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吉富有治の魔境探訪 - 政治という摩訶不思議を大阪から眺める

吉富有治(ジャーナリスト)

吉富有治

★無料配信「テレビと政治家の親和性 情報バラエティ番組にこそ気をつけろ」(2021年4月14日配信号) 
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ウェブで読む(推奨):https://foomii.com/00225/20221004080000100232 //////////////////////////////////////////////////////////////// 吉富有治の魔境探訪 - 政治という摩訶不思議を大阪から眺める https://foomii.com/00225 //////////////////////////////////////////////////////////////// (注) 以下の記事は2021年4月14日に配信したものを一部修正して再配信しています。そのため肩書等は当時のものです。 テレビという映像メディアの特性とは何か。結論から言えば「印象のメディア」ということである。印象こそがテレビの本質なのだ。  例えば、視聴者がテレビ画面を通じて見ているものは「何を語った」かよりも、むしろ「誰が語り」「どんな仕草、表情だった」かである。より具体的に言うと、どんな服装だったのか、ネクタイや髪型はどうだとか、緊張して顔は引きつっていたのか、それとも笑顔を絶やさず余裕の表情だったのかといった外形的なものである。この外形的なものが「よく似合う」とか「ハンサムだ」「顔がキモい」といった印象となり、視聴者の心に深くインプットされるのだ。  極端な話をすると、例えば菅義偉首相を批判する場合、私がコメントするよりも若くてハンサムな人気タレントが批判的にコメントするほうが効果的である。そのタレントのファンはもちろん、多くの視聴者も「そう、その通り」と納得するだろう。テレビタレントや俳優がイメージを重視するのもテレビメディアの特性をよく理解しているからである。  また、テレビほど印象操作に長けたメディアはない。そのため出演する側は、主張の論理展開よりも視聴者に与える印象を考えたほうが得策なのである。逆に、見た目や印象を疎かにすると視聴者の受けは途たんに悪くなる。テレビの中でもその傾向が特に顕著なのが討論やトーク番組だ。だからこそ、テレビ慣れしたタレントや識者らは服装だけでなくソフトな語り口や柔和な表情に努めようとする。  昨年11月1日に投開票された、いわゆる大阪都構想の是非を問う住民投票。この住民投票を前にして関西の各テレビ局は、大阪市の松井一郎市長と大阪市会各会派の代表を招いた討論番組を何度か企画した。反対派代表として呼ばれたのは自民党の北野妙子幹事長と共産党の山中智子幹事長の2人。一方、賛成派は松井一郎市長と公明党の土岐恭生幹事長(当時)ら。松井市長以外の賛成派議員はたびたび交代していたが、すべて男性陣だった。対して反対派は常に北野、山中の2人の女性陣。この対立構造が討論の印象をガラリと変えたと思っている。  と言うのは、私の見るところ松井市長のテレビ映りはあまり芳しくないからである。途中、相手の話を遮って自分の主張を押し通すスタイルが目立ち、これは熱烈な維新支持者の目には「頼もしい」と映っても、一般の視聴者には「うっとうしいオッサン」としか思えなかっただろう。  ただ、話の論理展開としては賛成派が有利に見えるときもあり、対して反対派の女性陣が押され気味になる場面も見られた。しかし印象のメディアであるテレビの場合、視聴者の心に入ってくるのは論理よりも、むしろ見た目、話し方、情緒、雰囲気なのだ。「おいこら!」と言わんばかりに我を通す松井市長に女性陣は困惑しているという印象を受ける視聴者が多かったのではないか。住民投票は反対多数で幕を閉じたが、この討論会も少なからず投票結果に影響を与えたと思っている。  国会での与野党討論はたびたびテレビ中継される。閣僚や官僚の答弁もテレビで放映される。国会中継も見た目の印象が重要になるため、閣僚や官僚による「答えられません」「答弁は控えさせていただきます」の連発は、かえって視聴者に疑問と不信感を募らせる。特に内閣を揺るがすような疑惑に関して答弁する場合、閣僚の「知らぬ存ぜぬ」はかえって悪印象を世間に与え、その後の内閣支持率さえ左右しかねない。  