それを制御できなければ核兵器となり、制御すれば原子力発電になる。政党も同じだろう。マスコミが維新を監視しないから彼らは好き勝手に暴走する。今後、れいわが拡大成長したとき、マスコミと支持者はこの政党を厳しく監視することである。


 支持者は決して信者にならず、賢明な有権者になることだ。れいわが成長するか衰退するか、まっとうな政治を行うか、それともポピュリズム政党に変異するのか。それを決めるのは我々自身である。(文中・敬称略)


<なお、この記事の無断転載は固くお断りいたします。>




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