一方、テレビと対照的な存在が新聞や雑誌などの活字メディアである。例えば新聞で紙面討論会などを企画したとして、参加者が話し下手だったとか怖い顔をしていたといった外形的な要素はダイレクトには伝わりにくい。文章の力を借りて読者の想像力に頼る以外ない。  それよりも読者は、文字に込められた話の内容や論理を注視している。こちらは見た目や印象、いっさいの情緒や情感といったものを取り除き、活字のみで読者に内容を訴える。テレビが印象のメディアなら、新聞などの活字メディアは「論理のメディア」と言える。同じメディアでも新聞とテレビとでは、これだけ大きな違いがあるのだ。  昨年2月の話になるが、普段は滅多に見ない昼間にテレビのスイッチを付けてみると、ちょうどフジテレビの『バイキング』という情報バラエティ番組がオンエア中だった。番組で盛り上がっていたトークが、麻生太郎財務相が昨年2月28日に記者へ発した「つまんないこと聞くねえ」発言。コロナの感染拡大が危惧される中、政府が全国の小中高校に休校要請したことを受け、共働き家庭などで両親が仕事を休んだ場合の休業補償などを記者が問うたことに対して、麻生財務相が「つまんないこと」と発言した問題である。 麻生大臣の暴言癖は今に始まったことではないので特に驚かなかったが、びっくりしたのは大臣発言ではなく、スタジオのひな壇に座っていたブラックマヨネーズの吉田敬というお笑い芸人の発言だった。吉田は「麻生大臣にとってはつまらないことかもしれないが、記者があげ足を取る。で、立憲民主党の蓮舫さんが云々」と言い出した。最初、何を言っているのかさっぱり意味不明だったが、要するに吉田の意図は、麻生財務相を擁護し、批判のベクトルを記者と蓮舫氏へ向けるという印象操作でしかなかった。  そもそも「つまんない」も何も、共稼ぎ家庭にとって臨時休校は大変な事態だろう。子どものために仕事を休むとなれば、パートのお母さんならその日の収入はゼロ。庶民にすれば生活に大ダメージを与えかねない深刻な事態である。それが予想できるからこそ記者は麻生財務相に質問するのであり、なのに財務相が「つまんないこと」と言い放つのは不遜と呼ぶしかない。むしろメディアが批判しないほうが不自然であり、あげ足取りでも何でもない。『バイキング』も麻生発言は問題だと思ったからこそ話題に取り上げたのだろうし、吉田が記者の質問を「あげ足取り」というのなら、この番組自身もあげ足取りをしていることになってしまう。  さらに驚いたのは、この吉田のコメントを聞いて司会者を含め周囲はへらへらと笑っていることだった。誰一人、反論しない。これでは視聴者もスタジオの雰囲気に同調し、「吉田さんの言うとおり、悪いのは記者や野党」と勘違いしかねない。情報バラエティ番組の劣化ぶりは目を覆うばかりだと、このときあらためて痛感した。  『バイキング』は情報バラエティ番組というジャンルであり、『NEWS23』のような報道番組ではない。だからだろうか、「バラエティ番組を相手にムキになる必要はない」「誰も真面目に見てないのだから批判するだけ時間と労力の無駄」といった冷めた意見も聞こえてくる。だが、このような「所せんはバラエティ」という冷めた考えが一番危険なのだ。むしろ現代では、情報バラエティ番組こそ真っ先に批判すべき対象と思って間違いない。  何度も言うようだが、テレビは印象のメディアである。そのため報道番組ですら視聴者は「あの事件をどう説明したか」といった論理性よりも、「誰が、どのような口調と表情で語ったのか」かといった見た目と印象に心が奪われがちになる。ましてや情報バラエティ番組の場合、大半の視聴者は「ながら族」である。ザッピング(チャンネルをがちゃがちゃ切り替えながら視聴すること)しながら、あるいは炊事や洗濯、雑用をやりながら見ている。このような状況では、識者や芸能人のコメントは無意識のうちに視聴者の脳内にインプットされる。人々の無防備な心のスキに見た目や印象がすっと頭の中に入ってくるわけで、これほど恐ろしいものはない。だが、むしろ制作側はそれを狙っているから、さらに恐ろしい。  ずいぶん古い話になるが、大阪のMBS毎日放送で夕方の情報バラエティ番組『ちちんぷいぷい』という超人気番組を立ち上げた友人のプロデューサーから、人気番組にのし上がった秘訣のような話を聞いたことがある。当時、『ちちんぷいぷい』の司会者は同局の角淳一アナウンサー。それまで角さんはラジオのパーソナリティーを長く務めていた。そこで番組を立ち上げるに際して、制作側はテレビのラジオ化を目指したとプロデューサー氏は話していた。  ラジオというのは「ながら」の典型のようなメディアで、マイカーやトラックを運転しながら、主婦が掃除をしながら、あるいは深夜に学生が勉強しながら聴くスタイルが一般的である。天皇が終戦を伝える玉音放送のように家族全員がラジオの前に正座して聴くのではなく、何かをしながらラジオを付けっぱなしにしていることが多い。だからこそリスナーはラジオを意識しなければ飽きもしないのだという。  そこで『ちちんぷいぷい』もこのラジオのスタイルを導入した。ラジオ番組のパーソナリティーだった角さんがリスナーに語りかけるように、ゆっくりと、そして聴いているだけでニュースの中身もわかるよう緩やかに話しかける番組が『ちちんぷいぷい』だったわけである。  それまで夕方の他局の情報番組は、ちゃんと見ていないと内容がなかなか頭に入りづらく、そのため夕飯の支度や掃除に忙しい主婦には敬遠されがちだった。そこにラジオスタイルの『ちちんぷいぷい』が参入。夕方には「ながら族」になりがちな主婦層に受け、彼女たちから重宝される人気番組へと成長したわけである。  難しい政治情報をやさしく伝えるという趣旨の情報バラエティ番組がここ最近、増えている。そのためなのか、出演する芸能人の政治発言の頻度も以前に比べて増えているように思う。中にはタカ派的な発言が目立ったり、あるいは菅政権や大阪維新の会の失政には目をつぶり、ただひたすら賛美したり擁護する人も少なくない。  では政権寄りでタカ派的といった芸能人が幅を利かせる番組を、お茶の間でリラックスしている視聴者が見ればどうなるだろうか。多くの視聴者らは活字を一文字ずつ目で追うような構えた態度ではなく、それどころか多くは番組に対して無防備になりがちである。これでは彼ら芸能人の言葉が、そんな視聴者の心のスキにじわじわと忍び込んでくるのも無理はない。  この手法は広告と同じなのだ。何度も同じセリフや映像を繰り返し見せることで商品名やイメージを国民に広く浸透させていくように、政権をヨイショしたり逆に野党批判ばかりのコメントが芸能人の口を借りて発せられると、往々にして視聴者は無批判に「そんなものか」と思いはじめてしまう。大阪なら維新人気に拍車をかけることになる。広告によって商品イメージが刷り込まれる過程とよく似ている。  この原理を理解している権力側の人間なら、自分たちの政策や主張を広く浸透させたければ、お硬い報道番組よりも人気のあるお笑い芸人を使った軟派な情報バラエティ番組を選ぶ方が効果的だと気づくだろう。橋下徹元大阪市長や大阪府の吉村洋文知事が情報バラエティ番組に数多く出演するのは決して偶然ではない。情報バラエティ番組は新聞や報道番組より見ている側の心理的ハードルが低く、ヘリクツだろうが詭弁だろうが、笑顔を絶やさずソフトに語りかけるだけで視聴者の胸に響いていくことを熟知しているからなのだ。  私たちも「情報バラエティ番組だから」と無批判な姿勢でいては、後になって必ず手痛いしっぺ返しを食らうだろう。批判すべき対象かどうかは報道かバラエティかといった番組の性質で決まるのではない。何を語ったか、その真偽はどうなのかという、ごく普通の理性的態度である。(文中・敬称略)    <なお、この記事の無断転載は固くお断りいたします。>   //////////////////////////////////////////////////////////////// 本ウェブマガジンに対するご意見、ご感想は、このメールアドレス宛に返信をお願いいたします。 //////////////////////////////////////////////////////////////// 配信記事は、マイページから閲覧、再送することができます。ご活用ください。 マイページ:https://foomii.com/mypage/ //////////////////////////////////////////////////////////////// ■ ウェブマガジンの購読や課金に関するお問い合わせはこちら   info@foomii.com ■ 配信停止はこちらから:https://foomii.com/mypage/ ////////////////////////////////////////////////////////////////

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